第4回 著者 大西 かおり


 大杉谷では水が気持ちのいい季節がやってきました。川の中で泳ぐのは素敵に楽しいことですが、川の中の“魚”を見たりとったりすることも大変楽しいことです。今回は大杉谷自然学校が実践している“魚”についてのプログラムをご紹介します。

アクアリウムの作り方
 皆さん魚はお好きですか?私は食べることはもちろんですが、観察したり、生活について調べたりすることも大好きです。魚の美しい姿や楽しい行動を見ていると時間がたつのも忘れるほどです。  川や海の中で泳ぐ魚を見ることは特別楽しいことですが、そうそう海や川にばかり行くことはできません。でも、私は毎日魚を観察することができるのです。

 私の部屋には7年間かかさず“アクアリウム”というものがあります。「“アクアリウム”って何?」と思われる方もいるかもしれませんが、これは簡単にいうと水辺の環境を擬似的に水槽に作り出したものです。魚を飼うことを楽しんでいらっしゃる方も多いと思いますが、そのほとんどの方がポンプを使って空気を水槽内に循環させていると思います。ところが私が作る“アクアリウムではポンプは必要ありません。必要なのは光をよく通すガラスの容器、水草、砂利、光そして運動が嫌いな魚か水中の生きものです。7年前コンラート・ローレンツ博士の「ソロモンの指輪」という本を読み、動物行動学を研究していた博士らしい視点で作られていた”アクアリウム“に興味を持ったのが始まりでした。

 さて、どのようにアクアリウムを作るかというと、ホントに簡単です。上記のものさえ準備できれば、もう成功したも同然です。ガラス容器の中に砂利を敷き、水を入れます。そして、水草を植えて光が程よくあたる場所におきます。光があたると光合成によって酸素の粒が放出されるのが観察できます。2-3日経過を見ましょう。そのまま水草が順調に育つようであれば、さあ魚を引越しさせてあげましょう。きっと魚はその新居を気に入ってくれるはずです。それから毎日魚に適量のエサをあげてください。魚の排泄物が水草の栄養になります。水草は魚からの栄養によって育ち、魚は水草の酸素によって呼吸をします。このバランスを保つのがアクアリウムを健康に保つために重要なことなのです。

 注意がいくつかありますので、確認してみてください。
(1)ガラス容器の大きさや魚の種類、大きさによって飼育できる魚の数が異なります。最初は1匹からはじめてみて下さい。ちなみに今は4リットルのガラス容器に全長3.5cmのタナゴかフナの仲間を1匹だけ飼育しています。
(2)光が十分あたる場所に置いてあげましょう。ただし、直射日光は避けましょう。光量は水草が育つために非常に重要です。光量が十分でないと水草は腐ってしまいます。色々な種類が販売されているので、光や温度条件による生育を調べてみると良いでしょう。だから、光をあまり透過しないような、厚いガラスの容器は適しません。クリアーなものがベストです。
(3)魚は止水域にいるような種類を選んであげてください。運動が大好きな魚を狭いところに閉じ込めるのは魚にとっては苦痛です。容器から外に飛び出してしまうかもしれません。日本の魚だと、フナなど、外国のものですと闘魚(ベタなどと呼ばれます)が今まで実践したものの中ではいいと思います。以前オイカワの子どもに挑戦してみましたが、ある日虫を取ろうとしたのかジャンプして外に飛び出し死んでしまいました。

育てることが教えてくれること
 これまで色々試行錯誤してきて、今はタナゴの仲間のような魚を1匹大きなガラス製お菓子入れで飼育しています。3年前の5月に地元の方が杉の葉に産卵したものを孵化させた20匹ほどをいただきました。最初1年はガラス花瓶で飼育していましたが、その小ささにぱっと見ただけでは水草が植えてある花瓶があるだけに見えたものです。やがて、花瓶の中で淘汰があり、1匹だけが残りました。それが今も3年目を生きるタナゴの仲間です。この魚は生まれたときから水槽しか知りません。だからその魚にとってはこれが自分の世界の全てなのです。

 わずか数リットルの水が生命を育んでいるというのは本当に不思議な気持ちがするものです。ほんの微妙なバランスが崩れても魚の宇宙は崩壊してしまいます。だから、人間が自然界に与えている影響を考えると大変なことだなといつも思います。
 自然の中で、動物や植物の断片的行動を見るのも興味深いことですが、でも自分で実際に飼育してみるということで教えられることが本当にたくさんありますよ。短期的な体験では気付けないような貴重な体験ぜひしてみてください。


■バックナンバー
大杉谷自然学校の自然プログラム(1)
大杉谷自然学校の自然プログラム(2)
大杉谷自然学校の自然プログラム(3)
大杉谷自然学校の自然プログラム(4)
大杉谷自然学校の自然プログラム(5)

■著者紹介

大西 かおり(おおにし かおり)
三重県多気郡宮川村・大杉谷自然学校代表