第2回 著者 節田 重節


「あまりの広大さに圧倒されたイエローストーン国立公園」<上>

 グレイシャー国立公園での2日間のハイキングを楽しんだのち、一行は合衆国で4番目に大きいモンタナ州を南北に縦断、ワイオミング州を目指す。約1000kmのロングドライブだ。モンタナ州は日本と同じぐらいの広さの中に、人口はわずか95万人しかいない、とクリスが解説してくれる。確かに広い。人がいない。延々と牧草地や麦畑が広がり、東側には地平線がはっきり見える。そして西側には雪を頂くロッキーの山並みが重畳と続く。

 イエローストーンへの道のりはあまりに遠いので、途中、グレイト・フォールズに1泊、恐竜の化石掘りやスルース・ボクシーズ州立公園で軽ハイキングを楽しみながら南下する。イエローストーン国立公園の北のゲイト・シティはリビングストン。ここで1泊して、翌日、ガーディナーを経ていよいよ待望のイエローストーン国立公園のゲートをくぐる。一部俗化されているとはいえ、世界初の国立公園故に一度は訪れて、この目で確かめてみたいと考えていた公園だけに、期待は高まる。
 西部開拓期、この地を踏査した探検隊によってその自然の素晴らしさが政府中央に伝わり、国立公園法の制定、そして1872年の世界初の国立公園誕生へとつながっていく。また、約100年後の1978年には、世界自然遺産にも登録されている。この公園は5つに区分けされている。我々が入ってきた北西のマンモス・カントリー、北東地区はルーズベルト・カントリー、東側の中央部がキャニオン・カントリー、南西地区はガイザー・カントリー、そして南東地区がレイク・カントリーと呼ばれている。

 マンモス・カントリーはマンモス・ホットスプリングスを中心に温泉成分が析出した石灰岩のテラスが見もの。アッパー・テラスから木道に沿ってハイキングを始める。真っ白な宮殿のテラスや階段を巡るように歩いていき、次第に高度を下げてロウアー・テラスに移る。さしずめ日本なら「温泉地獄巡り」といったところか。
 マンモス・ビレッジで昼食をとったのち、ノリス、マディソン・ジャンクションを経てガイザー・カントリーに移る。有名な間欠泉(ガイザー)地帯で、ここには7つほどのガイザー・ベイスン(盆地)があるが、この日はミッドウェイ・ガイザー・ベイスンを訪れる。このベイスンでの最大の見所はグランド・プリズマティック・スプリングスで、園内で最大の温泉池のエメラルドブルーと、湧き上がる蒸気や夏雲の白とのコントラストが見事だった。強い太陽光線によって、立ち上がる蒸気がまさにプリズムのように、七色に変化する。陽が少し傾きかけていただけに、ことのほか印象的なシーンだった。
 ショート・ウォークを終えてマディソンに戻り、公園西側のゲイト・シティ、ウェスト・イエローストーンに泊まる。


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■著者紹介

節田 重節(せつだ じゅうせつ)
1943年 新潟県生まれ。明治大学法学部卒業
『山と溪谷』編集長、山岳図書編集部長などを歴任。
明治大学炉辺会(山岳部OB会)会長、日本山岳会会員、植村直巳記念財団理事、日本山岳ガイド協会評議員、アウトドアライフデザイン開発機構会長など。