- 第4回 -  著者 清水 國明


キャンプは好きだけど虫が嫌いって人が多い。僕も苦手。ヘビはもっと嫌い。情けなく飛び上がってしまう。アウトドア派なんて言ってるくせに、とよく言われるけれどしかたない。野山でヘビに出会っても、ペットショップで見てるような反応しかしない人は、僕はいつかきっとマムシに咬まれるのではないかと心配になる。虫にしても、飛び上がりはしないけれど、テントに蚊が1匹まぎれ込んだだけで、そいつを確実にやっつけるまで寝つくことができない。野山に入っているときは皮膚に蚊がとまった瞬間気付くように、意識を集中させている。それでも刺されはするけど、比べると他の人より圧倒的に少ないし、早く気付くのでハレ上がることもない。「さすが、免疫ができてるね」と言われるのだが、そうではなく虫が嫌いだから人より警戒してるだけの話。
自然に親しむほど、恐れるべきものを正しく恐れる態度が身についてくるのだと思う。自然を征服したような錯覚が、毒虫や毒蛇への反応をルーズにさせているのだから、もっと謙虚になるべきだろう。

どんな野生の生きものにもワーキャー怖がって反応するのは、都市生活者を気取りたい人の見栄だろうから論外だけど、例えばスズメバチやマムシのように命にかかわる生きものを見分ける能力と反射的な反応は、いくら時代が変ったとしても生きてゆくために欠かせないものなのだ。
先日、川の流れが川床をけずって大きな滝を造り出した渓谷を見物に出かけたとき、川へ続く道路ぞいに出店しているおみやげ屋さんの店先に、グロテスクなマムシの干物が並べて売られていた。そんなものをはじめてみた妻が、「あーっ、マムシッ」と大きな声で叫んだら、ちょうど川の方から歩いて登ってきて店の前を通り過ぎようとしていた女の人が、モノも言わず、ピョン、ピョン、ピョーンと、まるでオリンピックの三段跳び選手のように飛びはねて去って行った。人として、正しい反応であると思ったのである。

...続く


■バックナンバー
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■著者紹介
清水 國明(しみず くにあき)
1950年、福井県生まれ。
現在、テレビ、ラジオでのコメンテータや新聞雑誌への執筆活動など幅広く活躍中。芸能界きってのアウトドア派として自然体験イベントや講演活動も多い。家族と共に楽しむアウトドアライフは、趣味でもあり、ライフワークでもある。1995年には、自然暮らしの会を結成。代表を務める。
■関連情報
自然暮らしの会