著者 岡島 成行


 このところ、子どもたちがあまり外で遊ばなくなっている。特に、田んぼや森や川、海などの自然の中で日が暮れるまで遊びほうけるということはほとんどないようだ。都会の子どもだけでなく、近くに豊かな自然がある地域の子どもたちも野遊びや山遊びをしない。

 子どもたちの「遊びの伝承」が途切れてしまっているからだ。一昔前までは、ガキ大将がいて、異年齢の集団で遊んでいた。そこで大きい子から小さい子へと遊びの技術が伝承されていたのだが、現在ではそういった集団が見当たらない。だから、今の子どもたちには遊ぶ技術が伝承されていないのである。

 自然の中で遊ぶことによって得ることは多い。命の痛みや自然と自分との一体感などを感じることができる。一瞬一瞬に自分の判断が求められ、失敗すると手厳しい罰が待っている。瞬時の知恵が常に求められる。野山で遊ぶことは知恵の鍛錬をしていることにつながるのだ。回答のない問題に挑戦することであり、独創性を磨く毎日でもある。

 こうした自然体験を現代に回復させるためには、新たな社会的システムを構築しなければならない。子どもだけに限らず家族も大人もお年寄りも、誰もが自然の中で楽しめるようなシステムが必要だ。安くて手軽で安全に遊べる仕組みである。

 こうしたシステム作りを目的に2000年5月、全国の民間団体が90以上集まり「自然体験活動推進協議会」を設立した。2002年3月にはNPO法人となり、現在では200を超える団体が参加している。共通の指導者制度を作り、総合的な学習の時間に協力できるような体制も整えた。

 そんな中で、今回のコンテストは広く国民に自然体験の楽しさを伝える意味があり、加えて、より良いプログラムを作りだすためのヒントを示す効果があると思う。

 入選した事例はいずれも力作ぞろいで、当事者の努力の跡がしのばれる。コンテストの今後の発展を期待したい。



■バックナンバー
自然体験の夜明け
自然体験活動のすすめ
自然体験に追い風が吹いてきた
幼児と自然体験
若者たち
私の原風景
シャワークライミング
思い出の黄金色のトンネル
ジャック・モイヤーさんのこと
ジャック・モイヤーさんを悼んで
環境教育推進法が動き出す
NGOから見た環境教育推進法
冬山
都市と農山漁村の交流を考える

■著者紹介

岡島 成行(おかじま しげゆき)
環境ジャーナリスト、大妻女子大学ライフデザイン学科教授教授、(社)日本環境教育フォーラム専務理事、自然体験活動推進協議会代表理事 など。
1944年1月 横浜市生れ。上智大学山岳部OB
読売新聞解説部次長をへて現職。 
主な役職:国土交通省・社会資本整備審議会委員林野庁・林政審議会委員・環境省・中央環境保全審議会臨時委員。環境省・政策評価委員会検討員。文部科学省・中央教育審議会臨時委員など。
著書:「アメリカの環境保護運動」(岩波新書、90年)、「レモンジュースの雨」(共著、築地書館、90年)、「Only One Earth」(桐原書店、91年)、「Green Issues」(桐原書店、93)「はじめてのシエラの夏」(翻訳・ジョン・ミューア著、宝島社、93年)
「地球救出作戦」(翻訳・チルドレン・オブ・ザ・ワールド著、小学館、94年)
「林野庁解体論」(洋泉社、97年)「Echoes of the Environment」(鶴見書房、99年)
「自然学校をつくろう」(山と溪谷社、2001年)など多数。