第6回 「離島観光に思う:奥尻島編」 著者 木村 宏


 日本列島は北海道、本州、四国、九州、沖縄本島を主要5島としその周辺に約7000島もの島々から構成されるまさに島国である。そのうち、人が住んでいる島が420ほど存在する。主要な5島から離れているといった意味から名がついたのか、その島々は本島に対して「離島」と呼ばれることも多い。
 折りに触れ、離島ブームと呼ばれる観光目的地化した島観光の波に浮き沈みを見せている。1853年、国は離島振興法を制定し、国土保全の重要な意味を持ち、自然環境に恵まれた、しかし気候や天候が厳しく、交通の不便さなどの問題を抱え生活基盤が安定しない島の振興、発展を図るための特別措置を示した。と同時に第一次離島ブームが始まった。

 その後も、1968年の壱岐対馬国定公園の国立公園制定や、1972年の沖縄返還など、たびたびブームが訪れている。2012年の法律改正時には、観光振興による離島の活性化という文言が追加され、その際にも離島ブームが巻き起こっている。  2021年度3月現在、77地域254島がこの法律のもとに振興策を講じているが、観光という意味でその成果が大きく現れていないのが現状であろう。特に島観光は南高北低といわれ、沖縄や奄美群島を楽しむ人に比べ、北海道の離島観光は厳しい状況におかれている。
 近年、「島旅」「島のアウトドア」などコロナウイルス対策として、あまり人がいない、空気のきれいなで都会から隔絶された場所という意味で、新たな離島ブームも生まれているようだが、こと北海道の島々はことさら厳しい自然環境におかれる島ばかりだ。さらに、航路の運休もしばしばおこり、短な夏だけの営業を余儀なくされることが致命的であり、島の振興に観光がもてはやされる場面が少ない。
 近頃、日本最北の離島というキャッチフレーズのもと「利尻」「礼文」が北の離島観光の中でもしばしば脚光を浴びている。国立公園にも指定され(実際には両島の面積の約半分が指定区域であるが)「利尻山が生み出す多彩な景観、花咲き誇る最北の公園」として環境省も誘客活動に余念がない。利尻富士の雄姿は、北海道を代表する風景の一つでもある。利尻・礼文の話は花咲くがごとき膨らんでいくのであるが、今回はこの利尻・礼文ほどメジャーではないながら、知られざる魅力満載の「奥尻島」をあえてアウトドアの聖地として紹介しよう。

 意外に思うかもしれないが北海道には、500を超える離島が存在する。その中で常に居住者がいるのは5島であり、奥尻島はそのうちの一つである。周囲は65㎞程(出版物によってまちまちなのでここでは約65㎞とする)、標高584㎡の神威山を中心になだらかな扇状の大地に主に4つの集落が点在する。函館から空路が毎日一便、江差追分で名を馳せる江差町からはフェリーが毎日往復している。夏は札幌からの定期便の飛行機もやってくるので天候さえ安定していればまずまずのアクセス条件が整っている。

 北海道の離島といえば海産物の宝庫と想像に難くないが、ここ奥尻島といえば、ホッケ、イカ、ウニの水揚げ量で約7割を超える。そのあとはタラ、タコ、貝類と続く。新鮮な魚介類を売りにした宿泊施設も多い。また、コメの栽培も盛んで、酒米から日本酒づくりも行われ、独自の品種改良を進めたブドウから造るワインの醸造所もある。さらに黒毛和牛の「おくしり和牛」は希少種として島で名なかなか手に入らない逸品だ。青物野菜の栽培もおこなわれているし、島の中で自給自足が可能な北の離島では珍しく食文化も豊かな島なのだ。食通が足しげく通う島としても隠れファンには有名ではあるが、美食家たちはあまり口コミしない。こんなおいしい島は類を見ないからだ。こっそり通う人が多いのもうなずける。



■バックナンバー
北海道のアウトドア雑感 1
北海道のアウトドア雑感 2
北海道のアウトドア雑感 3
北海道のアウトドア雑感 4
北海道のアウトドア雑感 5
北海道のアウトドア雑感 6

■著者紹介

木村 宏(きむら ひろし)
東京都生まれ
北海道大学 観光学高等研究センター 教授
信越トレイルクラブ 代表理事、日本ロングトレイル協会 常務理事、日本トレッキング協会 理事
大学卒業後ホテル・リゾート開発会社の勤務を経て、長野県に移住し宿泊施設の経営の後、飯山市の観光推進組織において滞在型の自然体験施設、温浴施設、道の駅、新幹線飯山駅内の観光施設やアクティビティーセンターの立ち上げに関わるなど施設運営や観光まちづくりに取り組む。信越トレイルやみちのく潮風トレイルの立ち上げにも関わり、ロングトレイル、トレッキングの普及活動にも従事する。2016年から現職。