第1回 著者 節田 重節


「見事なお花畑が迎えてくれたグレイシャー国立公園」

 7月15日から12日間、アメリカ北西部、モンタナ州からワイオミング州にかけて広がる、広大な3つの国立公園を旅してきた。いつもの山仲間8人だけのグループで、2年前、同じくコロラド州の4つの国立公園を案内してくれたクリス・スチュワートが、今回もガイド兼ドライバーとして随行してくれた。

 まずは国境を挟んで、カナダのウォータートン・レイク国立公園と、世界で唯一の国際平和公園を形成している、グレイシャー国立公園に向かった。この公園は、1995年には世界自然遺産にも登録されている。ここから今回の旅をスタートさせた。グレイシャーへのゲイト・シティはカリスペル。ソルトレイク・シティからカリスペルに飛び、空港でクリスと合流する。

 グレイシャー国立公園は、公園内を大陸分水嶺が南北に貫き、3000m級の山々が連なる、文字どおり山岳氷河公園である。園内のハイキング・コースは1100kmにも及び、とても日本人にはイメージできないスケールだ。公園の中央部を東西に、ローガン・パスを越えて、立派なドライブ・ウェイが横断している。通称、“Going to the Sun Road”「太陽へと続く道」だ。我々もこの道をたどり、レイク・マクドナルドの湖岸に沿ってローガン・パスを目指す。「ザ・ループ」という大きなヘアピンを過ぎて高度を上げると、やがて標高2025mのパス(峠)に着く。
 グレイシャー・リリーの群落とクレメンツ・マウンテン
 ここからこの旅で初めてのハイキングが始まる。ガーデン・ウォールという岩壁帯に沿って水平に歩く「ハイライン・トレイル」と呼ばれる、最もポピュラーな道である。歩き始めてまずびっくり。道脇一面が黄色いカタクリ(グレイシャー・リリー)の大群落である。それから後も花、花、花----。日本でもおなじみのノバラやユリ、リンドウ、スミレ、アスター、ヤナギランなどに混じって、インディアン・ペイントブラッシュなど、北米ならではの花も目立つ。見事な花の道に見とれているうちに時間切れとなり、ランチを食べて峠に引き返す(徒歩約4時間)。

 再び車上の人となり、東側に向かって一気に高度を下げる。やがてこの公園随一といわれる、長大なセントメリー・レイクで、湖東端のセントメリーのホテルにチェックインする。

 翌日は一つ北側の氷河峡谷、メニー・グレイシャーに入る。文字どおりたくさんの氷河のU字谷が集まる地形で、ここから多くのトレイルが始まっている。我々の今日の目的地はアイスバーグ・レイクへの往復ハイキング。
 トレイル・ヘッド(登山口)からクリークを眼下に、山腹道を行く。谷の対岸はロッジポール・パイン(松)の見事な森で、その上にマウント・ウィルバー(2841m)がすっくと立ち上がっている。いかにもロッキーの山中にいるという雰囲気が横溢し、一同、満足感に浸る。トレイルはターミガン・ウォール(ライチョウの壁)に行く手を阻まれ左折する。辺りは、この公園を代表する花、ベアー・グラスの大群落だ。名前は「熊草」だが、クマとは関係ない。日本では全く見られないユリ科の花で、その大きさと華やかさ、群落のスケールに圧倒される。
 やがて目的地のアイスバーグ・レイクに到着だ。湖は名前のとおり懸垂氷河から崩壊した氷塊が、氷山のように浮かんでいる神秘的な湖だった。そんな凍えるような冷たい湖に若者たちが飛び込んでいるのも、いかにもアメリカ的な光景だった(徒歩約5時間)。


■バックナンバー
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植村直己さんは臆病だった!?
イギリスの旅から(上)
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アメリカ北西部の3つの国立公園をめぐる旅から(1)

■著者紹介

節田 重節(せつだ じゅうせつ)
1943年 新潟県生まれ。明治大学法学部卒業
『山と溪谷』編集長、山岳図書編集部長などを歴任。
明治大学炉辺会(山岳部OB会)会長、日本山岳会会員、植村直巳記念財団理事、日本山岳ガイド協会評議員、アウトドアライフデザイン開発機構会長など。