~ 夏編1「ウルシ」 ~ 著者 林 将之


■これだけは知っておきたい・・・ウルシの仲間
 「ハゼの木はかぶれるから近づいちゃダメよ」。野山で遊び回っていた子どもの頃、よく親に口うるさく言われました。子どもに木の種類を見分けろと言われても難しいのですが、真っ赤に紅葉したハゼノキを一度目にしてからは、漠然とその葉の形を覚えていたものです。それを「羽状複葉(うじょうふくよう)」と呼ぶことを知ったのは、それから10年以上も後になってからのことです。
 今回は、野山に入る時に最低限知っておきたい木として、「かぶれる木」の見分け方をご紹介します。かぶれる木には、ハゼノキ、ヤマハゼ、ヤマウルシの主に3種類があります。いずれもウルシ科の落葉小高木で、羽状複葉を持つこと、葉柄(ようへい)が赤味を帯びることが多い、秋の紅葉が鮮やかなことなどが共通する特徴です。西日本を中心とした暖地ではハゼノキやヤマハゼが多く分布し、一方の北日本や山間部ではヤマウルシの分布が中心となります。これらを総称して「ハゼ」「ハジ」「ウルシ」などと俗に呼んでいることが多く、どれも姿形はよく似ています。単にウルシという名の木も中国にありますが、日本では漆液を採るために山地で栽培され、一部に野生化したものが見られる程度です。ウルシの仲間はこのように漆液が採れるほか、果実からはロウも採取できるので、昔は各地で栽培されました。中国原産と言われるハゼノキが広く野生化しているのもそのためです。
●ハゼノキ
【分布】中国、沖縄の原産。関東以西の低地に野生化。
【特徴】葉は厚く硬い。葉の表面や柄に毛はない。
●ヤマハゼ
【分布】関東以西の低地から山地に自生。
【特徴】ハゼノキの葉に似るが葉はやや薄い。葉の表面や柄には毛が生える。
●ヤマウルシ
【分布】日本全国の低地から山地に自生。
【特徴】小葉は丸みを帯びる。葉の表面や柄には毛が生える。

■近づいただけでかぶれる?
 かぶれの原因となるのは、ウルシ科の木の樹液に含まれるウルシオールなどの成分です。どの程度触れるとかぶれるかは人によってまちまちで、葉に触れるぐらいなら平気な人もいれば、木の下を通っただけでかぶれるという敏感な人もいます。葉をちぎったり枝を折ったりすると樹液が出るので、これには注意したいところです。ちなみに私の場合は葉に触れるぐらいは全く平気なのですが、小学生の頃に一度だけハゼノキにやられたことがあります。その時は顔中にブツブツができて、医者に行って軟こうを毎日塗ったものの、3日間は治らなかった記憶があります。山で遊んでいるときに気付かないうちにハゼノキに触れてしまったのでしょう。


木に巻きつくツタウルシ
 また、ウルシ科の仲間にヌルデという木もありますが、こちらはかぶれることは少ないと言われます。一方、最強のかぶれパワーを持つと言われるのが同じくウルシ科のツタウルシです。名の通りツタのように伸びるツル植物で、山間部に入ると他の木の幹に巻きついているのをよく見かけます。紅葉が鮮やかなので写真の被写体になることは多いのですが、必要以上に触れないよう注意したいものです。ツタウルシの葉は、他のウルシ類と違って三出複葉(さんしゅつふくよう)と呼ばれる形で、3枚の葉がワンセットになった形をしているので見分けるのは比較的簡単です。
■羽状複葉の葉はまず疑ってみる
 では、ハゼノキ、ヤマハゼ、ヤマウルシとそれ以外の木はどうやって見分ければよいのでしょうか。上述した通り、羽状複葉であることがまず大きな特徴ですが、ウルシ類以外にも羽状複葉を持つ木は多く存在しますし、外見が似ている葉も多いので正確な区別が難しいのが現実です。見慣れるまでは、羽状複葉の木はまず「ウルシ類では?」と疑ってみるのが基本とも言えます。

STEP1:そのためにはまず、羽状複葉なのか単葉(たんよう)なのかを見分けなければいけません(本稿第1回参照)。羽状複葉は、小さな葉(小葉:しょうよう)が複数集まって1枚の葉を構成する形なので、この規則性を見抜けるようになれば、一見しただけですぐ羽状複葉だと分かります。慣れないうちは芽の有無で見分ける方法もあります。葉のつく「枝」の先には必ず芽がありますが、「羽状複葉の柄」の先には芽はありません。芽がついているのは枝、ついていないのは葉と区別できるのです。

STEP2:羽状複葉であることが分かれば、次に葉のつき方(本稿第1回参照)が対生(たいせい)か互生(ごせい)かを見ます。これは小葉のつき方ではなく、羽状複葉本体のつき方を指すので注意してください。ウルシ類は互生なので、対生のトネリコ類やニワトコ、キハダなどとはすぐに区別できます。

STEP3:さらに次には、葉の縁に鋸歯(きょし:ギザギザ)があるかないかを見ます。ウルシ類は、幼木のときを除くとほぼ全縁(ぜんえん:鋸歯がないこと)です。これに対し、クルミ類、ナナカマド類などははっきりした鋸歯があるので区別できます。鋸歯の有無が不明瞭なカラスザンショウ、ニワウルシなどは葉が大型なので、大きさでも区別できます。

羽状複葉
対生
アオダモ、トネリコ、ヤチダモ、キハダ、ゴンズイ、ニワトコ等
互生
鋸歯あり
オニグルミ、サワグルミ、ナナカマド、ヌルデ、カラスザンショウ、
ニワウルシ等
鋸歯なし
ハゼノキ、ヤマハゼ、ヤマウルシ、イヌエンジュ、フジキ、ムクロジ等

こうして消去法で絞っていくと、イヌエンジュやムクロジなどと似ていることが分かります。これらのとの区別は、ぜひ実物や図鑑を見て形の違いを確かめてみてください。もちろん、上記STEP1~3の調べ方を経なくても、いつも山に入っている農家の方やアウトドアの達人たちは、経験と勘だけでウルシ類を見分けることができます。慣れれば樹形でもある程度見分けられるでしょうし、自分に合った見分け方を探すとよいでしょう。



■バックナンバー
葉で調べる樹木の見分け方 ~冬編1「基礎・冬芽」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~冬編2「冬の落葉樹」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~冬編3「常緑低木」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~春編1「サクラ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~春編2「タラノキ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~春編3「カエデ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~夏編1「ウルシ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~夏編2「ウツギ」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~夏編3「掌状複葉」~
葉で調べる樹木の見分け方 ~秋編1「どんぐり」~

■著者紹介

林 将之(はやし まさゆき)
1976年山口県生まれ。編集デザイナー。
千葉大学園芸学部卒業後、植生調査や造園系雑誌編集の職歴を経てフリーに。2002年、学校法人中央工学校 非常勤講師。葉で樹木を見分けることをテーマに掲げ、樹木の観察指導やデジタル標本収集等に取り組んでいる。現在運営する樹木鑑定サイト「このきなんのき」では投稿写真から樹木の名前の鑑定を行っている。
著書「葉で見わける樹木」(小学館)

■関連情報
樹木鑑定サイト「このきなんのき」