著者 岡島 成行


 東京農業大学の進士五十八学長が20年来続けている調査がある。毎年、新入学生に「私の原風景」というタイトルで文章を書いてもらっているのだが、その多くは、田んぼがあり、小川が流れ、その向こうに里山がある、という風景だという。

 都会育ちの学生も同じような絵を描くそうだ。「おばあさんが川に洗濯に行き、おじいさんは山に柴刈りに行く」という桃太郎のお話にでてくる風景でもある。進士学長は、「田舎育ちでも都会育ちでも同じような構図を想い描くということは、桃太郎の景色は日本人全体の原風景ということではないか」と言う。

 最近、都市と農山漁村との交流が叫ばれているのも、そんな日本人の心情が後押しをしているのだと思う。戦後特に、農山漁村の疲弊が激しく、中山間地域、離島、半島などで過疎現象が進んできた。何でもお金で推し量る世の中になったあおりで過疎化が進んでしまったが、今はその反省期ということもあって、日本人が持つ本来の志向が復活しはじめているのだろう。いずれにしても良いことである。

 夏休みが間近にせまり、どこのご家庭でも山や海に行く計画が煮詰まってきているだろうと思う。今年は思い切って農村や漁村を訪ねてみるのもおもしろいかもしれない。まだ試行錯誤の受け入れ態勢のところが多いが、ネットなどでじっくり探せば掘り出し物にめぐり合えるかもしれませんよ。



■バックナンバー
自然体験の夜明け
自然体験活動のすすめ
自然体験に追い風が吹いてきた
幼児と自然体験
若者たち
私の原風景
シャワークライミング
思い出の黄金色のトンネル
ジャック・モイヤーさんのこと
ジャック・モイヤーさんを悼んで
環境教育推進法が動き出す
NGOから見た環境教育推進法
冬山
都市と農山漁村の交流を考える

■著者紹介

岡島 成行(おかじま しげゆき)
環境ジャーナリスト、大妻女子大学ライフデザイン学科教授教授、(社)日本環境教育フォーラム専務理事、自然体験活動推進協議会代表理事 など。
1944年1月 横浜市生れ。上智大学山岳部OB
読売新聞解説部次長をへて現職。 
主な役職:国土交通省・社会資本整備審議会委員林野庁・林政審議会委員・環境省・中央環境保全審議会臨時委員。環境省・政策評価委員会検討員。文部科学省・中央教育審議会臨時委員など。
著書:「アメリカの環境保護運動」(岩波新書、90年)、「レモンジュースの雨」(共著、築地書館、90年)、「Only One Earth」(桐原書店、91年)、「Green Issues」(桐原書店、93)「はじめてのシエラの夏」(翻訳・ジョン・ミューア著、宝島社、93年)
「地球救出作戦」(翻訳・チルドレン・オブ・ザ・ワールド著、小学館、94年)
「林野庁解体論」(洋泉社、97年)「Echoes of the Environment」(鶴見書房、99年)
「自然学校をつくろう」(山と溪谷社、2001年)など多数。