- 第1回 -  著者 星野 敏男


~現状と課題~
 全国にある青少年教育施設を訪ねるたびに、その施設に宿泊しながら、さまざまな活動を行っている学校の集団宿泊型の体験活動や、引率の先生方が自校の児童・生徒さんたちを、直接指導されている現場に、出くわすことがよくあります。

 いつも詳しく観察しているわけではないのですが、私が野外教育を専門にしている関係で、傍から見ていると、とても気になることがいくつかあります。集団宿泊活動に対する学校の方針や、考え方はそれぞれ学校によって異なっているでしょうから、ハッキリしたことは言えませんが、学校教育で行われる自然体験について、私なりに気になっていることや感じていることなどを少し書いてみます。

気になっている学校の自然体験活動
 学校教育で行われている自然体験や自然学習には、実にさまざまなものがありますが、特に、自然教室とか林間学校、などと呼ばれる宿泊型の体験活動では、私は常々以下のようなことが気になっています。

1)先生自身も楽しんでいない?
 自然体験活動は、本来が楽しい活動であるはずです。しかし、なんだかつまらなそうな感じで参加している児童生徒さんを、よく見かけます。自然の中での活動では、何よりもまず、先生自身がその活動の「楽しさ」を感じ、それを児童生徒に伝えてもらいたいと思っていますが、どうも先生自身が、その活動や指導を楽しんでいないようにも見受けられます。
 もしかすると、その活動の本当の楽しさや面白さを、先生自身が知らないのかもしれません。子どもたちに自然体験活動を提供する場合、その活動の楽しさや面白さ、あるいは、不思議さなどを、まず、先生自身が知っているか知らないかでは、子どもたちの反応が大きく異なってくるはずです。先生自身も、自らが楽しめるような活動、興味を持って指導できる活動を提供してもらえればと思います。

2)自然の中の運動会?
 次から次へと時間に追いまくられて、まるで森の中で運動会をしているような、一種独特のせわしなさを見ていて感じてしまうのは、おそらく私だけではないと思います。学校教育の中で取り上げられる自然体験や体験学習では、ややもすると、その体験の結果得られる概念や、知識等が重んじられるあまりに、途中での個々の子どもたちが感じた「思い」や、「感じ」、あるいは「発見」や、「おどろき」などは見過ごされがちです。
 予定調和的といいますか、時にはあらかじめ予定された体験や感じ方を、なかば強引に求められているような場面も多く見られます。もっとゆったりと、まわりの自然の変化や物事を、じっくりとながめられるような、ゆとりを持った時間の使い方ができないものだろうかと思います。

3)ねらいと活動が不一致?
 ひとくちに『自然体験活動』といっても、実にさまざまな活動があり、どれを選んだらよいか、困ってしまうほどです。また、各地の青少年教育施設の方でも、現在では豊富な活動メニューが用意されています。個々の学校には、その学校に応じた、自然教室や集団宿泊などのねらいがあり、そのねらいにあった活動が、個々のプログラムとして考え出され、それが盛り込まれてしかるべきだ、と思います。
 ところが、よくよく眺めてみると、はんごう炊飯と、キャンプファイアー・オリエンテーリングなど、全国どこでも同じ内容の活動が、何年経っても、ずっと同じように行われているのを目にします。野外炊飯や、キャンプファイアーが、いけないというわけでは決してありません。しかし、決まった活動が先にあり、ねらいが、あとから付け足されたような自然教室が、今もって行われているのが実状のようです。もしかすると、というよりも、おそらく「今年も同じ内容で・・・」、という前年度踏襲が、知らない間にもう20年、あるいは、それ以上続いているのかも知れません。自分の学校の児童生徒にとって、今、何が必要なのかを、先生方で充分話し合い、それに応じたふさわしい内容の活動がきっとあるはずです。

4)担当者だけにまかせきり?
 自然体験活動に関する先生向けの指導者研修会などの場面で、そこに集まった先生方になぜ、ここに来られたのですかと聞いてみますと、「今年担当になったから(やむなく)」、と正直に答えられる先生がいます。詳しく聞いてみますと、学年主任の先生や体育の先生、あるいは、その年の活動担当者に、すべて任せきりという現状なども見えてきます。
 学校には、それぞれ専門を異にするというか、いろんなことの専門家が、たくさんおられるのに、その専門性をこのような活動時に、生かしきれていないようで、とてももったいない気がします。

 学校という世界には、独自のシステムや制度があり、特に公立の学校では、簡単に変えていくことは、むずかしいかも知れません。しかし、その気になってやれば、昨年度この自然体験.COMでの企画コンテストで、グランプリを取った渋谷区立中幡小学校のような、よく考えられた積極的な活動も、展開が可能になるはずです。
 次回は、先進的な学校や民間教育事業者、いわゆるプロの人たちは、どのようなやり方をしているのか見ていきたいと思います。


■バックナンバー
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(1)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(2)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(3)
学校教育と自然体験(1)
学校教育と自然体験(2)
学校教育と自然体験(3)
学校教育と自然体験(4)
学校教育と自然体験(5)
学校教育と自然体験(6)

■著者紹介

星野 敏男(ほしの としお)
1951年栃木県生まれ。
明治大学 教授
東京教育大学卒業。筑波大学大学院で野外活動を研究。
野外教育全国会議実行委員長、日本野外教育学会理事、日本キャンプ協会理事などを務める。自然体験・野外教育の研究分野では日本の第一人者のひとりとして著名。
著書、論文多数。

■関連情報
社団法人日本キャンプ協会