第3回 著者 節田 重節


「あまりの広大さに圧倒されたイエローストーン国立公園」<下>

 2日目のハイキングはキャニオン・カントリーに移動する。再びマディソン、ノリスを経てキャニオン・ビレッジに向かうが、とにかく園内は自然のままで広い。広大な針葉樹の森が延々と続き、白頭鷲やエルク、そして念願だったバイソンの姿もキャッチすることができた。この公園のとてつもないスケール(四国の約半分)と、アメリカの自然保護運動や国立公園の歴史を、まざまざと見せつけられた時間であった。

 キャニオン・ビレッジからイエローストーン・グランド・キャニオンに向かう。ループロードの終点手前がトレイル・ヘッドで、ここからキャニオンのロウアー滝に降りる。Brink of Falls Trailというニックネームのとおり絶壁を急下降するトレイルで、標高差180mをジグザグに下る。降り切った所はまさにロウアー滝の落ち口が目の前で、耳を聾せんばかりに落下する膨大な水の量と音に圧倒される。滝壺から下流に目を転じれば、38kmにわたって展開する大峡谷がグランド・キャニオンで、黄色混じりの赤茶けた絶壁が果てしなく続いている。この景観がイエローストーンの名の由来か、と納得させられた。
 途中、ノース・リム(縁)のインスピレーション・ポイントに立ち寄ってロウアー滝とキャニオンを俯瞰したのち、レイク・カントリーへ南下。イエローストーン・レイクの湖岸を走ってウェスト・サムを通過、再び南西のガイザー・カントリーに向かう。
 最後の目的は、イエローストーンのシンボルとなっているオールド・フェイスフル・ガイザーを見ること。この間欠泉があるアッパー・ガイザー・ベイスンには、ほかにもキャッスルやジャイアント、リバーサイドなどと名付けられた間欠泉が無数にある。トレイルの一番奥にあるのが、小さな存在ながら有名なモーニンググローリー(朝顔)・プール。黄色から緑色へのグラデーションが美しく、思わ吸い込まれそう。
 主役のオールド・フェイスフルは名前のとおり忠実に(Faithful)120年間、決まった時間、間隔、高さを守って噴き上げているという。

 この日も、おそらく世界各国からだろうたくさんの観光客が見守るなか、約束どおり巨大な噴泉を噴き上げたが、夕方だったせいか、やや迫力に欠けた。それよりもオールド・フェイスフル・インの方に感激した。1904年に完成した世界最大のログキャビン風ホテルで、その巨大さに驚くとともに、オールド・アメリカンの雰囲気が好ましく、立ち去りがたかった。

 日も傾き、イエローストーンを去る時間となった。ウェスト・サムに戻り、ジャクソンに向かって一気に南下する。
 イエローストーン国立公園は、想像以上に広大だった。園内には2000km近いトレイルがあるというが、一般に歩けるのはほんの一部で、ほとんどは自然がそのままに残っているウィルダネスの世界である。グリズリー(灰色熊)の危険も多い。次回こそ準備を整え、ロング・トレイルに挑戦してみたいものである。


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■著者紹介

節田 重節(せつだ じゅうせつ)
1943年 新潟県生まれ。明治大学法学部卒業
『山と溪谷』編集長、山岳図書編集部長などを歴任。
明治大学炉辺会(山岳部OB会)会長、日本山岳会会員、植村直巳記念財団理事、日本山岳ガイド協会評議員、アウトドアライフデザイン開発機構会長など。