- 第4回 - 著者 大蔵 喜福


「HOW TO、山歩きはじめの一歩」

 現在、歩くという基本中の基本ができない人が増えています。爪先を上を向けて歩くという正しい歩き方ができていないのです。少し早足になったり、かけっこをするとよくわかりますが、転ぶという現象のほとんどがここに原因があります。爪先が地面に引っかかるからです。これは足の筋力の弱まっている証拠で、畳の生活からベッドへ、座るかたちから椅子へ、和式から洋式便器へといった生活習慣に変わってしまったのが要因といわれています。だからこそ率先して外で歩くことをしないと、二本足で歩くという人としての体を成さなくなります。

「歩きの基本」
 路面の状況や背負う荷物の量にもよりますが、リラックスした状態のまま背筋と膝を伸ばし、自然な脚運びで足は踵から着地します。踵の着地から爪先までの蹴りだしをスムースに、動きに合わせた呼吸でリズムを整えると疲れにくく動くことができます。
 傾斜が強くなったら歩幅を狭くし、足の裏全体で歩くようにすること。歩幅が広いまま歩くと相当疲れます。そして、ゆったりとした一定のペースを守って歩くと良いでしょう。

 呼吸については吸うことより、吐くことを意識しましょう。子どもや運動経験の少ない人は吐く呼吸が下手です。吸ってばかりだと不要な空気が肺から排気されず、酸素を有効に取り入れることができません。長丁場の時は会話をしながら歩けるほどのスピードなら疲れません。最初は意識的に行うとよいです。

 傾斜のある下り道では、怖さから腰が引けて身体が後傾姿勢となり、足元が不安定になり転びやすくなります。膝を曲げやや前傾姿勢で地面をしっかり見て歩けば安全です。

「効率のよい休み方」
 気ままな休憩は、 かえって疲労を促進してしまいます。荷重や地形、 体力、 天候などの諸条件にもよりますが、登り道では30~40分、 平坦路や下り道では50分~1時間ごとに5~10分を目安に休みをとりましょう。2~3時間ごとに20~30分の大休止をすると疲労回復と気分転換に有効です。また、長い登降の節目には時間に関係なく小休止を入れたり、景色のよい場所などでは足を止めるゆとりを持ちましょう。

「近郊と山麓の自然を楽しむ」
 遠方に出かける時間がない時、山歩きの前の足ならしにすすめたいのが、近郊や山麓の自然探勝ウォークです。都市近郊なら、ちょっと大きめの公園や河川沿いの遊歩道、車の通行量が少ない裏道をつないだり、古い民家や建物などを見ながらたどる「自然と歴史散歩」など、自分なりのテーマとコースを設定して歩くのも楽しいでしょう。
 山麓には都市にはない自然と人の生活の調和が見られます。鳥や植物のウォッチングなどを兼ねた散策もよいでしょう。
 他にも雑木林では昆虫、アニマル・ウォッチング、夜にはスターウォッチングなどが楽しめます。

「服装と持ち物」
 シューズ:足首を保護できる深めのトレッキングブーツ。
デイパック:容量が20リットルほどの軽いもの。服装:丈夫で活動的なもの。雨具は上下のセパレートタイプなら防寒にも使える。着替え、帽子と手袋も忘れずに。その他:ライト、地図と磁石、水筒に食料、救急用品、ゴミ袋、植物や野鳥図鑑と双眼鏡があると楽しめる。

「ネイチャー・ウォッチングの楽しみ」
1.自然とうまく付き合うために
 a.不必要な採取はしない。
 b.食べもの・ゴミは持ち帰る。
 c.植生に踏み込まない。
 d.自然の中で大きな音を立てない。
 e.野外活動は無理のないスケジュールで安全に。
 f.ビノキュラー(双眼鏡)を持参して楽しむ。

2.名前を知ることで広がる世界
 共に生きているものの名前をひとつ知ると、急にそれが身近な存在になってきます。自然の世界は新鮮な驚きに満ちて、知れば知るほど心を豊にしてくれるものです。偶然同じクラスになった者同士が生涯の親友になるのに似ています。ちょっとした興味から思いがけない新しい世界を広げてくれるのです。


■バックナンバー
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(1)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(2)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(3)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(4)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(5)最終回

■著者紹介

大蔵喜福(おおくら・よしとみ)
1951年長野県飯田生まれ。クリエイティブディレクター、著述業/登山家。
20代は岩壁登攀でヨーロッパ、アメリカに。'79 年には世界初のヒマラヤ縦走登山(ダウラギリ三山縦走) に成功。30代はヒマラヤ厳冬期登山にこだわる。冬のチョモランマ北壁に二度挑戦。'85 厳冬期最高到達地点〔8450m〕記録をつくる。 '87秋チョー・オュー(8201㍍) では無酸素登頂。40代はマッキンリー気象観測のため12年連続して登頂。カヌーでの瀬戸内海初横断、朝鮮海峡横断などユニークな記録も持つ。海外登山、辺境トレッキング等は50数回におよび、多角的にアウトドアスポーツを楽しみマルチに山を遊ぶ活動は精力的で、雑誌、テレビ、ラジオ、講演でも活躍。'00 年、マッキンリー気象観測が評価され、第三回秩父宮記念山岳賞を受賞。著作「エベレストのぼらせます」小学館 '00、「地球元気村遊びテキスト-山の遊び方-」旬報社 '01など多数。