第3回 著者 山口 章


 ピレネーの山旅の3回目は、ピレネーの奇跡といわれるローランの裂け目を紹介しよう。“ローランの裂け目”とはナイフでスッパと切ったような岩の大きな裂け目のことだ。

 ここに行く基点となるのがガヴァルニーだ。ガヴァルニーから車でスキー場に上がる道をどんどん登っていく。スキー場ではあちこちでマーモットのかわいらしい姿を見ることができる。上がりきったところが標高2208mのテンテス峠だ。ここが登山口になる。ここに車を駐車して、身支度を整えて出発だ。ここからスペインとの国境のバウチャロまではところどころ大きな岩が落ちてきている舗装された車道をいく。緩く上るにつけて正面にタイロン山(Le Taillon,3144m)の三角錐が大きくなってくる。

 国境のバウチャロはここが国境?と思われるくらいで、杭が一本立っているだけ。ここから進路を東にとり、タイロンの基部を大きくトラバースしながら徐々に高度を上げていく。このトラバースは元氷河に覆われていたところで、歩いているとその痕跡をあちこちに見ることができる。急に斜度がきつくなり、進路が北東に変わるとタイロン氷河末端の水が流れるゴルジュ帯を登ることになる。ここには鎖がついているところもあるが、ルートはうまく付けてあるので心配することはない。ここを上がりきると小さな尾根に上がり目の前にローランの裂け目(Breche de Roland,2807m)とサラーデ小屋(Refuge des Sarradets)が見える。
 このサラーデ小屋にはガヴァルニーから直接登ってくることもできる。この小屋の標高は2587mあるのでガヴァルニーからだと1200mを上ってくることになる。ここからはモレーンのザグザグの急登をし、氷河を渉ると最後の岩場を登ればローランの裂け目だ。ここは標高2807mで大きな裂け目と見えていたところに立つと、意外と狭い感じがする。それにしてもどうしてこんな地形になったのかが不思議に思えてくるながめだ。
 ここからはスペイン側のオルデサ・ペルディード国立公園のピネタに下ることもできる。また人気の山、タイロンに登ることもできる。
 ここでたっぷりとスペイン側のながめとフランス側のながめを楽しんだら下ろう。下りは往路をたどる。歩行時間は登り4時間30分、下り3時間。


■バックナンバー
ピレネーの山旅 第1回
ピレネーの山旅 第2回
ピレネーの山旅 第3回
ピレネーの山旅 最終回

■著者紹介

山口 章(やまぐち あきら)
1947年京都市生まれ。「山と渓谷」編集長を経て、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構常務理事事務局長、浅間山麓国際自然学校顧問。クライミングインストラクター。国内外のほかヨーロッパや北アルプスの登山、登攀等の経験多数。