- 第1回 -著者 小日向 孝夫


 山では、100メートル標高が上がるごとに0.6℃ずつ気温が下がり、風が1メートル吹くごとに、1℃ずつ体感温度が下がる。つまり、標高3,000メートルで風速5メートルであれば、東京が30℃だとしても、例えば北アルプスの立山の頂上では23℃も低い7℃しかないことになる。登山はそんな気温の変化をまともに受けるわけだ。
 もちろん実際には、晴れているときは太陽のおかげで、それほど気温は下がらず、直射日光下では20℃ぐらいとなるので、体感温度としてはちょうどいい感じになる。
 ところが、山の中では突然雨が降ったり、雲ったりというように、天候は急激に変化する。また、近くに雪渓があったり、渓流があるだけで気温が下がるなど、まさに環境は常に激変すると言っていいだろう。だから、登山ではついつい温かいものが欲しくなる。

 天候がめまぐるしく変化する環境の中で活動しなくてはならない登山では、温かい飲み物や食べ物は、強い味方どころか命の綱になることもしばしばだ。
 だから、私は登山に行くときは、必ずコンパクトなEPIのガスバーナーと、チタン製の軽量なクッカーを持ってゆくことにしている。これは昼食に熱々のカップ麺を食べたいためでもある。

 6月1日は雪渓技術の講習会のために、谷川岳の芝倉沢に出かけた。
 持っていったのは日清の韓国風辛口カップヌードル。冷たい雪渓の上では、熱くて辛いのがちょうど良かった。谷川岳の山頂は比較的広いので、雄大な景色を見ながらツルツルというのが気分的には一番いいのだが、とりたての天然水でお湯を沸かすと、なおさらいい。
 だから、ミネラル100%天然水にこだわり、芝倉沢の下部雪渓の一番下からとった、冷たい雪解け水をつかった。凍えるほど冷たいので、沸騰するのに少し時間がかかったが、味のほうはいつもよりさらに美味かった。山では贅沢なこだわりの一品となった。
 体も温まって元気一杯の至福のひとときが、なんとも素晴らしい。だから、山登りはやめられない。この日も、無事に山岳技術の講習会を終えることができた。



■バックナンバー
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(1)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(2)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(3)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(4)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(5)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(6)

■著者紹介

小日向 孝夫(こひなた たかお)
1949年生まれ
(株)山と溪谷社に入社ののち、「OUTDOOR」編集部、「SKIER」編集長などを経て、現在事業部に在籍。取材などを目的にパタゴニア、ネパールヒマラヤ、ヨーロッパアルプス、ニュージーランドなどを歩く。厳冬期の谷川岳で数々の登攀記録をもつ。趣味は山登り、ヨットなど。海洋記者クラブ幹事。