~ 秋編1「どんぐり」 ~ 著者 林 将之


■どんぐりにもいろいろある

 ♪どんぐりコロコロ どんぶりこ・・・

 実りの秋が近づいてきました。既にどんぐりは枝の上で大きくふくらみつつあります。今回は、どんぐりのなる木について紹介します。
 どんぐりは何の木の実だと思いますか? 「ドングリノキ」という名前の木は、正確には存在しません。どんぐりとは、コナラやクヌギ、シイ、カシなどブナ科の樹木の果実を指す総称なのです。しかし、狭義ではクヌギの実のことを指すともいいますし、広義では少し形の異なるブナの実もどんぐりに含まれることになります。クヌギやコナラについては本稿「冬編2」で触れたので、今回はシイ・カシ類を中心にお話しましょう。
 シイ類といえば、スダジイ、ツブラジイ(コジイ)、マテバシイなど、カシ類といえば、シラカシ、アラカシ、アカガシ、ウバメガシ、ウラジロガシ、イチイガシ、ツクバネガシなど数種類があり、いずれも常緑樹であることがナラ類(コナラ、ミズナラ、クヌギ、カシワ等)との大きな違いです。ブナ科の樹木は、日本の森林を構成する最も主要なメンバーなので、全国的にごくふつうに見ることができます。日本の広葉樹林のおよそ半分以上はブナ科の樹木、つまりどんぐりをつける木といっても過言ではないと私は思います。シイ・カシ類といった常緑樹に限れば、関東以西の低地が分布域の中心になります。

■美味しいどんぐりを探せ

 秋になると、無意識のうちにどんぐりを集める子どもは多いようです。集めて特に何をするわけでもなく、ただ落ちているから拾いたくなる、というのは人間の本能でしょうか? 古代の人たちはどんぐりをたくさん食べていたといいます。最近では「どんぐりクッキー」などもよく目にしますね。多くのドングリはアクが強くて渋いので、しっかりアク抜きをしないと食べられませんが、中には生食できる美味しいどんぐりもあります。スダジイ、ツブラジイ、マテバシイなどがそうです。せめてこれらだけでも覚えておけば、どんぐり拾いの楽しみも増すことでしょう。

スダジイの葉は、裏面が金色であることが他の木とは異なる大きな特徴です。木を下から見上げるとこの金色がよく目立つので、たいていはスダジイと分かります。葉の先の方には、鈍い鋸歯(きょし:ギザギザ)が少しあるか、または全くありません。どんぐりは「椎の実」とも呼ばれ、カサカサした皮をかぶっていて、それがバナナのようにむけるので、普通のどんぐりとは風貌が少し異なります。右の写真はまだ皮がむける前の若いどんぐりなので、色も緑色をしています。ぜひ熟した本物のどんぐりを探してみて下さい。ツブラジイは、スダジイとそっくりですがどんぐりが丸くて(つぶら)小さいのでこの名があります。
マテバシイの葉は、この類の中では最大級で長さ15cm近くになります。どんぐりも一番のっぽで、長さ2cm前後になります。大きな葉とのっぽのどんぐりを見つけたらマテバシイと思って下さい。マテバシイの分布域は南日本の沿海部に限られますが、都市部の公園などにもよく植えられています。ただ、味の方はあまり風味がなく、スダジイなどと比べるとちょっと劣るようです。

本家本元のどんぐりはクヌギ



スダジイの葉



スダジイの若いどんぐり



マテバシイの葉



マテバシイのどんぐりを割った


■どんぐりと遊ぼう

 行き当たりばったりで足下に落ちているどんぐりを拾うのもいいですが、どんぐりが落ちるには少し早い時期は、葉っぱでお目当ての木を見つけてからどんぐりを探す、という方法もいかがでしょうか。特にスダジイやツブラジイのどんぐりは人気が高いので、先に他の人に拾われたり、小動物や虫に食べられてしまうことだってしばしばです。落ちる前に枝についたどんぐりを見つけることができたらベストですね。ただし、どんぐりには豊作年と凶作年があるので注意して下さい。
 いろいろな種類のどんぐりを食べ比べするのもいいでしょうし、姿形の違いを見つけるのもおもしろいでしょう。俗に言うどんぐりの「帽子」や「お椀」は、「殻斗(かくと)」と呼ばれるもので、種類によって形や模様が異なります。例えば落葉樹のコナラやミズナラと、常緑樹のアラカシやシラカシのどんぐりを比べてみた場合、一見形は同じに見えても、殻斗の模様が異なるので区別できます。こうした違いを探して発見することもよい自然体験になると思います。

 秋の山野でどんぐりぼっちゃんと一緒に遊びましょう♪


■バックナンバー
葉で調べる樹木の見分け方 ~冬編1「基礎・冬芽」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~冬編2「冬の落葉樹」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~冬編3「常緑低木」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~春編1「サクラ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~春編2「タラノキ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~春編3「カエデ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~夏編1「ウルシ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~夏編2「ウツギ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~夏編3「掌状複葉」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~秋編1「どんぐり」~

■著者紹介

林 将之(はやし まさゆき)
1976年山口県生まれ。編集デザイナー。
千葉大学園芸学部卒業後、植生調査や造園系雑誌編集の職歴を経てフリーに。2002年、学校法人中央工学校 非常勤講師。葉で樹木を見分けることをテーマに掲げ、樹木の観察指導やデジタル標本収集等に取り組んでいる。現在運営する樹木鑑定サイト「このきなんのき」では投稿写真から樹木の名前の鑑定を行っている。
著書「葉で見わける樹木」(小学館)

■関連情報
樹木鑑定サイト「このきなんのき」