第5回 「定番のアウトドア」② 著者 木村 宏


 さて、「ジンパ」の起源を辿っていくと、意外な場所が登場するのである。それは、クラーク博士で有名な北海道大学である。こちらもいつのころからか、という但し書きが付くのであるが(正しい起源はわかっていない)大学の敷地内では、新歓コンパ、納涼の行事、歓送迎会や、卒業記念などなどの行事にかこつけて「ジンパ」が行われている。公の大学構内でジンギスカンが焼かれている光景はあまり想像がつかないかもしれないが、事実、夏をはさんでアウトドアが恋しい季節になると、どこからともなくあの香ばしいにおいが漂ってくるのである。講義の一区切りに、サークルで、研究室を挙げてなど「ジンパ」の合言葉に垣根を超えた交流があちらこちらで生まれる。まさに北大名物の行事なのである。

 「ジンパ」は当然羊肉が食用に供されて以降の出来事であるので、滝川市や月寒(札幌市)などに種羊場が開設された大正から昭和初期以降、当時の北海道帝国大学(北海道大学の前身)時代に始まったことが推測される。1947年(昭和22年)に北海道大学に改組改名して以降、高度経済成長時代と重なって、食品の調達も容易となり「ジンパ」まさに花盛りの時代を迎えていったのであろう。2013年(平成25年)には、校内のジンパ熱が最高潮に達し、夜を徹したドンチャン騒ぎや不適切な場所での開催、ごみの散乱などマナー違反のグループ続出に業を煮やした大学当局は、ジンパ禁止令を発し、校内での「ジンパ」ができなくなってしまった。これを受けて北大文化の冒涜だともいわんばかりに、有志学生による「北大ジンパ問題対策委員会」が組織され、当局と折衝する風景は度々マスコミの話題にも登場した。結果、大学当局との話し合いの末、特定の場所を指定し、時間制限などのルールを守り、開催の申し込みを経て行う条件で北大ジンパが復活した。

 話は長くなっているが、この北大ジンパがキャンパスを飛び出し、広く北海道のジンギスカン文化とマッチングを果たし「ジンパ」という言葉は道民の公用語と化したのである。
 アウトドアアクティビティーの需要は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、密を回避し開放的な空間で、かつ健康趣向のライフスタイルの希求とともに高まっている。「ジンパ」は健康なのか。最後にこじつけとも取れるかもしれないが、ジンパの健康への影響と社会貢献について話を進め結びとしたい。

 先ず健康への影響という点で、ジンギスカン、すなわち羊肉は他の食用肉に比べ、コレステロールが少なく(善玉コレステロールの含有量は多い)、脂肪燃焼効果の高い「カルチニン」の含有量が多く、ビタミンも豊富なためダイエット効果も期待できるとされている。食べて健康になる食品としての価値があるという点では、圧倒的にジンギスカンの消費量が多い北海道民の自慢であり、アウトドアで健康、といったキャッチフレーズにも使われてもいいのかもしれない。
 また、羊肉の消費拡大がもたらす社会貢献という点では、羊が牧草やわらなど 繊維質 豊富な粗飼料を好んで食べるという点に注目すれば、コメ、トウモロコシ、大豆など地球規模の気候変動による酷暑、干ばつ、自然災害などを原因として生産量が上がっていない穀物などを使った濃厚飼料(主に牛や豚、馬などの飼料)消費の増大を抑え、ひいては食糧問題解決の一助になる可能性を秘めているのということである。

 「ジンパ」の効果については、今後その発祥でもある北海道大学の学術研究に委ねるとしよう。本号は、雑駁な話に終始してしまいながらも、ジンギスカンにまつわる話はまだまだテンコ盛りである。この続きは「ジンパ」をしながらでもいかがだろうか。



■バックナンバー
北海道のアウトドア雑感 1
北海道のアウトドア雑感 2
北海道のアウトドア雑感 3
北海道のアウトドア雑感 4
北海道のアウトドア雑感 5

■著者紹介

木村 宏(きむら ひろし)
東京都生まれ
北海道大学 観光学高等研究センター 教授
信越トレイルクラブ 代表理事、日本ロングトレイル協会 常務理事、日本トレッキング協会 理事
大学卒業後ホテル・リゾート開発会社の勤務を経て、長野県に移住し宿泊施設の経営の後、飯山市の観光推進組織において滞在型の自然体験施設、温浴施設、道の駅、新幹線飯山駅内の観光施設やアクティビティーセンターの立ち上げに関わるなど施設運営や観光まちづくりに取り組む。信越トレイルやみちのく潮風トレイルの立ち上げにも関わり、ロングトレイル、トレッキングの普及活動にも従事する。2016年から現職。