著者 節田 重節


日本にも欲しいトレイル網
 イギリスは大都市以外はほとんどが田舎で、中小の都市でも街並みを外れると、とたんに広大な小麦畑や牧場が広がっており、まさに全土が北海道、といった印象だった。
 その中にフットパスは続いていた。田舎の家並みや森を抜け、時には個人宅の裏庭を通らせてもらい、牧場の丘を越え、原生自然保護区の木道を渡って延びている。なかでも驚いたのは、ロンドン郊外でゴルフをプレーしたのだが、なんとこのコース内にもフットパスが通っていたのである。明らかにゴルフプレーヤーとは異なるファッションのカップルやグループが、悠々とフェアウェイを横切っているのであった。この大らかさ。閉鎖的な日本のゴルフ場では、絶対考えられない光景であった。

 そのフットパスが日本にもあるという。なるほどネットで検索すると、北海道や山形県の最上川、東京都の多摩丘陵、そして熊本県の南阿蘇などである。なかでも北海道・根室地方の酪農家たちが、2003年に設定したという20kmのフットパスが目を引いた。北海道の酪農の厳しい現状を打破するために、牧場を多目的に有効活用して経済性を高めたり、地域社会に貢献しようと立ち上げたプロジェクト。その輪はいまや全道に広がり、札幌、ニセコ、函館、新得、えりもなど14ヶ所の大きなネットワークとなっているという。
 実に嬉しい傾向である。私自身も、日本の青少年、特に子供たちのアウトドア体験の貧弱さや体力の脆弱さを憂え、心ある仲間たちとその対策に腐心しているところである。その対応策のひとつとして、まずはアウトドア活動の基本である「歩く」スキルを高めるために、できるだけ環境のいい所で、楽しみながら歩き続けられるトレイルを作るのが良かろう、という結論になった。山や川、湖、島、半島などを核として、各山域、あるいは地域ごとにできるだけ長く歩けるトレイルを設定しようという試みである。さらにこれらのトレイルをつなぎ合わせて、日本全体を歩く道でネットワークしようという「日本ロングトレイル構想」がそれである。


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■著者紹介

節田 重節(せつだ じゅうせつ)
1943年新潟県生まれ。明治大学法学部卒業。
元山と溪谷社 取締役編集統括本部長。大学卒業後に山と溪谷社に入社以来、『山と溪谷』の編集など、数多くの山岳図書の編集に携わる。明治大学山岳部OB、日本山岳会会員、植村直巳記念財団理事、浅間山麓国際自然学校理事、日本アウトドアジャーナリスト協会副会長など。