- 第45回 -  著者 中村 達


「富士登山」

 このところ、富士登山について、たずねられることが多い。「今年、富士山に登りたいのだが、どんな格好でいけばいいのか?」とういうのが、ほとんどだ。
 そこでこの夏、富士登山を計画されている人も多いことだろうから、アドバイスを少し。

高山病に注意
 まず、富士山の標高は3,776mで、高山病にかかりやすいということ。これは、酸素のありがたみが、いやというほど理解できる現象だ。高山病は早い人なら、2,500m程度でも症状が出始める。ぼーっとしたり、吐き気、頭痛、倦怠感などの症状がでれば、まず高山病と考えて間違いない。通常なら、その高度に身体が慣れれば、症状は改善するが、ひどくなれば下山するしかない。
 初めて富士山に登る人や、3,000m以上の高い山に登るのがはじめてであれば、携帯用の酸素ボンベを持参するといいだろう。特に、子どもたちや中高齢者にはおすすめである。
 スポーツ店やアウトドアショップ、ドラッグストアなどでも販売されている。価格は1,000円程度。
 
レインウェアは、いいものを選ぼう
 次に富士山は気象の変化が激しいので、レインウェアは必携である。レインウェアは、ビニール製などは避け、しっかりしたものを選ぶこと。できれば防水・透湿表示のある高機能素材のものを持参したい。少々高くても、長く使用できるし、パーカーとして兼用も可能である。価格は10,000円~30,000円程度。折り畳み傘などは、富士山ではほとんど役に立たない。

夜明け前の山頂は、かなり寒い
 また、気温も大きく変化する。夏でも山頂では、マイナスになることもしばしばだ。体が寒さに慣れていないいし、風が吹けば、体感温度はさらに下がる。ダウンジャケットがほしいと思ったことは、何度もあった。フリースかセーターに、パーカーというスタイルで、なんとかOKだろう。ちなみに標高200mで、約1℃気温が下がる。
 とにかく、夜明け前の山頂は寒い。すこぶる寒い。

特に、アンダーウェアは、ドライ素材を選ぼう
 富士山に限らず山登りでは、夏でもアンダーウェアの選択には注意を払いたい。素材的には、ポリエステル系のものが中心だが、最近ではドライ表示のあるアンダーウェアや、Tシャツが格安で手に入るようになった。つい数年前まで、4~5,000円もしたのが、いまや1,000円以下で手に入るようになったものもある。
 汗による体温低下を防いだり、ヒヤッとする不快感も少なくなるので、ドライ機能のあるアンダーウェアは、ぜひ着用したい。
 上着は長そで。パンツも長いほうがいい。これらも素材は、ドライ機能のものがベストだ。

 ドライ機能をもつ新素材の開発はすさましく、年々進化している。かつては、純毛や網シャツ愛用世代にとっては隔世の感がある。

スニーカーなどは避け、トレッキングシューズなどを履こう
 登山で最も重要なのが、足元。スニーカーなどではなく、トレッキングシューズや登山靴を履くこと。足首を保護し、捻挫などの防止にも有効だ。

帽子・手袋・サングラスも忘れずに
 帽子は必ず着用すること。晴れていれは、日中は紫外線が強いので、サングラスも必携である。

 富士山は火山なので、溶岩がいたるところで露出している。溶岩で手に傷を負う場合もあるし、防寒のためにも手袋が必要だ。軍手ではなく、毛やポリエステル製のものを選択しよう。
 
ヘッドランプが便利
 富士登山は、通常夜明け前に山頂に立って、ご来光を迎えるというパターンが多い。
 山小屋で仮眠するか、休憩程度で登るかは、日程や出発地の関係で異なるが、高山病対策には、山小屋で仮眠をしたほうがいいのではないかと思う。もっとも最盛期はかなり混みあうので、その覚悟は必要だが・・・。
 いずれにせよ、山頂で宿泊するパターンのほかは、夜間登山をすることになるので、ライトが必要だ。できれば、両手が自由に使えるヘッドランプを選びたい。予備の電池や、予備球も用意しておこう。

登山には機能食品を
 食料や飲料水は、基本的には登山道の各所にある山小屋の売店で、手に入れることができる。ただし、割高だ。水のほか、ビスケットやチョコレート、キャンディー、それに、ウィーダー、カロリーメイトなどの高機能食品も登山向きだ。また、アミノバイタルなどのサブリメントも、私はよく持参する。

富士山はなくならないので、また来ればいい
 夏の富士山は、登山としては、決して難しい山ではない。体調がよく、天気に恵まれれば、比較的簡単に登れる。登山道は整備されているし、まるで、砂利道を登っていく感じである。けっこうハードだが・・・。
 富士山登山の難しい点は、標高が4,000m近くあり、酸素が薄く、人によっては高山病の症状が出ること。そして、気象の変化が激しいことなどだ。

 かつて、数百人規模の富士登山を毎年のように、行なったことがあった。登山指導者を10人にひとり程度配し、医師や看護士なども同行した。そのときの参加者の富士山頂登頂率は、80%程度だったように記憶している。登頂できなかった理由は、高山病などによる体調の不良、ついで、天候の悪化だった。
 今年登れなかっても、富士山はなくならない。また来ればいい、という気持ちも富士登山には大切だ。

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(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。