- 第1回 - 著者 大蔵 喜福


「親の考え方を変える」
 子どものころに何をして遊び、そこから何を学んだか自分自身を振り返ってみたことがありますか?わが子にそれを話したことがありますか?そして、あなたは地域の子どもたちの名前と年齢を何人知っていますか?
 親と子の絆が人としての成長の根底にあるという当たり前のことが、今脆弱になっていることさえ気づかない人達が多くなっています。それは大人と子どもがそれぞれ独立した人格と生活があると割り切って、学業優先に偏りすぎている一面と、手に負えないという悪い意味での放任主義に二極分化しているように見えます。
 懐古主義ではありませんが、子どもたちという財産を地域ぐるみで育てるという考え方は、現在はほとんど見かけないといったら言い過ぎでしょうか。開発途上国のように生活の中で子どもが係わる必要性がなくなったことも、おおきな要因になっています。

「地域コミュニティで自然体験を考えてみよう」
 社会的な繋がりが薄くなった子ども達は、学校というコミュニティのみが人間形成の場所になり、親も「勉強さえしていれば」と手抜きに陥って、すべてを学校に任せっきりの無責任状況を作りだしているようにも見えるのです。大人達も他人の子どもには無関心です。躾けから体力、学業すべてを学校の責任にしていませんか。
 今の学校ではそういった負荷がかかりすぎ、先生方は余計なことは先送りします。というより不可能な状況と思います。中には精力を傾けていろんな活動をされている先生もいるでしょうが、一般的に言って学校ではリスクの大きいことは回避します。
 完全学校5日制は、子ども達に、そして親達に、さらに先生方にそれぞれ「何」を期待するのか、考えざるを得ない状況になっています。文部科学省はそのねらいをこう説明しています。
 1)家庭、地域社会、学校が連携して子どもたちの個性を伸ばし、豊かな人間性を育成する。
 2)ゆとりと特色ある教育課程を編成し、個性を生かす学校教育を展開する。
 3)基本的な生活習慣の定着や豊かな心の育成など、家庭の教育力の充実に努める。
 4)自然体験、社会体験、ボランティア体験などの機会を一層充実させ、子どもたちの健全育成を図る。
 以上を踏まえ子どもたちの「生きる力を育む」としています。
 理想からいえばすぐにでもこうありたいのですが、それぞれの提案に対して具現できるまでには相当な時間を必要とします。すでに家庭と地域が一体となって事を行うコミュニティが薄れてきている現状を考えれば無理もありません。

 今、子どもの成長に何が必要か、それは家庭からの変革です。親の考え方の改革です。親として子どもの目を見て真剣にいろいろ話をする時間をまずとることです。
 自分達の経験はあまり参考にならないからと話もしない親御さんが相当多いのではないでしょうか。あまりの環境の違いに、そんなことは無駄だと思っていませんか。
 子どもの目が輝くような体験をさせること、いろんな情報を与えることが親の役目です。それに相応しくすぐにでも実践可能なことは、自然体験という学習です。

「山や川で好きなように遊ばせよう」
 自然体験学習の基本は、ただ山・川・海で好きなように遊ばせることから始まります。何をやらそうとか、大人の考えるカリキュラムはいりません。子どもは遊びの中からいろんな興味を捜し出す力を持っているはずです。
 ゆとり教育とはいい響きのことばです。じっくりと物を観察する、なぜ、どうしての疑問を持たせる、教科書に無い教育ができるのが自然です。完全学校5日制は学習内容が3割減といわれますが、この教科書に無い教育がしっかりと補うはずです。
 遊ぶことから学ぶには人間形成に必要な要素がたくさん含まれています。ひとつに勉強する興味の対象が山ほどあること。二つめは、行動から学ぶ体力向上と危機管理、自分のスキルです。三つめは、自分の行動をプロデュースする能力が養われることです。

「ハイキングからはじめよう」
 わが国の教育の欠点は、機械的処理能力の非常に高い者をつくることには長けていても、自らの課題を見つけ出し学び、考え、判断していく能力をつけることに欠けています。そういった意味でも野外で活動を重視していく思考を保護者がしっかり持たなくてはならないと考えます。体力ひとつとっても80年代がピークで、年々落ちてきています。今、外で遊ぶ子ども達は2割弱といわれています。

 どうでしょう保護者の皆さん、道具優先の単なるキャンプなどをやめて、山や川、そして海辺へ子ども達を連れだして、ハイキングからでも始めたらいかがでしょうか。まずは体験です、知識は後からついてくるものです。



■バックナンバー
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(1)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(2)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(3)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(4)
自然体験活動のすすめ「山に登ってみよう」(5)最終回

■著者紹介

大蔵喜福(おおくら・よしとみ)
1951年長野県飯田生まれ。クリエイティブディレクター、著述業/登山家。
20代は岩壁登攀でヨーロッパ、アメリカに。'79 年には世界初のヒマラヤ縦走登山(ダウラギリ三山縦走) に成功。30代はヒマラヤ厳冬期登山にこだわる。冬のチョモランマ北壁に二度挑戦。'85 厳冬期最高到達地点〔8450m〕記録をつくる。 '87秋チョー・オュー(8201㍍) では無酸素登頂。40代はマッキンリー気象観測のため12年連続して登頂。カヌーでの瀬戸内海初横断、朝鮮海峡横断などユニークな記録も持つ。海外登山、辺境トレッキング等は50数回におよび、多角的にアウトドアスポーツを楽しみマルチに山を遊ぶ活動は精力的で、雑誌、テレビ、ラジオ、講演でも活躍。'00 年、マッキンリー気象観測が評価され、第三回秩父宮記念山岳賞を受賞。著作「エベレストのぼらせます」小学館 '00、「地球元気村遊びテキスト-山の遊び方-」旬報社 '01など多数。