- 第2回 -  著者 奥村 彪生


「料理を作るというのは、頭を使い、知能を駆使すること」
 みなさんの家ではお母さんが料理を作ってくれるし、あるいは、スーパーマーケットやコンビニで買ってきたおかずや弁当が食卓にのることがあると思いますが、今日のアウトドアクッキングは全部、君達で手作りしてもらいます。

薪で火を焚くことを覚えよう

 まず、薪を使って火を焚くことを覚えてもらわなければなりません。火を燃すには、昨日食事のときに使った割り箸を焚付けにします。焚付けとは最初に火をつけるときの材料です。これ、リサイクルですね。江戸時代では、すでに一度使った割り箸を削り直して、それに漆をかけて蕎麦屋さんやうどん屋さんとかで利用されたという記録が残っています。
 今日のご飯は、飯盒で炊きます。プリントに、「始めチョロチョロ中パッパ、赤子ないてもふた取るな、三歩下がって猿眠り」と書いていますが、何のことかわかるかな。でもね、実際に飯盒を焚付けの上にかけて、マッチで焚付けに火をつけると、始めチョロチョロ、チョロチョロと燃え始め、薪に火がつくとパッパッパッと炎が勢いよく上がり、火力が強くなります。すると、飯盒から米を炊くときに入れた水がお湯になって噴きこぼれかけます。これを中パッパというんです。この状態を4~5分続けたら、薪を取り除き、残った炭火だけで10分ほどしたら出来上がりです。

薪で焚こう

チキンラーメンピラフを作ってみよう

 ふたは絶対に開けないで。飯盒の中の温度を100度Cに保つことがごはんをおいしく炊くコツ。だから赤子泣いてもふたをとるなという。それから飯盒をひっくり返して、さらに10分ほどおいてください。これを「ご飯を蒸らす」といいます。ここが一番大事なところです。自動釜も今私が話したのと同じように設計されています。
 炊き上がったら、丼に盛りながらご飯をほぐし、その上に砕いたチキンラーメンをトッピングして、チキンラーメンピラフの出来上がりです。これを箸で混ぜながら食べます。油を使ってご飯を炊き上げるピラフは、アラブの文化ですね。今日はチキンラーメンを使ってピラフ風に工夫してみました。大変おいしいですよ。

チキンラーメンピラフ

包丁はニャンと、猫の手のように軽くにぎろう

 キャンプではよくカレーライスがつくられるのですが、インスタントのカレールーを使ったのでは、どこで食べても一緒の味なので、せっかくキャンプにきて開放的な気分の中で食べるのなら、何か独創的なものがいいだろうと思いまして、豚汁にカレー粉を入れることにしました。これは兵庫県の和田山町の小学校給食で、大人気だったメニューです。
 難しい技術はいりません。なにもかも鍋に放り込んで、火にかけるだけです。材料は君達に切っていただきます。包丁の使い方に気をつけてね。包丁の柄は軽く握るんだよ。野菜とかに添える手は、こんなふうにニャンとしてごらん(招き猫の手先を真似るようにして)、ニャン。こうすると絶対に怪我が無いからね。で、包丁でゆっくりゆっくり、包丁の背を見ながら切っていってください。包丁は相手を傷つけるものだから、注意して野菜だけを切るんだよ。友達に刃を向けてはなりません。今日は大雑把に、つまり一口サイズに切って下さい。ちょうど自分の口に入るぐらいの大きさを考えながら切るんですよ。

包丁はニャンと軽く使おう

料理が上手になると、学校の成績もよくなる

 料理が上手になると、絶対に学校の成績もよくなります。学校の成績が悪いのは料理が下手だからです。そういうと、気にする子がいるかもしれないけど、料理をつくるということは、どうしたら上手に火を焚くことができるか、どう調節したらおいしいごはんに炊けるかというように頭を使い、知能を駆使することなんだから。そして、食べる人全員に気を配る、そのことで情緒豊かな人を思いやる気持ちが育まれるんだよ。だから、おいしい料理ができるようになる子は、だんだん賢くなって成績も上がっていくというわけです。

アウトドアクッキングはダイナミックに

 今日のメニューではスープ、つまりダシは取りませんが、その変わり日本の伝統的なダシの材料である煮干を使います。煮干は鰯をゆでて乾燥させたものです。煮干の内臓と頭をちぎったら、豚肉だとか野菜(キャベツ、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ)、竹輪と共に、水と一緒に鍋に入れ、火にかけてください。最初は強火でパッパッと煮ます。煮立ったら火を弱めて、一番火がとおりにくいジャガイモが柔らかくなるまで煮て、味噌をいれ、カレー粉をいれて仕上げます。大人がいうアク、濁った泡の固まりは掬い取りません。これにも栄養とうまみがあります。静かに煮ていると元に戻ります。アウトドアではきれいごとは止めましょう。大切なのはダイナミックさです。今日は、煮干も一緒に食べてください。午前中の登山で、たんぱく質とカルシウムを、かなり消費されたことだと思いますので、それを補うためにも、煮干をそのまま食べてもらいます。

カレー粉を入れて創造的な豚汁を


味噌を入れる

魚を焼くのは炭火が一番

 そして、アマゴは、先ほど猪名川で、めいめい一匹づつ手で捕まえましたが、皆さん喜んでつかんでいましたね。お腹をハサミで割いて、内臓も出して竹串を打って、みんな嫌がるかなと思っていたら、誰もいやな顔をしていませんでした。喜んでやっていたよね。それに塩を振って、今、炭火で焼いています。肉を焼く、魚を焼くといった時の燃料で、一番おいしく焼けるのは炭火です。これで焼くと味は倍増します。魚の身もふわふわと絨毯のような触感に変わります。また、これを一番おいしく食べることができる調味料は塩なのだ、ということもしっかり覚えておいてください。今日はこれにスダチを絞って頭からかぶりつきます。

ハサミを使って内臓を取りだそう

命に感謝して、余すところなく食べよう

 ところで、みなさんは、夏休みにいろいろな宿題をもらっていることでしょうが、これから考えることは自由研究のいい回答になると思います。さあ、その問題とは、私たちは何のために食べるのかということです。そう、生きるために食べるのですね、正解です。そのために何をしましたか。そうです、魚をとったね、ハサミで腹を割いたね、内臓を取ったね、竹串を打ったね、そのことをなんというでしょう。料理という声があがったけど、実は殺生というんです。生きてるものを殺したんです。エッ何、犯罪、そう犯罪なんです。ですから、その命に感謝することが大切なのです。だから、余すところなく全体を食べます。骨まで食べろとはいいませんが、きれいに食べてあげるのが人間に与えられた義務なのです。
 私達の命は、私達が食べる魚達、今日はブタも食べますね、野菜も食べますね、それぞれの命が犠牲になって、今夜のご馳走を構成しているのです。だから、食事の前のいただきますと、食べ終わってからご馳走様をいう時には、犠牲になった魚やブタや野菜達に感謝の気持ちをこめてくださいね。

魚(アマゴ)は炭焼きが一番


奥村彪生 先生

 それから、火を使って調理することをクッキングといいます。火を使わずに、包丁で生の魚や肉を切って器に並べることが料理です。料理とクッキングは違います。今日はアウトドアクッキングですから、すべて火を使います。ではこれから、班毎に作業にかかってください。



■バックナンバー
アウトドアクッキング事始め(1)
アウトドアクッキング事始め(2)
アウトドアクッキング事始め(3)

■著者紹介

奥村 彪生(おくむら あやお)
昭和12年和歌山県生まれ。
伝承料理研究家。
日本各地の土地や家庭に伝承された食文化を見なおし、明日に生きる新しい伝統料理を研究する。平成6年、食生活文化賞を受賞。 著書に『日本の食べもの』『たのしくつくる健康野菜料理』(いずれも人文書院)
『おいしさ度あ・な・た流』(ぎょうせい)『日本料理秘伝集成』(同朋社)など多数。
また、テレビ番組などの出演も多い。

■関連情報
神戸山手大学 人文学部環境文化学科