- 第1回 『はじめに』 -  著者 星野 敏男


 学生の頃から野外運動や野外教育、アウトドアスポーツなどに関わりはじめ、大学教員になってからもずっとキャンプ、スキー、登山などの「野外」の授業を担当してきた。また、大学以外の場でも「野外教育」を専門とする立場から、青少年教育や社会教育の分野において実に多くのことを経験してきた。そうして過ごしてきた約50年間であったが、2年ほど前に70歳を迎え大学も定年退職した。
 退職後は「教育」や「指導」の現場から離れ、もっぱら純粋に個人の楽しみとして、関東近郊の低山ハイキングや、渓流釣り、鮎釣りなどに時々出かけている。また、自宅で過ごすことが多くなった日常生活では、約6㎞の散歩兼ウォーキングをほぼ毎日の日課とし、週に何回かは近くの家庭菜園で畑作業も行っている。これらの山や川や田畑、あるいは、ウォーキング途中に通る河川敷の林や草むらなどが、現在の私にとっての「アウトドア」や「自然」となっている。

 ほぼ半世紀近くかかわってきた教育や指導の場から離れ、もっぱら純粋に個人の楽しみとして近くの山や川や畑などに日常的に関わりはじめると、これまでの教育や指導の場としてかかわってきた自然とはまた違った形で自然が見えてくる。散歩の途中やハイキングの休憩中などに「自分は、自然の何を味わいながら山に登ったり渓流に行ったりしているのだろうか?」とか「自分は自然から何を感じとっているのだろうか?」あるいはまた「私の自然観や自然に対する感覚や感性には何か特徴があるだろうか?」などと、ふと考えることがある。

 そのようなとき、必ずと言って良いほど思い浮かぶのが子ども頃の自然体験とその時々の思いである。うまく説明することは難しいのだが、あえて表現すると「体験感覚の原点回帰」とでも言えるかもしれない。「ああ、この感覚は昔味わったことがあるなぁ」とか、初めて自分の手で川魚や野鳥を捕まえた時の言葉では形容しがたい感覚などを今も鮮やかに思い出したりするのである。
 もしかすると、これこそが「歳をとる」ということの証なのかもしれないが、今回のコラムでは、私が最近感じたこれら自然体験にまつわるあれこれについて、少し子どもの頃の話も交えながら紹介していこうと思う。


■バックナンバー
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(1)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(2)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(3)
学校教育と自然体験(1)
学校教育と自然体験(2)
学校教育と自然体験(3)
学校教育と自然体験(4)
学校教育と自然体験(5)
学校教育と自然体験(6)
原点回帰の川あそび、山遊び(1)

■著者紹介

星野 敏男(ほしの としお)
明治大学名誉教授 1951年栃木県生まれ。東京教育大学体育学部、筑波大学大学院で野外運動、野外教育を研究。1978年から2022年3月まで明治大学に勤務。体育や野外スポーツ関係の授業を数多く担当する。1985年から86年の1年間は、アメリカ北イリノイ大学大学院野外教育研究科に客員研究員として在外研究。日本野外教育学会理事長や日本キャンプ協会会長など歴任。自然体験・野外教育の研究分野では日本の第一人者のひとりとして著名。著書、論文多数。