最終回 著者 山口 章


 ピレネーの山旅の最終回はビニュマーレ山を見に行くハイキングだ。ここの基点となるのはコトゥレだ。コトゥレはフランス南部の聖都ルルドから車で40分ほどの山間の町で、大きなスキー場があるので有名なところだ。ガヴァルニーがスイスの山の村、ウェンゲンだとすれば、ここはフランスのシャモニといった感じのところ。

 コトゥレからポント・デ・エスパーニュ(Pont d Espagne)、つまりスペイン橋に車で向かう。コトゥレから15分ほどだ。ここは標高1460mでここに車を駐車し、歩き出す。
 最初に目指すのはゴーブ湖(Lac De Gaube)だ。ここに行くにはふたつの方法がある。ひとつは歩いて登る。二つ目はチェアリフトに乗って一気に標高1678mまで上がってしまうもの。歩いて行くにはおよそ1時間30分かかるが、ただでいける。リフトを利用した場合は30分で往復12ユーロ。ただし、朝早いとリフトは運転していない。
 ポント・デ・エスパーニュから深い樹林のなかをしっかりした道をたどればやがてゴーブ湖に着く。ゴーブ湖にはホテル・ゴーブ湖があるが、登山道は湖の左岸についているためホテルにいくにはルートから外れることになる。ゴーブ湖は標高1725m、目的地は標高2151mのウレット小屋(Refuge des Oulettes)。

 ゴーブ湖を後にしばらく行くと、ウレット川を橋で渡り、ウレット川の右岸を登っていく。ときどき滝の音が聞いたりしながら着実に高度を稼いでいく。急登ではないが、ときにジグザクを切りながら登っていく道だ。ときどき右手にビニュマーレ(Vignemale,3298m)が高い位置に見える。なんともすごい岩峰だ。
 再びウレット川を渡り返し、一段上がると別世界が広がる。これまで狭い谷あいを歩いていたが、中央にウレット川がうねる大草原が目の前に現れるのだ。この一番奥にビニュマーレがどんとひかえており、その壮大さは圧倒的だ。50年前はここが氷河の舌端だった。この気持ちのよいところを正面にビニュマーレを見ながら、登っていく。最後に小さな丘をひと登りして、ウレット川を渡ると、モレーン台地に建てられたウレット小屋に着く。
 ウレット小屋のテラスはまさにビニュマーレの展望台で、飽きずに山をながめていることができる。下山は往路をたどる。
 歩行時間は登りが4時間、下りは3時間。


■バックナンバー
ピレネーの山旅 第1回
ピレネーの山旅 第2回
ピレネーの山旅 第3回
ピレネーの山旅 最終回

■著者紹介

山口 章(やまぐち あきら)
1947年京都市生まれ。「山と渓谷」編集長を経て、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構常務理事事務局長、浅間山麓国際自然学校顧問。クライミングインストラクター。国内外のほかヨーロッパや北アルプスの登山、登攀等の経験多数。