第1回 著者 大西 かおり


「危険な武器から便利な道具へ」

魚をとるにはまず釣りざお作りから?!
 “日が落ちるまでたっぷり川で釣りをした後、「ただいま~」とおじいちゃん、おばあちゃんのところに帰る。田舎料理を食べた後は昔の面白い話を聞かせてもらって、いつもと違う部屋でぐっすり眠る。明日がもっと楽しみになる、そんな1日。”孫さんキャンプは「田舎のおじいちゃん、おばあちゃんのところで過ごすような休暇」を子どもたちに体験してもらうことをコンセプトにした宿泊型自然体験活動です。
 この春休み中も「大杉谷の春休み」と題した2泊3日の孫さんキャンプを行ったばかりです。このキャンプのテーマはずばり「春の宮川で魚釣り」です。大杉谷に住む子どもたちは、昔は釣りざおから何から全て自分たちで工夫して魚を捕まえていました。その道具の一つ一つに自分なりのこだわりがあり、工夫があり、考え方の軌跡があったのです。子どもたちは自分たちのお気に入りの道具を大変大切に使ったものです。今回のキャンプでは、そんな昔の大杉谷の子どもたちが味わった、魚をとることを創意工夫する苦労や楽しさ、そしてモノ作りに対する姿勢について学んでもらおうと企画しました。

道具か武器か・・・・
 「刃物を聞いて何を連想する?」という達人の質問に子どもたちの答えはなんと「銀行強盗!」「怖い」「痛い」「殺人」などなど。今の社会状況を反映してか、社会の不安要素を反映するような答がたくさんでました。子どもたちの身近な刃物の使い方は“便利なものを作る大切な道具”というより、自分たちから遠く離れた人たちが使う“危険な武器”というイメージの方が強くなってしまったようです。それを聞いた、長年生活のために様々なものを工夫して作ってきた 達人は「それは使う人次第で変る。」と諭しました。今も遠い国では戦争が続いています。そして、国内でも人が傷つけられる事件がおこっています。人を傷つける危険な武器になるか、モノを作る便利な道具になるかこの2つの使い道を分けるのは使う人の心にほかなりません。
 達人の質問は、現代の子どもたちから遠ざかっている、生活にはなくてはならなかった刃物という道具を使って、いったいどんなものができるか実感してもらうための体験に入る前のひとコマでした。今回は竹を使った箸作りと釣りのために使う釣りざおを作りました。

えっ?!!!刃先を親指に当ててる?
 小学1年生から中学1年生までの27人に肥後の守と呼ばれる切り出しナイフが配られます。中には刃物を使うのが初めての子もいます。まず、どうやって肥後の守を持つのか、そして刃物を動かす先に手は絶対置かないことや人が周囲にいないかどうか確かめるなどの注意を受けました。人も自分も安全に作業を進めることが最優先事項なのです。かくして、慣れぬ手つきで竹の5ミリ角材にされた箸の原型を削っていきます。上は持ちやすく太めに、そして下にいくほど、食べ物をはさんだり、裂いたりできるような形に細く整えていきます。
 「使い方を間違うと、自分も人も怪我さすぞ!」達人から注意が飛びます。集中して作業をする竹を削る音しか聞こえない、ここちよく緊張した空気がみなぎります。そんな中、どきっとする光景に出くわします。肥後の守の刃先と背を間違えて、切れる刃先に親指を当てて切ろうとする子がいるのです。昔から刃物をよく使っていた人には信じられないことだと思います。ところが、最近は30人の子どもたちに肥後の守を使ってもらうと3~4人くらいは刃先を親指に当てて逆向きで使おうとする子どもがいるのです。背には赤いペンで色付けをし、事前に十分注意をしますが、作業に夢中の子どもたちには気づかなくなることもしばしばなのでしょう。でも、この場合にケガをすることは不思議なことにありません。おそらく、使ってみても切れないか、痛いと気づくので、すぐに持ち替えるのでしょう。昔は子どもの常備道具だった肥後の守は、今では持ち方も使い方もわからない道具になってしまっているようです。

自分たちで創意工夫
 硬い竹を慣れぬ道具で削り始めて1時間30分もすると竹の棒が箸らしく変身していました。そして、とりあえず、作りたての箸で夕食を食べました。使い勝手がまだ悪い箸は宿泊した民泊先で、昔刃物を使っていたおじいちゃんに教えてもらって作り直します。こうして、どんどん自分の使いやすい箸に変形させていくのです。子どもたちは箸が指に合うように表面をすべすべにしたり、手作りの釣りざおが重くて使えない場合は、軽くなるように途中で竿を短くしたりと色々工夫をしていました。
 自分で使うからこそわかる自分で工夫するべき点。自分でしたいことをするために自分で作り、試し、また直す。この繰り替えしから、さらにいいものを作り出すという創意工夫の心をもつことがとても重要だと考えています。昔の子どもたちが毎日当たり前のように使っていたこの思考回路を知った子どもたちは、きっともう“刃物は武器”なんてことは言わないでいてくれるのではないでしょうか?


■バックナンバー
大杉谷自然学校の自然プログラム(1)
大杉谷自然学校の自然プログラム(2)
大杉谷自然学校の自然プログラム(3)
大杉谷自然学校の自然プログラム(4)
大杉谷自然学校の自然プログラム(5)

■著者紹介

大西 かおり(おおにし かおり)
三重県多気郡宮川村・大杉谷自然学校代表