- 第4回 -  著者 星野 敏男


アユ釣りでも不思議な体験

 前回は、子どもの頃ヤマメ釣りをしていたときの、不思議な体験について書きました。ヤマメ釣りと一緒にアユ釣りもそれこそ、子どもの頃から実家の前の川でやっていましたが、実は、アユ釣りでも同じように自然認識にかかわる体験がいくつかありました。

 当時のアユ竿というのは今のように伸縮自在ではなく、竹竿を一本ずつつないでいく継ぎ竿で、子どもにはとても重いため、もと竿から2本ほどを省いて短くし、親父に作ってもらった子供用仕掛けで釣ってました。また、アユは釣れた場合の取り込み方法もなかなかむずかしく、釣れた場合には、もっぱらすぐ下流で釣りをしてる親父に、すくってもらってました。
 当時は、今のように引き抜いて網でキャッチする方法ではなく、水際まで引き寄せてタモ(網)ですくい取る方法でした。当時の竹竿や糸、仕掛けでは、こうでもしないと竿が折れたり、糸が切れたり、かかったアユがはずれてしまったりしてました。

 なお、アユを獲る方法としは、一般には友釣りが有名ですが、私の田舎には、もっと直接的にアユを獲ってしまう俗に言う「ひっかけ漁」という方法がありました。これは、先に針のついた2メートルくらいの細い棒のような道具使って、水中メガネや箱メガネをつけ、水中を泳いでるアユや逃げまどうアユを水中で直接引っかけて獲ってしまう方法で、非常に熟練を要します。

 小学校高学年頃になると、川の流れやアユの習性もよくわかってくるため、このわざができるようになります。この技術を一端身につけてしまうと、いとも簡単に川のアユをとることができるようになります。そのため、この狩猟方法は、当時はお盆まで堅く禁止とされてました。
 この引っかけ漁は、個人的には、もう友釣りとは比較にならないくらい面白いと、今でも思っています。もちろん、この漁法は現在ではすべて禁止になってます。大人達も私たちも、友釣りの解禁から、この引っかけ漁が解禁になるまでの期間は、「仕方なしにやむなく」友釣りでアユをとっていたようにも思えました。もちろん、友釣りには、それはそれで独特の面白みがあり、今でも楽しんでいますが。

知らない間にアユに習性を熟知
 とにかく、このような訳で、地元の子どもたちは、知らない間にヤマメばかりでなく、アユに関しても、こどものころからその習性や、生態を熟知していくことになります。

 そんなある日のことです。実家の前の川を見下ろすと、都会から来たと思われる全身フル装備の大人の人が、おとり鮎の扱いに苦労しながら友釣りをしていました。しかし、よく見ると、どう考えても「アユがいない場所」に、おとりを入れて頑張っています。ご存じのように、アユには独特の習性があり、なわばりを作るアユも作らないアユも、居つく場所がだいたい決まっています。逆に言うと、絶対居つかない場所、というのもあるのですが、その時のその人は、その居つくはずのない場所に、おとりを入れてじっと何時間もがんばっていたのでした。子供心にも、「そうか、この人はアユ釣りの仕方は知ってるけど、そもそもアユがどこにいるのかが、わかってないんだな?」と思ったのを覚えています。

自然の認識は体験から
 また、ある時のこと、近くの橋の上から友だちと下を覗いて、水中を泳ぐアユやヤマメを見ていたら、大人の人がやってきて「アユいるか?」と聞くので、「たくさんいるよ、ほら、あそこ!」と指さしてやるのですが、その人は、「どこ、どこ?」「えっ、どこ?」と言うばかりで、何度指さして教えてやっても、流れの中を泳いでいるアユを見つけられませんでした。

 川を見てアユやヤマメのいる場所、や居つく場所がわかることや、橋の上から水中を泳いでいる魚が見えるというのは、自分では、なんでもないことだと思っていたのですが、こういう自然に対する認識力のようなものは、体験を通してでないとなかなか身につかないものであるということが理解できるようになったのは、だいぶ後になってからです。

 生活や漁のため毎日自然と対峙していれば、自然に対するさまざまな認識力は否応なく、おのずと身についていくと思います。しかし、これをいったん教育という現場に置き換えて考えてみると、事はそう簡単にすまないことが、おわかりかと思います。
 体験の機会に乏しい現代の子どもたちに自然をどう教えていけばよいのか? とても大きな問題です・・・さらに続きます。


■バックナンバー
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(1)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(2)
なぜ、いまなぜ自然体験が必要なのか(3)
学校教育と自然体験(1)
学校教育と自然体験(2)
学校教育と自然体験(3)
学校教育と自然体験(4)
学校教育と自然体験(5)
学校教育と自然体験(6)

■著者紹介

星野 敏男(ほしの としお)
1951年栃木県生まれ。
明治大学 教授
東京教育大学卒業。筑波大学大学院で野外活動を研究。
野外教育全国会議実行委員長、日本野外教育学会理事、日本キャンプ協会理事などを務める。自然体験・野外教育の研究分野では日本の第一人者のひとりとして著名。
著書、論文多数。

■関連情報
社団法人日本キャンプ協会