- 第2回 -  著者 星野 敏男


プロが行なう学校の受託事業
 前回は、現在の学校教育で行われている自然教室などの集団宿泊型の体験活動のありかたを、児童生徒ひとり一人に、よりよい変容をもたらすためのプログラム内容や運営という視点で眺めてみますと、まだまだ、不十分な点、改善すべき点が多いように思われることを書きました。
 学校教育という独自の世界では、さまざまな制約などもあり、今すぐの改善は困難も伴うことでしょう。しかし、実際に全校一丸となってしっかりした内容の集団宿泊型の自然体験活動を実施している学校も、たくさんあります。
 また、民間のプロの人たちで、学校のこのような活動を受託し内容の濃い活動を実施している団体も数多くあります。そのようなところでは、このような集団宿泊の活動をどのように実施運営しているのでしょうか。内容の濃い体験活動を実施している学校の共通する点をいくつか挙げてみます。

1)事前の綿密な打ち合わせ
 担当になった学校の先生と、会場となる施設側の職員、あるいは、連携している団体の指導員との、綿密な打ち合わせがまず行われます。
 打ち合わせの内容は、学校のねらいは何か、何を伝えたいのか、そのための活動として予定しているものは適切な活動であるかどうかなど、まず、企画のねらいを明確にすることから始まります。
 最初にやりたい活動があるのではなく、ねらいに沿った活動を話し合いの中から精選していきます。また、学校側では、児童生徒もこの段階で企画に参加し、自分たちの希望を出したり、楽しいネーミング考えたりと、先生と一緒になって案を練り、計画を立てていきます。

2)驚きや発見、気づきを大切にしている
 事前に綿密な打ち合わせを行っておきますが、現地での主役はやはり子どもたちです。自然の中での活動では、教室と違い児童生徒の興味を引くものが、あちらこちらに存在しています。さまざまなものごとに対しての驚きや発見、気づきを大切にしますので、科目や単元、あるいは予定時間にあまりこだわらずに、そこでできること、教えたいことを、時間を細切れにせずに、児童生徒に伝えていきます。このようなことを可能にするためにも、時間の使い方もゆったりしていています。

3)先生全員が得意分野を活かして一緒になって指導
 中学校の場合などでは、専門教科を担当される先生方がおられますし、小学校の先生方もそれぞれ得意分野を持っていますので、たとえば、環境教育や自然観察系の活動では理科の先生が、地域学習系の活動では社会科の先生が、冒険活動的なものでは体育の先生が指導するなど、それぞれの専門分野を活かしながら、活動の指導にあたる場合が多く見られます。
 決して、多くを求めすぎず、形にもこだわっていません。クラス別活動とかグループ別活動、児童生徒が興味を持っている活動を自分で選択できる選択活動を取り入れている学校も多いです。

アメリカの自然教室
 ずいぶん前のことになりますが、アメリカの小学校で行われていた自然教室を、つぶさに観察したことがあります。アメリカでは、日本の学校と違いカリキュラムもかなり自由に組むことができますが、どのような内容で、アメリカの学校が自然教室を行っていたか紹介します。
 日本と同じようにアメリカでも、オリエンテムリングが自然教室のプログラムの一つとして取り上げられていました。彼らの予定では、確か2泊3日のうちの、1泊2日分のテーマが「オリエンテーリング」だったので、私は大会でも開くのかと思って見ていました。ところが、その指導法は日本でのそれとは大きく異なっており、大変驚かされました。

オリエンテーリングのあとで磁石作り
 野外教育施設に集まってきた子どもたちは、確か小学校5年生の集団でした。子どもたちは、最初は日本でのそれと同じように、コンパスの使い方や地図の見方を学習し、簡単なコンパスゲムムを行ったあとに、実際のオリエンテムリングコースをグループでまわってきました。通常日本では、ここまででプログラムとしてのオリエンテムリングは、終了となります。
 しかし、アメリカのこの小学校では、なんとこのあと実際に自分たちで、簡単な磁石を作り始めました。磁石作りは理科の先生が指導してました。磁石を作りながら、磁気や磁力といったものについて学習したり、磁石のまわりに360度の目盛りをつけ、コンパスとして使えるようなものに、仕上げていきました。途中、社会科の先生からは、磁石に関係して、コロンブスとか、マゼランなどの海の冒険談や、星座と進路との関係などが興味深く話されたりしていきます。

そして地図づくり
 次に、磁石とそのまわりの目盛りをつけた分度器、それを利用して作った傾斜器を使って、宿舎のまわりの測量と、土地の傾斜も測り、そこに生えている植物や樹木、生物などを調査し、最後には等高線の入った自分たち独自の地図を、作り上げていきました。
 翌日、等高線や植物分布が書き込まれた、かなり詳しい地図が午後になってできあがると、(ひそかに先生方が連絡をつけておいた)地元の公園局の専門担当官がやってきて、現地の本物の詳しい地図と、子どもたちが作った地図とを壁に貼って、比較しながら大変楽しく講評をしてくれて、子どもたちも先生方も大いに盛り上がっていました。

自然体験活動から科学を学ぶ
 アメリカで行なわれている野外教育を、そのまま日本の教育現場と比較するのは、教育制度や文化の違いもあり、必ずしも適切ではないでしょう。しかし、ここで特徴的なことは、子ども達は、体験活動としてのオリエンテムリングを楽しむばかりでなく、オリエンテムリングをきっかけとして、磁石の働きや海と天体の歴史、地形とそこでの自然環境など実に多くのことを学んで帰っていったということです。
 活動を単に技術や知識の伝達として終わらせるのではなく、児童生徒自らが問題を発見し、それを討議解決し、自分自身の問題として、どう日常生活に取り入れていくか、といった課題解決学習として行い、その結果、行動化や態度の育成にまで発展させていく点で、野外教育や、自然体験活動の本質を、ここに見たような気がしました。

 日本の自然教室や林間学校に対しては、多くの先生方が、かなり固定的な見方をしているのではないかと思います。もっと自由に、もっと独自のやり方で、その学校にあった独自の自然教室が展開できるのではないかと期待しています。


■バックナンバー
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(1)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(2)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(3)
学校教育と自然体験(1)
学校教育と自然体験(2)
学校教育と自然体験(3)
学校教育と自然体験(4)
学校教育と自然体験(5)
学校教育と自然体験(6)

■著者紹介

星野 敏男(ほしの としお)
1951年栃木県生まれ。
明治大学 教授
東京教育大学卒業。筑波大学大学院で野外活動を研究。
野外教育全国会議実行委員長、日本野外教育学会理事、日本キャンプ協会理事などを務める。自然体験・野外教育の研究分野では日本の第一人者のひとりとして著名。
著書、論文多数。

■関連情報
社団法人日本キャンプ協会