![]() ![]() ![]() 著者 節田 重節
9月13日に警察庁が今年の夏山期間(7~8月)における山岳遭難統計を発表した。期間中に738件の遭難が発生し、遭難者数は809人、うち死者・行方不明者は61人(7・5%)、負傷者351人(43・4%)、無事救出者397人(49・1%)だった。遭難件数・遭難者数とも過去最多となっている。 2020年以降、新型コロナウイルス感染予防の見地から行動制限が続いていたが、ここにきて感染状況も沈静化したため、5月のGWから夏山にかけて多くの人々がアウトドアへ飛び出すようになったことが背景にあるのだろう。ちなみにコロナ元年の2020年は、この10年間で遭難件数が最も少なく470件、21年が533件、22年が668件、そして今年が最多の738件と、右肩上がりで増えている。 連日のようにテレビや新聞、ネットニュースなどで遭難報道が流れたが、原因や態様としては「疲労」と「病気」による遭難が多く、過去10年間で最大の比率となっている。極度の疲労や病気を含むコンディション不良で歩けなくなって救助要請するという、いわゆる〝軽い遭難〟が多かったのが特徴だ。そのほか相変わらず転倒や転・滑落、道迷いなども多く、それぞれ20%前後を占めている。 ![]() 白馬岳周辺や剱・立山連峰、薬師岳・雲ノ平周辺、槍ヶ岳周辺、穂高連峰など、全域で遭難事故が多発しているが、穂高連峰が最も多く、20件以上発生している。穂高連峰の場合死亡事故が多く、前穂・北尾根や同重太郎新道、同吊尾根、奥穂~西穂稜線など、やはり上級者ルートや危険個所で発生している。一方、「あんな所で遭難が?」と思うような場所での事故が雲ノ平周辺や常念山脈などで起こっている。登山者層が多様化するとともに、遭難も多様化していることが分かる。 では、なぜ遭難件数が過去最多となったのであろうか。一番の理由は、前述したようにコロナ禍が明けて人々が一斉に山へ出かけたこと。次に「中高年登山ブーム」から始まって「山ガールブーム」が起こり、登山という遊びがいわゆる「山ヤ」だけのものではなく、一般化したこと。登山ガイドブックやネット上に登山情報があふれ、誰でも登れそうに錯覚してしまうこと。つまりベースの数字が大きくなったからで、それだけに未熟な登山者が入り込む確率も高くなり、遭難につながったものと思われる。 ![]() 「山の実力」とは、ピンチにおいてこそ発揮できる能力のことである。天候はもちろん、自分もしくはメンバーの体調が万全で、一般コースであればまず問題なく踏破できるであろう。問題はアクシデントが起こったときの対応である。そこで必要になってくるのが、あらゆるシチュエーションでの経験である。 低山から徐々にステップアップしながら様々な経験を積み重ね、謙虚に冷静に自分の実力を判断して身の丈に合った山を選べ、山歩きを楽しんでもらいたい。 ■バックナンバー ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ■著者紹介 節田 重節(せつだ じゅうせつ) 日本ロングトレイル協会 会長 1943年新潟県佐渡市生まれ。中学時代に見た映画『マナスルに立つ』や高校時代に手にしたモーリス・エルゾーグ著『處女峰アンナプルナ』を読んで感激、山登りに目覚める。明治大学山岳部OB。㈱山と溪谷社に入社、40年間、登山やアウトドア、自然関係の雑誌、書籍、ビデオの出版に携わり、『山と溪谷』編集長、山岳図書編集部部長、取締役編集本部長などを歴任。取材やプライベートで国内の山々はもとより、ネパールやアルプス、アラスカなどのトレッキング、ハイキングを楽しむ。トム・ソーヤースクール企画コンテスト審査委員。日本ロングトレイル協会 会長、公益財団法人・植村記念財団理事など登山・アウトドア関係のアドバイザーを務めている。 |