- 第1回 -  著者 清水 國明


「今朝私、パパが書いた本読んでて泣いちゃったよ」

 山の中のダム湖へ5日間も泊り込みで魚釣りに出かけていた帰り道、高校3年生の長女から電話がかかってきた。出かける前、崩れそうな本の山を片付けているとき、10年も昔に書いた「家族友遊び」という本が出てきた。僕の書斎を兼ねているトイレで懐かしく読み返してみたら意外と面白い。なのにさっぱり売れなかった理由が、今ならわかる。長女が生まれたころの、滑稽なくらい高ぶった気持ちのまま、家庭内の些未なことを書きつらねている育児日誌のようなもの。しかも「パパはね・・・」と子供に語りかけていて、遺言みたいでもあり、売れなかったはずだ。冷静になった今、赤面する親バカぶりを自分で面白がるぐらいしかないと思っていたその本を、長女が読んで泣いたと言う。

「てことは、おまえもトイレで読んだのか」「うん。ウンチしながら泣き笑いしてたの」
 失礼な娘である。
「私がどんな風に生まれて、育てられたのかがわかって面白い。それにパパの気持ちも・・・」

 『生まれたばかりのおまえは、・・・・ぶさいくだった』という一文を恨んでいるようだ。でも、そのまま読み進んでくれたら、たくましく、楽よりも楽しいを選ぶ健やかな子供に、と願う親心をわかってくれるはずである。そして今までどうして我家が国内にとどまらず、アラスカの雪原やミクロネシアの無人島、テキサスやオーストラリアなどで、はてしなくアウトドア活動を繰り返してきたかという訳もわかるだろう。

 アウトドアは楽しいだけではなく、自然の中にいるとみんなが自分らしく、家族らしくなれる。人間が人間らしく生きるためには、これ以上自然から離れたり、自然を遠ざけてはいけないと思っての旅だったのだ。

 ウンチしながらだけど、出産の感動を語る父の文章に涙するような娘に育ててくれた、大自然に感謝しなければ、と思う。

...続く


■バックナンバー
自然暮らしは面白い(1)
自然暮らしは面白い(2)
自然暮らしは面白い(3)
自然暮らしは面白い(4)
自然暮らしは面白い(5)

■著者紹介
清水 國明(しみず くにあき)
1950年、福井県生まれ。
現在、テレビ、ラジオでのコメンテータや新聞雑誌への執筆活動など幅広く活躍中。芸能界きってのアウトドア派として自然体験イベントや講演活動も多い。家族と共に楽しむアウトドアライフは、趣味でもあり、ライフワークでもある。1995年には、自然暮らしの会を結成。代表を務める。
■関連情報
自然暮らしの会