- 第6回 -著者 小日向 孝夫


「国際山岳年キッズ・ハイキング」

 昨年末の12月15日、東京から埼玉県をまたぐ西武鉄道の芦ガ久保駅で、「駅からハイキング」が行われた。
 これは、国際山岳年にちなんで、子ども達と一緒にハイキングをしようと、日本山岳協会が国連から依託されたイベントで、国際山岳年キッズデーとして行われた。
 これを企画したのは、登山家の岩崎元郎さん。子ども達が山に登らないと、将来の登山界が危ない。日本も危ない。子ども達に、素晴らしい日本の自然を少しでも味わって欲しい、という願いから出たキッズデーという発想だった。
 これを埼玉県山岳連盟、無名山塾、山と溪谷社などが協力して、西武鉄道が主催したというわけだ。

 当日の朝9時には、1週間前に降った雪が、チラホラ残る氷点下の芦ガ久保の駅前に、すでに300人の子ども達を含む、およそ650名もの人たちが集まった。
 9時30分、「ドーッ」と参加者の波が動き出し、岩崎さんを先頭に歩き始めた。
 ところが岩崎さんは、例の通りゆっくり歩きのため、たちまち元気のいい数組のファミリーと、若者達に追い抜かれてしまった。
 また、中高年の一部は、道しるべの矢印に従って、どんどん先に行ってしまった。しばらくすると、するとたちまち後姿は、見えなくなってしまった。
 日向山は標高が633mと低く、心配した雪も殆ど無く、天気もポカポカ陽気。実に快適なハイキングデーとなった。急な登りではあったが、全員元気よく、1時間ほどで日向山の頂上に到着。

日向山(633m)の頂上


こんな感じで登っていた

 さすが人気者の岩崎さんは、たちまち中高年の人達に囲まれ、記念写真の嵐。私はお付合いで、なかなか頂上を離れられないが、岩崎さんをよく知らない子ども達はサッサと下って行く。にぎやかな頂上からは、武甲山(1,295m)が雪を付けた真白な姿を見せていた。
 下りでは数カ所凍っている所があったが、岩崎さんのアドバイスよろしくゆっくり慎重に下り、ほぼ全員が日向山駐車場に到着。そこで岩崎さんによる安全登山講座と、ロープワーク講座が開かれた。会場には、秩父警察署から来てくれた山岳救助隊も、待機してくれていた。

 長いルートでもせいぜい5~6時間で往復できる、この秩父山系でも、昨年は死亡事故が3件も起こっている。
 安全登山の講演が終わって、ロープワーク教室になると、ロープが80人分しかないので、子ども達優先ですと、アナウンスしたにもかかわらず、大勢の中高年者が殺到した。子ども達はそっちのけだった。みんなロープワークに大変興味がある。大混乱になったものの教室は無事終了。
 子ども達は、ひとつやふたつは身につけてくれたと思うが、大勢いたオバサン達は、駅に着く前に、おそらく忘れてしまっているだろうな、なんて心配してしまった。

 1回目の講座が終わって、2回目までの間にすこし時間があったのだが、岩崎さんはサインに忙しく、昼食がなかなか食べられない。心配した何人かの参加者が雑煮、カレー、カップメンなどを、次々に私の分まで持って来てくれた。
 カップメンは「日清」の「京うどん」だった。サインの合間に、いろいろと食べて、それだけでお腹いっぱいだったのに、スタッフの方々が昼食を用意してくれた。それが殆ど食べられなくて、失礼をしてしまった。「京うどん」がおいしかったのが、どうやらイケナカッタようだ…。

 その後、2回目の講演会も無事終わり、春のようなポカポカとした日差しの中を、岩崎さんと私は、カサカサと気持ちよく、落ち葉を踏みしめながら下りはじめた。
 「小日向君、今日は良かったなぁ。このイベントは、なんとか毎年続けなくちゃいけないなぁー。」と岩崎さん。「ハイ、ガンバリましょう。」と、足をまえに進めた。

1回目の講演会


ボクできたよ


いそがしかったサイン会



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カップ麺は山で食べるのが一番美味い(6)

■著者紹介

小日向 孝夫(こひなた たかお)
1949年生まれ
(株)山と溪谷社に入社ののち、「OUTDOOR」編集部、「SKIER」編集長などを経て、現在事業部に在籍。取材などを目的にパタゴニア、ネパールヒマラヤ、ヨーロッパアルプス、ニュージーランドなどを歩く。厳冬期の谷川岳で数々の登攀記録をもつ。趣味は山登り、ヨットなど。海洋記者クラブ幹事。