著者 岡島 成行


 日本社会が変わり始めている。仕事より自分の生活や趣味などを重要視する人が増えてきているのだ。戦後ずっと経済至上主義でやってきたが、ここにきてやや動きが鈍ってきた。絶対大丈夫だと思っていた会社が潰れたり、お金があっても楽しいことばかりではないことが国民レベルで認識されてきたのだろう。

 時代は自然体験に優しくなってきている。人間の究極の癒しは自然なのかもしれない。芸術も科学も自然が源泉だといえる。自然の中で感じること、考えることは確かに素直に頭に入ってくる。

 余暇が増え、使えるお金が減ってくれば、当然、自然体験に向かう人が増える。自然の中に入り込むと、そこはふだんの生活とは違う造りになっている。非日常の世界に入ることになり、そこでは、落ち着いて人生を考えてみたり、これからのことを創造してみることが、しやすくなる。

 国の官庁もこうした時代の流れを敏感に読み取っている。特に、公共事業を実行してきた農水省の農村振興局、国土交通省の河川局、港湾局といった部局が自然体験に力を入れ始めている。日本国民の欲求を読み取っての舵の切り替えだろう。

 民間にも似たような動きが出ている。トヨタ自動車は岐阜県・白川郷に自然学校を計画中だし、東京電力も自然体験を軸とした環境共生公園を新潟県に作ろうとしている。そのほか幾つかの企業がすでに自然学校を経営している。

 さらに、各地にある少年自然の家や青年の家などが軒並みリニューアルし始めており、自然学校的な運営に切り替え始めている。

 自然体験の流れはすでに小さな沢からかなり大きな川に変わってきている。人々が自然体験をしたいと言い始めている。遠からず、自然体験のための施設やプログラム、指導者などが大量に不足してくるだろう。こうした動きをきちんと吸収するために、一日も早く指導者の育成や安全確保のための社会的なシステムを構築しなければならない。

 この「自然体験.com」はまさにそうした流れの本流にある。そこをはっきりと悟って、今年も着実にホームページを運営していきたいと思う。



■バックナンバー
自然体験の夜明け
自然体験活動のすすめ
自然体験に追い風が吹いてきた
幼児と自然体験
若者たち
私の原風景
シャワークライミング
思い出の黄金色のトンネル
ジャック・モイヤーさんのこと
ジャック・モイヤーさんを悼んで
環境教育推進法が動き出す
NGOから見た環境教育推進法
冬山
都市と農山漁村の交流を考える

■著者紹介

岡島 成行(おかじま しげゆき)
環境ジャーナリスト、大妻女子大学ライフデザイン学科教授教授、(社)日本環境教育フォーラム専務理事、自然体験活動推進協議会代表理事 など。
1944年1月 横浜市生れ。上智大学山岳部OB
読売新聞解説部次長をへて現職。 
主な役職:国土交通省・社会資本整備審議会委員林野庁・林政審議会委員・環境省・中央環境保全審議会臨時委員。環境省・政策評価委員会検討員。文部科学省・中央教育審議会臨時委員など。
著書:「アメリカの環境保護運動」(岩波新書、90年)、「レモンジュースの雨」(共著、築地書館、90年)、「Only One Earth」(桐原書店、91年)、「Green Issues」(桐原書店、93)「はじめてのシエラの夏」(翻訳・ジョン・ミューア著、宝島社、93年)
「地球救出作戦」(翻訳・チルドレン・オブ・ザ・ワールド著、小学館、94年)
「林野庁解体論」(洋泉社、97年)「Echoes of the Environment」(鶴見書房、99年)
「自然学校をつくろう」(山と溪谷社、2001年)など多数。