![]() ![]() ![]() 著者 岡島 成行
アメリカ人の海洋学者で作家のレイチェル・カーソンは、環境問題の深刻さを訴えた「沈黙の春」という本の著者として有名だが、私は、亡くなった後に出版された「センス・オブ・ワンダー」という著作のほうが好きだ。 「沈黙の春」はDDTなどの農薬や科学肥料などによる公害を取り扱い、世界に警告を与えた。非常に重要な本なのだが、「センス・オブ・ワンダー」の方は人間の生き方をじっくりと教えてくれる。癌に侵されたことを知って、死というものを見据えて書いているせいか、文章のどこにも生きることへの慈しみが漂っている。 この本の中でレイチェル・カーソンが特に訴えているのは、子どもと自然の関係を正常なものにしておきたいということだ。子どもは大人より感覚的にはるかに優れている。特に小さな子どもは五感がすぐれている。生まれてはじめて動物園でゾウを見たときにはその大きさに腰を抜かすほどびっくりする。ありさんの行列を30分も見ている。いろいろな葉っぱがどうして形が違うのか考える。自然のあらゆるものに驚きの目を見張る。 大人は大きくなるにつれ、視覚中心になり、また、日常の事柄に忙殺されて、世の中の現象に慣れてしまい、驚きを失う。 だから、自然の美しさや仕組みを知るには、小さな子どもの時が最も良い、とレイチェル・カーソンは言う。子どものときにおぼえたこと、感じたことは忘れない。水泳も魚釣りもベーゴマもそうだ。夕日に映える大きなケヤキの存在感もそうだ。 自然の中に人間は生かされている。その単純な事実を大人は忘れる。自然の大きさや美しさ、神秘について、心からの帰依がなければ時に生きる意味を見失う。家族や健康よりお金や出世が大事になったりする。 日本で今、最も欠けているものの一つは、子どもと自然の関係だ。小学校低学年や幼稚園、保育園での自然体験活動は必須だと思う。幼児のための自然体験プログラムをもっともっと充実させたい。指導者を増やしたい。今幼児教育に携わっている先生やこれから先生になろうとする若い人たちがみんな自然体験活動リーダーになったらいいな、と思う。 ■バックナンバー ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ■著者紹介 岡島 成行(おかじま しげゆき) 環境ジャーナリスト、大妻女子大学ライフデザイン学科教授教授、(社)日本環境教育フォーラム専務理事、自然体験活動推進協議会代表理事 など。 1944年1月 横浜市生れ。上智大学山岳部OB 読売新聞解説部次長をへて現職。 主な役職:国土交通省・社会資本整備審議会委員林野庁・林政審議会委員・環境省・中央環境保全審議会臨時委員。環境省・政策評価委員会検討員。文部科学省・中央教育審議会臨時委員など。 著書:「アメリカの環境保護運動」(岩波新書、90年)、「レモンジュースの雨」(共著、築地書館、90年)、「Only One Earth」(桐原書店、91年)、「Green Issues」(桐原書店、93)「はじめてのシエラの夏」(翻訳・ジョン・ミューア著、宝島社、93年) 「地球救出作戦」(翻訳・チルドレン・オブ・ザ・ワールド著、小学館、94年) 「林野庁解体論」(洋泉社、97年)「Echoes of the Environment」(鶴見書房、99年) 「自然学校をつくろう」(山と溪谷社、2001年)など多数。 |