最終回 著者 節田 重節


「映画『シェーン』のラストシーンが蘇ったグランド・ティトン国立公園」

 グレイシャーからイエローストーンへ、2つの国立公園をめぐってきた我々の旅も、最後のグランド・ティトンに入ってきた。イエローストーンとグランド・ティトンは隣接しており、国立公園内を南北に延びる大きなジャクソン・レイクに沿って南下を続け、この公園探訪のベースとなる、ジャクソンのホテルにチェックインする。
 ジャクソンの街は、ジャクソン・ホールと呼ばれる細長い盆地の南端に位置し、四季を通じて賑わう、アメリカを代表するアウトドア・リゾートである。
 さて、なんと言ってもグランド・ティトンを有名にしているのは、西部劇映画の名作『シェーン』の舞台としてである。1953年の作品だから、中高年者にしか馴染みがないだろうが、その感動的なラストシーンは、今でも鮮明に覚えている。アラン・ラッド扮する主人公が単騎、大草原を去っていく。その背に向かって「シェーン、カムバーック!」と叫ぶ少年。そこに流れる主題曲----。そして、この主人公の行く手に展開する山並みが、実はグランド・ティトンだったのである。

 まず1日目はジェニー・レイク西岸でハイキングを楽しむ。ビジター・センターを訪問したのち、船着き場から歩き始める。湖岸沿いに歩く、ほぼ平坦なトレイルで、カスケード・クリークと出会うと左折して、ヒドン・フォール(隠れ滝)を見物する。次いでインスピレーション・ポイントに登って、ジェニー・レイクの大観を楽しむ。帰路は横着して、湖岸から出るシャトル・ボートに乗り、船上からグランド・ティトンの山並みを楽しみながら出発点に戻った(片道徒歩約2時間)。
 2日目はジャクソン・レイクの東岸中央部、コルター・ベイ・ビレッジをベースにハイキング。ここにもビジター・センターがあり、豊富な展示物を見学したり、情報収集ができる。こういうところがアメリカの国立公園の素晴らしいところである。ここは名前のとおり小さな湾で、ボートやカヌーが浮かぶマリーナとなっている。スワン・レイクやヘレン・ポンド(池)の湖岸をたどる遊歩道は気持ち良く、青々としたジャクソン・レイクに倒影するマウント・モラン(3842m)、湖岸まで迫る深緑の針葉樹林、湖面を走る色鮮やかなカヌー、水生植物をかき分けて進むムースのカップル----。まさに絵に描いたようなアウトドア・シーンがそこに展開していた(徒歩約2時間)。

 この国立公園は、ハイキング以外にも楽しみが多い。映画『シェーン』のラストシーンを彷彿させるモルモン教徒の歴史村。草原の中に建つ、素朴な丸太造りのトランス・フィギュレーション教会、大きな窓の向こうにグランド・ティトンが借景となり、木の十字架 だけがぽつんと立つ。また、ビューポイントとしてのハイライトは、スネーク・リバー・オーバールック。モノクロ写真の傑作を数多く生み出し、日本の風景カメラマンにも多大な影響を与えたアメリカの写真家、アンセル・アダムスの撮影ポイントである。眼下にスネーク・リバーが文字どおり蛇行し、その先に最高峰グランド・ティトン(4197m)をはじめ、ミドル・ティトン(3902m)やサウス・ティトン(3814m)の山並みが屹立する。かつて何度となく見返したモノクロ写真の世界が、いま、目の前にフルカラーで展開している感激は、最高の旅の思い出となった。
 こうして、我々のアメリカ北西部の3つの国立公園をめぐる旅は終わった。最終日はワイオミング州からアイダホ州を経てユタ州、ソルトレイク・シティーへひた走ったのであった。


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アメリカ北西部の3つの国立公園をめぐる旅から(2)
アメリカ北西部の3つの国立公園をめぐる旅から(3)
アメリカ北西部の3つの国立公園をめぐる旅から(終)

■著者紹介

節田 重節(せつだ じゅうせつ)
1943年 新潟県生まれ。明治大学法学部卒業
『山と溪谷』編集長、山岳図書編集部長などを歴任。
明治大学炉辺会(山岳部OB会)会長、日本山岳会会員、植村直巳記念財団理事、日本山岳ガイド協会評議員、アウトドアライフデザイン開発機構会長など。