第2回 著者 大西 かおり


 大杉谷には新緑がまぶしい季節がやってきました。上を見上げると、透けるような葉がとても爽やかです。そして、下を見ると柔らかな芽吹きをたくさん見つけます。
 今回は“食”についての実践例をご紹介します。

●味覚テスト「舌に覚えあり」
 おいしいものには、すぐ「おいしい!」とわかるものから、「なんとなくこっちの方がおいしい」と感じるものまで様々なおいしさがあります。味にはいつも敏感になっていないと微妙なおいしさはわからないものです。そんなとき、大杉谷自然学校では「舌に覚えあり」というプログラムをします。やり方はいたって簡単。2種類の食材を準備して食べ比べてもらうのです。

味覚テスト「舌に覚えあり」の方法
(1)味比べをする2種類のものの名前を紹介します。
(2)AとBのカップにどちらのものかわからないように入れ、味わいながら飲んでもらいます。
(3)どちらがおいしいか聞いてみましょう。
(4)どちらがどちらか名前をあててもらいましょう。

●外国産水VS地元の湧き水、市販鰹ダシVS鰹節のダシ
 最近実施したものでは、市販の外国産水(硬水)と地元の湧き水(軟水)、鰹ダシと鰹節からとったダシについて比較してもらいました。水は“おいしい”、“おいしくない”をよく問われるものですが、特に臭いがないような2種類の水の、その微妙な味を味わうことは以外と難しいことがよくわかります。「口の中に少し重く感じるのが硬水、軽いものが軟水」、「味が濃いのが硬水」などなど色々な味についての意見が出ていました。皆さんも一度ゆっくり水を味わってみてください。どんな味に感じられるでしょう?この味比べでは、およそ半数の人が硬水と軟水の違いがわかり正解していましたよ。
 さて、もう一つの鰹ダシについてですが、こちらでは“おいしい”と感じたものに市販鰹ダシを選んだ人が多かったのです。手軽においしさを凝縮した市販の鰹ダシは侮れないなと思います。そういえば、地元の人では市販のダシを日常的に使う人が圧倒的多数を占めています。おいしいと感じる味の文化というのは、決して普遍ではなく、その時々の時代を反映したものになるのでしょう。
 この「舌に覚えあり」では大人も子どもも自分の舌を試したくてウズウズします。そして、チャレンジしてみて、その味の微妙さに驚かされます。味というものは雰囲気が占める部分も大きいので、実はしっかり味わうということは意外と集中力のいるものなのです。

●山野草は昔の重要な食料
 味に敏感になった後は、いよいよ春の生命力をいただきます。春の植物はこれから大きくなるための力がみなぎっています。昔々、スーパーもなくあまり野菜が買えなかった頃、畑で取れる野菜があまりなかった頃、そんな時代、人々は野草を好んで食べていたと言われています。ここ大杉谷でも70代〜80代の方はとてもたくさんの山野草を食べていたという話をよく聞きます。中には強い毒を根に含んでいるヨウシュヤマゴボウの新芽やユズリハを毒抜きして食べていたという驚きの話も聞きます(注意:毒抜きには方法がありますので絶対に食べないでください)。それだけ山野草は重要な食料源だったのでしょう。ところが、色々な野菜が購入できるようになり、山野草は味のよいものだけが今も食べられるようになりました。だから、今人気の高い山菜は味がいいものなのです。

●山菜の種類
 大杉谷で好んで食べられる山菜はイタドリ、ワラビ、ゼンマイ、タケノコ、タラの芽、ウド、フキ、フキノトウ、ツクシ、コゴミなどです。2月下旬から生え始めるフキからタラの芽、ワラビ、イタドリ、タケノコなどとだいたい5月中旬くらいまで毎日のように山菜が食卓に上ります。こんなに山菜が好まれるのはその独特の歯ごたえや香り、味などが他の野菜では味わえないものだからです。

●1番人気のイタドリ
 大杉谷で好んで食べられる山菜の中でもっとも人気の高いものは“イタドリ”というタデ科の植物です。大杉谷周辺に住んでいる人はこの植物を見ると目の色を変えて取ります。春に食べる分に留まらず、樽いっぱいに塩漬けしたり、最近は冷凍したりと年中食べられるように保存をしているのです。だから食卓に上る量も回数も多く、お味噌汁の具にしたり、煮物にしたりと色々な食べ方で歯ごたえや味を楽しみます。ここ出身の私もイタドリを食べるのも取るのも大好きです。
 ところが大杉谷周辺に住む人以外ではそれほど盛んに食べていないようです。大杉谷の人々はこちらを取り終わると、周辺の町村に出張に出かけていきます。その他のところではこんなにイタドリを採る習慣がないようです。地域によって好まれる山菜はずいぶん違うようですね。

●ワラビが減ったわけ
 さて、対照的にワラビはどこでも好まれる山菜の筆頭といっても過言ではありません。ところが、大杉谷では今、ワラビが減少してきています。昔はワラビ畑のようなところがたくさんあったのですが、最近はそんな群生地は少なくなってしまいました。この現象は問題化している森林の荒廃と密接な関係にあります。昔の林業はある程度のサイクルで山を開伐していたので、数年単位で光のよくあたる原っぱが出現していました。光を好むシダ植物のワラビはそんなところに好んで根をおろし、繁茂していました。ところが最近は木が売れないため、間伐さえされない山が広がっています。だから、昔ながらにワラビが繁茂することは少なくなってしまったのです。つまり、一つの産業構造が壊れるとそれに付随していた文化も変化せざるを得ないということなのです。

●灰汁を抜きましょう
 さて、イタドリ、ワラビ、ゼンマイたくさんとってきても残念ながら、すぐに食卓にあげることはできません。これら山菜には“あく(灰汁)”と呼ばれる、不快な味や体に悪い物質が入っているのです。例えば、ゼンマイやワラビは、生の状態ではビタミンB1を分解する酵素があるものもあります。“あく”とは、食べた時の苦味やえぐみのような不快感を与える成分、あるいは色を悪くする成分や毒成分などを総称していいます。あくが多いものや有毒成分が含まれるものは「あく抜き」をしてから食べます。「あく」は水に溶けるものが多く、ゆでたり、水に晒したりすると少なくなります。その他、糠、重曹を茹で水に加えたり、燃えた木の灰などを用います。特に大杉谷では木の灰が好んで使われます。アルカリ性の物資は、植物の組織を軟化させて「あく」を外に出やすくするのです。 しかし、山菜のおいしさは独特の風味です。「あく」抜きはほどほどが良いでしょう。大杉谷でのあく抜き方法を示しました、ご参考に。
山野草処理方法保存方法備考
ゼンマイ重曹を加えた沸騰水でさっと茹でた後、干しながら3回ぐらいよく揉む。乾燥水1リットルに重曹小さじ1
イタドリ葉を取り除いた後、茎を割り、沸騰水でさっと茹でた後、流水に1日以上さらす。塩漬け 
ワラビ木灰ふりかけ沸騰水をかぶるくらい注ぎ冷めるまでおく。流水に2時間位さらす。乾燥・塩漬け・冷凍木灰の代わりに熱湯1リットルに重曹小さじ1
タケノコぬかを加えた水でやわらかくなるまで茹でた後、さめるまでおく。流水に1日以上さらす。塩漬け 
ヨモギ熱湯(水1ャに重曹小さじ1)にくぐらせ流水でさらす。乾燥・冷凍 
山フキさっと茹でた後、皮をむき、流水にさらす。――― 

●定番料理(1) 天丼
 大杉谷自然学校の山菜の定番料理は“天丼”です。あくがとても強いものや体に悪い物質が入っている場合はあく抜きしますが、それ以外のものは天ぷらにするとすぐに食べられます。天ぷらにすると舌に触れると不快感が残る、あくが油でコーティングされるのでわからなくなります。本来の味や風味はおちますが、取りたてのものを手軽に味わうにはこれが一番簡単でおいしい方法です。そうしてあげた天ぷらを天丼にするとこれは格別なおいしさが味わえます。
 天ぷらのねたは、いろいろなものにチャレンジできます。フジやアケビのツルの先、ヨモギ、ドクダミ、ゲンノショウコ、ヨメナ、ヤブレガサなど山菜ではなく、薬草として使われているものも食べてみます。天ぷらにすると風味があるほうがおいしく感じますよ。ドクダミ、ヤブレガサ、ヨモギなどは特に風味が残ります。コゴミ、タラの芽などは歯ごたえも楽しめます。一度試してみてください。

●定番料理(2) ないしょ餅
 さて、もう1つ地元の山菜を生かした料理をご紹介しましょう。名前は“ないしょ餅”です。面白い名前ですが、これは音をたてないようになべの中で餅を作ったところからきています。昔、甘いものが貴重だった時代、隣の人におすそ分けをしなくてもいいよう、気づかれず“ないしょ”で餅をつくったことからこの名前になりました。白い餅もできますが、地元では薫り高いヨモギをいれた春先のお菓子として食べられています。材料は簡単で道具もほとんど要りません。ぜひ、あく抜きしたてのよもぎを入れて野外で楽しんでみてください。

材料)あく抜きしたヨモギ・もち米4:うるち米6・餡・塩
道具)なべ、しゃもじ
作り方)※事前にもち米とうるち米を炊き上げてください。
(1)餡以外の材料をなべで混ぜる。
(2)もち米の粒がなくなってきたら混ぜるのをやめ、丸める。
(3)餡を中につつんで出来上がり。
※時間をおいてもあまり硬くならないのでおいしくいただけます。

●山菜の注意!
 山菜はとてもおいしいです。でも、この2点は必ず守ってくださいね。
(1)毒を持っている植物と似ている山菜があります。山菜を食べなれていない方は図鑑で必ず確かめてから食べてください。最近ではトリカブトやコバイケイソウを間違って食べてしまった事故も起こっています。
(2)山菜は採りきらない。周りを確認して、もし、自分が取ろうとしているものが、そこにしかないものであったり、数が少なくなってきているもの、木の芽だったとしたら、残しておいてあげましょう。数年後には今年取るより、もっとたくさんの収穫が期待できるでしょう。
 ずっと長いこと山菜を楽しむためのお願いです。


■バックナンバー
大杉谷自然学校の自然プログラム(1)
大杉谷自然学校の自然プログラム(2)
大杉谷自然学校の自然プログラム(3)
大杉谷自然学校の自然プログラム(4)
大杉谷自然学校の自然プログラム(5)

■著者紹介

大西 かおり(おおにし かおり)
三重県多気郡宮川村・大杉谷自然学校代表