第4回 「定番のアウトドア」① 著者 木村 宏


 北海道民の老若男女に共通したアウトドアアクティビティーといえば、「ジンパ」と断言してもいいだろう。ジンギスカンパーティー、略して「ジンパ」である。ジンギスカンは北海道のソウルフードであり、北海道観光のお目当てのひとつにやってくる観光客も少なくない。札幌では「だるま」「松尾ジンギスカン」「さっぽろジンギスカン」などの老舗に並んで、サッポロビール園はご当地ブランドのビールとジンギスカンが楽しめる定番スポットだ。道内の主要都市の繁華街でも見かけないことがないのがジンギスカンの店である。こういったお目当ての店舗でビール片手にジンギスカンを食すのも一興である。

 ジンギスカンは、次の世代へ引き継ぎたい有形・無形の財産の中から、北海道民全体の宝物として選ばれる「北海道遺産」にも認定されている。ジンギスカンの起源は諸説あり、特に北海道では、防寒のための衣類の需要に応えるため綿羊の飼育が盛んにおこなわれ、その二次利用として羊肉の食用化が試行錯誤されたようだ。味付け、食べ方、そのネーミングまでも幾多の伝説があり、北海道以外でも、その発祥の地を名乗るジンギスカン発祥の地と言い張る地域が存在するなど、ある意味、謎多き食材といえるのではないか。ちなみにジンギスカンの命名について北海道では、「源義経が北海道を経由してモンゴルに渡ってジンギスカンとなったという都市伝説(義経=ジンギスカン説)から想起したものである」(ウイキペディアから引用)と語られるのをよく耳にする。この伝説とは関係ないが、私が行きつけのジンギスカン店は「義経」という老舗店だ。90歳を超えた女将とその妹君が現役で頑張っている。特にここのラムしゃぶ(ラム肉のしゃぶしゃぶ)は、美味い、としか言いようがない。

 話は大きく脱線気味であるが、このコラムはアウトドアアクティビティーとしてのジンギスカンを語らないわけにはいかない。北海道の定番アウトドアアクティビティー「ジンパ」は春から秋にかけての北海道の風物詩であり、海や山へのキャンプこそ「ジンパ」と切り離して考えることがむずかしい。短い夏をアウトドアでという発想は北欧のそれに似ているところもあり、朝4時には明るくなり夕方7時でもまだ余裕の明るさ、という日の長さをアウトドアで楽しむのは北海道民も同様である。たいていの家では、御用達の羊肉の仕入れ先があり、大きな保冷ボックスにあれこれ詰め合わせて海や湖、高原へと向かう。東京の都会のバーベキューサイトとは違い、カラット乾燥した青空のもと、野趣深い自然の中で楽しむ「ジンパ」は格別だ。しかし、四方を海でかもまれてはいるものの、意外と北海道にはいい白浜のビーチが続く海岸は少ない。そもそも白浜のビーチというよりは黒砂の海岸や、ごつごつした岩場、海にせり出した断崖が多く浅瀬も少ない。おまけに海岸の風も強いので「ジンパ」の適所を見つけるのには苦戦する。そもそも海水浴場が少ないが故、スペースを広く取り煙ブンブンの「ジンパ」禁止の浜も多い。その分、湖沼や渓流沿い、公園やキャンプ場での「ジンパ」が盛んである。夏のキャンプ場では昼から白い煙と、ジンギスカン特有の胃袋を刺激する香ばしいにおいが漂っている。また、自宅の庭先や、夕方以降ぐっと気温が下がる北海道にあっては車を格納するためのガレージが「ジンパ」の舞台になる光景も珍しくない。まさに「ジンパ」は道民の文化なのだ。



■バックナンバー
北海道のアウトドア雑感 1
北海道のアウトドア雑感 2
北海道のアウトドア雑感 3
北海道のアウトドア雑感 4

■著者紹介

木村 宏(きむら ひろし)
東京都生まれ
北海道大学 観光学高等研究センター 教授
信越トレイルクラブ 代表理事、日本ロングトレイル協会 常務理事、日本トレッキング協会 理事
大学卒業後ホテル・リゾート開発会社の勤務を経て、長野県に移住し宿泊施設の経営の後、飯山市の観光推進組織において滞在型の自然体験施設、温浴施設、道の駅、新幹線飯山駅内の観光施設やアクティビティーセンターの立ち上げに関わるなど施設運営や観光まちづくりに取り組む。信越トレイルやみちのく潮風トレイルの立ち上げにも関わり、ロングトレイル、トレッキングの普及活動にも従事する。2016年から現職。