著者 節田 重節


「フットパス」を知ってますか?
 5月下旬から2週間ほどイギリスを旅してきた。前半はイングランドの田舎を歩き、後半はハイランド(北部山岳地帯)で山歩きを楽しんだ。
 イギリスには、その総延長が22.5万kmにも及ぶ「フットパス」という遊歩道があり、全土に網の目のように張り巡らされているということを聞いてはいたが、実際にこの目で見てみて、大いに感じさせられるものがあった。この遊歩道は文字どおり足で歩くだけでなく、馬や自転車、時にはクルマも通れる旧道なども含めての22.5万㎞である。しかし、やはりその中心は「パブリック・フットパス」と呼ばれる歩く道で、田園地帯や牧場、森を抜け、河原や湿地帯、海岸線などをたどり、さらには市街の緑地帯を結んで全土を点綴している。

 イギリスでは、何人たりとも道を歩くことを阻害されない権利(Rights of Way)が尊重されており、たとえそこが私有地であっても、フットパスとして認められておれば、誰でも通行可能であるという。わずか数日の見聞ではあるが、なるほど至る所に黄色い矢印のパブリック・フットパスの標識が見られ、夫婦や家族連れで歩いている姿が散見できた。雨や風の日が多いイギリスだが、天候はお構いなし。レインウェアに長靴やトレッキングシューズといういでたちで、実に楽しそうに歩いていた。もちろんザックには、紅茶とサンドイッチが入っていたことだろう。
 「歩く」という行為は、最も大切な人間の基本的行動である。特にアウトドアにおいては、まず最初に求められるベーシックなスキルであることは、いまさら言うまでもなかろう。ところが、この「基本のキ」である歩行能力がかなり低下しているのが現代人であり、特に日本の若者や子どもたちではなかろうか。さすがアウトドアのルーツ国であり、先進国であるイギリスは、日常生活の中にもアウトドアの精神や技術が取り込まれており、そのライフスタイルやスタンスが、子々孫々まで連綿と続いているのである。


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■著者紹介

節田 重節(せつだ じゅうせつ)
1943年新潟県生まれ。明治大学法学部卒業。
元山と溪谷社 取締役編集統括本部長。大学卒業後に山と溪谷社に入社以来、『山と溪谷』の編集など、数多くの山岳図書の編集に携わる。明治大学山岳部OB、日本山岳会会員、植村直巳記念財団理事、浅間山麓国際自然学校理事、日本アウトドアジャーナリスト協会副会長など。