第2回 著者 杉原 五雄


平成15年度 『飯田自然体験学習』レポート
2003年10月22日~10月24日(2泊3日)

(第二日目)
 翌朝、目覚めると抜けるような青空が広がっている。寝袋から這い出した子どもたちは家の前を流れる小川で顔を洗う。川の水で直接顔を洗う経験など初めての子どもたちは、『冷たいー』とか『気持ちいい』などと言い合いながら、冷たい小川の水を手にひらですくっては洗顔を楽しんでいる。

炊事は自分達で
 終わって広場での朝会と体操。朝のあいさつが静かな山にこだまする。
 この『飯田自然体験学習』は、何度も言うが誰も食事を用意してくれない。食べるためには全て自分たちで作らなくてはならない。これがこの学習の目的の一つであるが、指導する教師たちにとっては大変なことである。しかし、このプログラムを終えると子どもたちは確実に変化し、自主的で思いやりのある態度が身につくことから、教師にとってやりがいのある教師冥利につきる仕事である。
 朝の私の仕事は、食事当番以外の子どもたちを、自然の素晴らしさに気付かせるために、大平宿の周りの散歩に連れて行くことである。
              
 昨日と打って変わって、光が満ちあふれている。赤や黄色に色づいた木々の葉が、朝の陽を受けてキラキラと輝いている。誰からともなく『きれいー』『気持ちいい』という短い言葉が発せられる。
 今年は、樹木の専門家の林さんと一緒に朝の散歩を楽しむのであるが、彼は所々で立ち止まっては、葉っぱについていろいろと興味深い話をしている。私も何かしなければならない雰囲気になり、近くの笹を丸めて草笛を鳴らしてみたら、子どもたちがこれに興味を持って挑戦してくれる。ついつい嬉しくなってしまう。

 のんびりと大平の自然を楽しみながらの、約40分程度の散歩を終え戻ってみると、食事当番は悪戦苦闘の真っ最中である。しかし昨夜のような不手際はない上に、チームワークもまとまってきたので心配はいらない。それでも食事が済んで、後片付けなどしていると時間はどんどん過ぎていく。
 この日予定では、バスで近くの県民の森に行くことになっていたが、昨日ドングリの苗の植樹ができなかったので、今日改めて『中幡の森』へ行くことにしたので、時間的にはかなり苦しい日程になっている。

再び中幡の森へ
 『大平県民の森』は、今回の実地踏査で組み込んだ場所である。静かで360°の視界に電柱や電線がない。紅葉が見事で、のんびりと散策したり風景をスケッチするには、絶好の場所である。すぐ近くに大きなヤマメの大きな魚影も、たくさん確認できる池もある。
 この場でのプログラムをあきらめなければならないのは残念だが、『中幡の森』の植樹が大切である。子どもたちを少し急き立てて、9時にバスに乗り込み、昨日登ってきた道を今度は一気に下る。何度も記すが、昨日と違って、朝のまぶしい光に映えた山の美しさに見とれて、あっという間に目的に地に着くことができた。

 宮内さんからあいさつと植樹の説明を受けて、早速植樹にとりかかるが、今年はドングリの苗が多いので、一人で数本植えなければならない。子どもたちは、宮内さんが石灰で印をつけておいてくれた場所をスコップで掘り丁寧に植えていく。

中幡の森で植樹
 この『中幡の森』のことは、事前の指導がゆきとどいているので、子どもたちの植える動きも力強い。数十年後の森の姿を想像して植えているのだろうが、予想した以上に大きな土地と見晴らしの素晴らしさに、改めていつか来る日を思い浮かべているようである。
 例年より数が少なくなったとはいえ、かなりの数の報道陣が子どもたちの活動の様子を取材に来ている。同行した撮影隊もメインの活動なので、張り切ってカメラを回している。
 すっかり植え終わって記念写真を撮ったが、これまでの3年間で植えた本数ぐらいが、一挙に増えた森は、整地してある部分の約半分ほどがドングリの苗で覆われてしまった。去年植えた苗も宮内さんの手入れが行き届いていたおかげで、ほとんど枯れていないことを考えると、広い土地も10年もすれば、混みすぎるのではないかと、新たな心配も生れてくる。
 植え終わって、来年の6年生に託すために近くの森でドングリを拾う。4年も続いていると、自分たちの森が実現することが疑う余地のないものになるのだろう、ドングリを拾う子どもたちの姿に真剣さが現れている。

そば打ち体験
 今日の予定はかなり忙しい。これからソバ打ちを体験し大平宿に戻って、間伐体験と森林学習が待っている。
 宮内さんたちに送られて、そば打ち体験の場所に向かう。柿の沢センターでソバ打ちができれば良いのだが、雨による日程変更など全く想定していなかったので、お願いをしていない。あいにく予約が入っていて使えないので、無理にお願いして、飯田市の外郭団体が運営している『アザレア』という、お土産屋を兼ねた物産店を確保していただく。
 そこは、3年前のこの学習の際に帰る日に、昼食をいただいた場所であるが、新しくトンネルができたので、『中幡の森』からは、ぐっと近くなり15分ぐらいだとのことである。
 そば名人の仁科さんと、そのお仲間の方が、私たちを待ち受けてくださり、早速ソバ打ちの体験が始まる。まずは仁科さんからの説明であるが、仁科さんには申し訳ないが時間が気になって仕方がない。

 子どもたちは私の心配など全く無頓着で、説明を食い入るように聞いている。すぐに実地に入っていただけると思っていたが、仁科さんの模範のソバ打ちが始まり、ますます時間が気になってくる。(後で知ったが、これは撮影隊に頼まれたとのこと。この時ばかりは、正直、少しだけ撮影がやっかいに思えた。)

時間に追われる
 子どもたちは興味津々、楽しげにそばを打ちはじめている。そば粉に水を入れこねて団子状にしていく。丁寧に丸めて、そして広げ、たたんで切っていく。多分お腹もへっているのだろう、どの子も真剣な表情でソバに仕上げている。一方私はますます時間が気になる。
 仁科さんとは気心が知れているので、途中で『実は昨日の雨でやむを得ず、日程を変更している。できれば2時半までに、大平宿に戻りたいのでよろしく。』とお願いしたが、そこは名人の気質、おいそれと手抜きもできず、そばを打ち終わって、グループごとに茹でて食べはじめたのが、すでに1時を大きく過ぎてしまっている。
 毎年そばの量が多く、一人分の量を少なくしてもらうように、お願いしているのであるが、名人は少なすぎると、味が落ちると心配する。また二人一組で体験させることにもこだわりがあるようだ。私も仁科さんのこだわりも、もっともだと共感できるので、それ以上強くお願いしていない。

 例年のように時間があればが、ゆっくり食べたり、残ったソバを夕食の食材に利用するなどできるのであるが、今年はその余裕がない。無理すれば、まだまだ食べられそうな子どももいるようだが、片づけも皆さんに任せてしまい、大急ぎでバスに乗り込む。
 今日も一緒に行動してくれる信南交通のバスの運転手、柳沢さんに事情を話して、危険のない程度に急いでいただくが、途中で運転の下手な対向車に出会い、3時過ぎになってやっと大平宿に戻ってきた。柳沢さんの『あの車と出会わなかったら、十分間に合ったのですが・・・』という言葉が物語るように、かなり急いで登ってくれたようだ。



■バックナンバー
私の実践している自然体験活動 第1回
私の実践している自然体験活動 第2回
私の実践している自然体験活動 第3回
私の実践している自然体験活動 第4回
私の実践している自然体験活動 第5回
奥多摩での2日間~中幡幼稚園『奥多摩宿泊自然体験活動』レポ-ト~ 第1回
奥多摩での2日間~中幡幼稚園『奥多摩宿泊自然体験活動』レポ-ト~ 第2回
私の実践している自然体験活動 第6回
私の実践している自然体験活動 最終回
平成15年度『飯田自然体験学習』レポート(1)
平成15年度『飯田自然体験学習』レポート(2)
平成15年度『飯田自然体験学習』レポート(3)
平成15年度『飯田自然体験学習』レポート(終)

■著者紹介

杉原 五雄
1943年京都生まれ。富士電機通信製造(株)を経て、横浜国立大学教育学部卒業。
1968年東京都の小学校教員となり、現在、渋谷区立中幡小学校校長。
著書に「畑と英語とコンピュータ」などがある。
http://village.infoweb.ne.jp/~sugihara/main.htm