- 第4回 - 著者 九里 徳泰


「リーダーという呼び方をしない」

 これまで、子供向けに野外・自然体験のプログラムや事業を行う際に、指導者、先生役の人のことを野外関係では”リーダー”、”カウンセラー”、”指導者”など使われてきた。子ども達が10数名を超える場合にはグループを造ることが多く、そのグループに大学生以上の大人が付く。リーダー、指導者はそのグループの中の上下関係を示す名称だろうし、カウンセラーは心理学用語から出てきているもので、欧米では当たり前に使っているが日本ではなじみがない。

プレゼンテーション光景
 エコツアーでは”インタープリター”もあるが、これもどうも違う。”インストラクター”、”先生”、”おにいさん”、”隊長”などなど色んなふうに呼ばれるが、どうもしっくりこない。まあこれは日常で使わないからということと、リーダー(指導者)という言葉を使うと、主体性教育(子どもに意志決定を任せた教育方法)を主眼とした場合、グループ付きの大人がリーダーとしてプログラムをリードしないことが重要であって、子どもが大人から安易に指示をもらえたり、頼ることがないという構造をとらなくてはいけない。となると、”リーダー”という言葉は不適切だ。

 私は、今年の8月に、小学校5年~中学2年まで36人の子どもを預かり、長野県白馬を中心に環境・冒険・国際プログラムを8日間に渡って展開した。その中で、子どもを6人のグループに分けて、6つのグループを造った。この6人に大人1人をつけるわけだが、主体性教育をモットーとするプログラムのため、この大人をどう呼ぶか困惑した。子どもに主体性を育むのに大人はどういう役回りをするべきか・・・6月に行われたサッカーワールドカップで「サポーター」という言葉が、とても一般化したことをふと思い出した。サポーター。そう、サッカーの世界では、選手が実力を発揮するにはサポーターは不可欠、ということは日本戦の結果そして韓国の躍進で誰もがあまたの試合を通して感じたはずだ。
 子どもの野外・自然体験のプログラムもそうであるが、野外での活動する”選手”本人である子どもの実力をだすための、グループ付きの応援者としての”サポーター”ということをイメージしてもらえばよくわかるだろう。
 最初、このサポーターという言葉を子どもに説明したら、皆すんなりわかってくれたが、2日目ぐらいまではつい”リーダー”と口を滑らせる子どももいたが、「そうだ、リーダーじゃなく、サポーター、僕らを応援してくれるんだもんね」とちゃんと理解してくれていた。
 我々のプログラムの結果は、主催者側が意図したとおり、(現在調査継続中であるが)子ども各人の主体性アップという結果がもたさらたことが、帰宅後の各家庭からの作文の報告が上がってきている。活動中、頻繁に使う言葉の意味は大きい。


■バックナンバー
冒険家から自然体験指導者へのメッセージ(1)
冒険家から自然体験指導者へのメッセージ(2)
冒険家から自然体験指導者へのメッセージ(3)
冒険家から自然体験指導者へのメッセージ(4)
冒険家から自然体験指導者へのメッセージ(5)
冒険家から自然体験指導者へのメッセージ(6)

■著者紹介

九里 徳泰(くのり のりやす)
1965年生まれ。冒険家、中央大学助教授。中央大学大学院総合政策研究科修了。
冒険家として世界80カ国を訪問。チベット高原自転車縦断、南米アコンカグア自転車下降などを学生時代に行う。その後も、高所登山、カヌー、自転車とオールラウンドにアウトドアでの冒険を展開。1997年に7年間にわたるアメリカ大陸人力縦断でオペル冒険大賞エポック賞受賞。
近著に、 「親と子の週末48時間」(小学館)、「九里徳泰の冒険人類学」(同朋舎)など、著作多数。作家、テレビ・ラジオ・インターネットメディアの出演者として多方面に活動している。

■関連情報
九里徳泰HP
中央大学研究開発機構
中央大学研究開発機構(政策科学研究ユニット)