- 第4回 -著者 小日向 孝夫


「アメリカイエローストーン 編」

歩かないと見えない米国流自然体験
 先日秋色濃いアメリカはワイオミング州イエローストーン・ナショナルパークとグランドティトン・ナショナルパークのトレッキングに行って来た。
 イエローストーンは1872年に世界で初めての国立公園として、なんと米国第18代大統領グラントより制定されたもの。見所としては煙草のセブンスターの宣伝に出てくる、石灰岩の真白いテラスで有名な温泉、マンモスホットスプリングスや、北米最長の川ミシシッピー川の最上流にあるイエローストーン川の源流域の滝と湖。そして世界最大の間歇泉、オールド・フェイスフル・カイザーなどがあるが、どの見所も30分~1時間のハイキングをしないと一番美しいところへ行けないという、実にアメリカらしい国立公園になっている。
 したがって、日本の名所旧蹟のように、バスを降りるとすぐというところが殆どない。どんなおジイさんもおバアさんも、そしてお子さんも少しは歩かないと美しい光景に会えないのだ。考えてみれば当たり前のことなのだが、米国流自然体験の原点を見た思いで、とてもうれしくなってしまった。

本当に「サプライズ!」
 多くのハイキングコースは、それらの温泉地形の間を縫いながらゆったりとしたトレイルがあって、美しいことこの上ないのだが、もし現地に行かれるのなら一つだけ注意が必要だ。それはイエローストーンの温泉はすべて熱水で、摂氏90℃以上なのだ。もしその中に落ちたら絶対に助からない。毎年1人~2人は間違って温泉に落ちて死んでしまう人や犬がいるのだそうだ。ましてや、温泉に入ってみようなどとはゆめゆめ考えてはいけないのだ。
 もうひとつの国立公園グランドティトンは、イエローストーンのすぐ南にある山岳国立公園だが、みなさんにわかりやすい紹介は、あの映画「シェーン」の名場面、「シェーン・カンバーック!!」の撮影地。美しい湖や川の向こうに見えるティトンの山群は、絵のように素晴らしい。なかでも良かったのは、ジェニーレイクのほとりから3時間ぐらい登った、グランドティトンの眺めが、特段に美しいといわれる、ザプライズド・レイクのハイキング。

カップヌードルは空港で食べる羽目に
 美しい森林の中をつづら折りに登っていくと突然、静まり返ったかわいい湖と雪をかぶったグランドティトンが、それこそ「サプライズ!」という感じで現われる。「なーるほど、それでこんな名前がついたのか」というのが実感でき、素晴らしい感動を味わせてくれた。
 ところが、あまりに感動したので、なんと日本から持参した肝心のカップヌードルを食べるのを忘れてしまった。あっちこっちと歩きまわって写真を撮っていたら、いつの間にか時間切れになってしまい、慌てて下らなければならなくなってしまったのだ。
 この8日間のアメリカの旅には、日本からカップヌードルを2つ持っていって、税関を通り、X線を幾度となく浴び、ザックの中に入れて、何度も登山をした。やっと食べられたのは、結局、帰りの空港だった。カップヌードルのカップがけっこう頑丈なのに驚くとともに、8日ぶりの日本の味は、やっぱりウマカッタ。



■バックナンバー
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(1)
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■著者紹介

小日向 孝夫(こひなた たかお)
1949年生まれ
(株)山と溪谷社に入社ののち、「OUTDOOR」編集部、「SKIER」編集長などを経て、現在事業部に在籍。取材などを目的にパタゴニア、ネパールヒマラヤ、ヨーロッパアルプス、ニュージーランドなどを歩く。厳冬期の谷川岳で数々の登攀記録をもつ。趣味は山登り、ヨットなど。海洋記者クラブ幹事。