- 第3回 -  著者 清水 國明


 「夏が来れば思い出す」尾瀬に行ってきました。思い出すといっても今回訪れるのが初めてなので、尾瀬の歌を思い出す、と言うべきかもしれません。「水バショウの花が咲いている、夢見て咲いている水のほとり」かと思っていたら、にぎやかなのってなんのって。

 中高年の登山ブームのすごさを身をもって思い知らされました。群馬側から登って尾瀬を目指し、福島側へ出るルートを歩いてたのですが、途中の木道ですれ違う人たちから何度も声をかけられたのです。しかも「あら南ランボーさんじゃないの」「ちがうわよ、この人は南コウセツさん」。かと思えば「清水さんよね、清水アキラさん」。もういちいち訂正する気力もなく、顔をふせて歩いてました。『家族で出かける、尾瀬と温泉の旅』というテーマの旅番組のロケでした。高校生の二人の娘はいいとして、妻と小学一年の三女が心配だったのですが、見事に二人とも、ゴールまで歩いてくれました。

 大人でも息がきれる坂道を健気に登る三女を、上から降りてくる人たちが交互に「がんばってるねー」と頭をなでて通り過ぎます。「髪の毛なくなっちゃうよー」とボヤキながらも、三女は声をかけられるたび、増々元気になって、一度もオンブされることなく全工程を歩ききったのです。尾瀬沼や水バショウを観ることができた感動がまたひとしおでした。

 三女にとっても今回の旅は、とてもいい経験になったと思います。

 がんばって、見知らぬ人に誉められたこと。やりとげたときの充実感。ゴールと同時にみんなで胴上げしてやりました。これからの人生を生きてゆく上で大切なことを学び、そして大きな自信を得たことでしょう。

 それにしても、群生する水バショウよりもたくさんの中高年の人たちが尾瀬にあふれてました。今になって自然の素晴らしさに気付くのなら、もっと早く、これくらいの歳から山に登っていたら・・・・。そんな想いが三女の頭をなでさせたのかもしれません。

...続く


■バックナンバー
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■著者紹介
清水 國明(しみず くにあき)
1950年、福井県生まれ。
現在、テレビ、ラジオでのコメンテータや新聞雑誌への執筆活動など幅広く活躍中。芸能界きってのアウトドア派として自然体験イベントや講演活動も多い。家族と共に楽しむアウトドアライフは、趣味でもあり、ライフワークでもある。1995年には、自然暮らしの会を結成。代表を務める。
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自然暮らしの会