- 第5回 -著者 小日向 孝夫


「本当にキビシイ時は、山頂でラーメンはムリだった」

秋の安達太良山は冷雨の中
 10月の末、登山家の岩崎元郎さんとともに、東北の安達太良山と磐梯山に登って来た。山岳リーダーを目指す人達の講習会だった。
 今回の講習会は人気の岩崎さんが主任講師ということで、生徒さんが32名も集まった。そのため指導者も5人、補助指導者も2名配置しての実技指導となった。
 初日、安達太良山のロープウエイを降りると、雨になってしまった。しかたないので、全員上下カッパを着て歩くが、登山道がドロドロで、けっこう時間がかかった。主な講習内容は、地図と地形がテーマだったのだが、休憩ポイントでは現在位置の確認ぐらいしかできなかった。
 地図を見るのも、カサをさしながらなのでコンパスワークはムリ。食事も10分以内で摂り、そそくさと下山することになった。特に、箕輪山の長い下りではヌルヌルの道に、時々スッテンコロリの人が出るなど、急げないので時間がかかり、鬼面山から先は、暗くなってヘッドランプを灯すことになってしまった。
 真暗でヘッドランプで、ヌルヌルで雨。しかも寒いと、最悪のパターンだったが、そこはリーダーを目指す人達なので、夕刻になったものの無事に迎えのバスに乗りこむことが出来た。

安達太良山

山頂

雨が雪に変わり吹雪となった
 2日目は、今日こそ晴れかと思って、磐梯山に向け出発したが、登山口から歩き始めるとまた雨。再びカッパだ。しかも、それが8合目の小屋に着くころにはミゾレになり、頂上ではついに雪にかわった。しかも吹雪いてきた。積もらないうちに、下山することになった。沼の平まで下りると、強い風と雨も少しはおさまったが、冬型の気圧配置のためかなり寒い。結局、磐梯山登頂はあきらめ、宿舎の温泉でドブンということになった。
 雨や雪の中では食事の時間がとりにくい。お湯も沸かすことが難しいので、ラーメンも食べられない場合がある。この山行きもそうだった。
 宿舎に着く直前、振りかえると、一瞬姿を見せた山頂は真白だった。

講習会を抜け出して、塩ラーメンを食べる
 岩崎講師による地図の読み方も、この山行の大きな目的だったが、それがくしくも天候の悪化で、気象判断の講座になってしまった。そこで、みなさんに宿題を出すことにしますと、地図の読み方の問題を岩崎さんが出すことになった。2日間のコースで、登り何メートル、下り何メートルかを等高線の数から、標高差を割り出しなさいというもの。また、磐梯山の頂上から、安達太良山の山頂は、何度の方向に見られるかなど、即席で問題を作り配布した。

磐梯山清水小屋

箕輪山

鬼面山

 その時。私は何をしていたか。山頂でラーメンがムリだったので、2日間大切にザックの中に入れていたものの、少しイビツになった、私の好きな「塩ラーメン」にお湯を入れて、あーウマイと至福の時を、密かにむかえたのだった。



■バックナンバー
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(1)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(2)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(3)
カップ麺は山で食べるのが一番美味い(4)
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カップ麺は山で食べるのが一番美味い(6)

■著者紹介

小日向 孝夫(こひなた たかお)
1949年生まれ
(株)山と溪谷社に入社ののち、「OUTDOOR」編集部、「SKIER」編集長などを経て、現在事業部に在籍。取材などを目的にパタゴニア、ネパールヒマラヤ、ヨーロッパアルプス、ニュージーランドなどを歩く。厳冬期の谷川岳で数々の登攀記録をもつ。趣味は山登り、ヨットなど。海洋記者クラブ幹事。