著者 川嶋 直



自然体験活動の企画の極意!!
「自然体験活動」その企画と運営の方法(9のステップ)の続編です。今回は特に「企画」について、その極意のいくつかをまとめてみました。

● 事業の3段階(なぜ企画が大切なのか?)
 「PLAN→DO→CHECK(SEE,REVIEW)」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
 通称、頭文字をとってPDC(PDS,PDR)なんて言ったりします。企画をして、実施して、評価して、次の企画にその間に得られた知恵や学びを活かして、新たな企画に結び付けてゆく。事業というのはこのPDCの弛まないサイクルなのだということです。
 ビジネスの基本ともいえるこのPDCサイクルですが、私たちがこれから実施しようとしている「自然体験活動」でも、なんら変わることはありません。ここで強調したいことは、「企画が大事」ということと、「評価なき所に成長なし」ということです。いくら実施段階で全力投球をしても、事業の成否は企画段階でどの位の準備がなされているのかということに8割はかかっているのです。
 また、事業実施したあとに適切な評価(特に自己評価)がなされ、またその結果が次の企画に活かされないと、延々と同じ過ちを繰り返し、毎回同じ課題を「反省する」ことになってしまうのです。

● あなたは役者ですか?脚本家ですか?企画者ですか?
 例えばあなたの自然体験活動を自然の中での「演劇」に例えてみたらどうでしょう。
 集合時間に劇場の緞帳があがります。パチパチパチ!観客の拍手に迎えられて役者(指導者?)が登場します。

 「みなさん!ようこそ○○の森へ!今日はこれから、この森でたくさんの楽しい体験をいたしましょう。私はその案内役の○△□です。よろしくお願いいたしま~す」といって演劇ははじまります。役者はあらかじめ考えられた「脚本」に従って、森の中の楽しい場面に参加者を連れて、参加者に喜びや驚きや発見を与えます。どの道を歩いて、どこで休憩して、どこでお弁当を食べて、何を見せて、何を話して、何を体験してもらって…、そうしたことが脚本には書いてあります。そうしてやっと解散時間。「皆さん今日は楽しんでいただけましたか、またご案内を差し上げますのでぜひおいでください。今度は違う季節の違う森にご案内しましょう」パチパチパチ。緞帳は下がります。

 さて、森の演劇には役者だけではなく、脚本家も必要だということは分かりましたね。でも、いくら優秀な役者と脚本家がいても、この森の劇場は成立しません。つまり、その場にお客さんが来ていなければ演劇は始まらないのです。それだけではありません。役者や補助スタッフも誰かが集めないと…、必要な資金はどうしたら良いのでしょう?
 そうです、そこでは、いつ(When)、誰が(Who)、誰に対して(Whom)、どこで(Where)、何を(What)、どんな風に(How)、いくらで(How much)実施するかを決めて、それらを用意する人が必要なのです。そして上記のWやH(5W2H)以外に上記よりももっと大切なことがあります。それは何故(Why)、何のために(What for)その事業を実施するかです。

 これらのたくさんのWやHを考えて用意する人がいないと、森の劇場ははじまりません。このひとこそ「企画者」あるいは「プロデューサー」なのです。
 小さな組織の場合にはこの3つの役割が分化していないことも多いでしょう。特に役者と脚本家は同じ人が担当することが多いようです。でも、そのようにいくつかの役割を担当していても、「今自分は、何の役を担っているのか」を意識することは、その役について自分が成長するためにも、とても大切なことです。本屋さんに行ってみましょう。
 企画の本はいくらでもあります。テレビを見ているときにも「脚本」に注目すると、様々なヒントを得ることが出来ます。

● 企画と計画との違い?
 言葉の定義にはいろいろなものがあります。
 ここでこのふたつの言葉の定義をするつもりはありませんが、今回の原稿なりの整理してみましょう。計画も企画も上記のWやHを書くことには変わりがないのですが、企画には特に、上記5W2Hの他に、何故やるのか(Why)と、何のためにやるのか(What for)を大切にする点が違うと整理しておきましょう。つまり、計画だけしてもだめ。ちゃんと「企画」をしなくては・・・。ということを言いたいのです。

● 企画とは「思い」を「かたち」にするもの
 「その事業を実施することで、あなたは一体何を実現しようとしているの?」という問いを自分の事業に対して問うて見てください。要するに、「何のためにやるの?」という問いです。別な言い方をすれば、何故やりたいの?どんな風にしたいの?ということです。
 つまり、あなたのどんな思いを、どんな社会的なかたちにするのか…それが企画なのです。

● ひとりよがり企画、思い込み企画にならないために…
 「企画はよかったんだけどなぁ」「ちょっとはやかったかなぁ」参加者が集まらなかった事業への反省の弁です。どちらも間違いでしょう。それは「企画が悪かった」のです。
 少し乱暴な言い方ですが、その企画が「ひとりよがり企画」ではなかったか?あなただけの「思い込み企画」ではなかったかという視点から見つめなおして見るのも大切です。「失敗は成功の元」。失敗は見つめなおす最高のチャンスなのです。
 では、どうしたら「ひとりよがり」や「思い込み」から脱却できるのでしょう。それは以下の公式で解決できます。
 「思い+マーケティング分析+ポテンシャル分析=コンセプト」
 つまり、明確なコンセプトが大切なことは言うまでもありませんが、コンセプトを導き出すまでのプロセスもとても大切な点です。では順を追って、コンセプト作りまでのプロセスをお話しましょう。

● まずは、思いを文章化しましょう
 文章にすることはとても大切なことです。
 あなたの頭の中で燃えている「熱い思い」を一度文章にしてみましょう。
 文章にすることであなたの思いの熱も少し冷めて、思い込みから少しだけ離れることが出来ます。あなた以外に主催者がいる場合には、その主催者の思いも一度文章化してみましょう。その主催者の担当の方と、主催者としては一体なにをどうしたいのか?一度文章にしてみましょう。この段階で、あなたの思いと主催者の思いに温度差や差異が見られるようでしたら、チューニングが必要です。要は刷り合わせです。

● 次に、マーケティング分析です
 社会的動向がどうなっているのかの把握です。同時に、あなたの集めようとしている人たちが何を考え、何を求めているのかの把握です。
 大規模な市場調査など不要です。そもそもそんな資金的余裕などないでしょう。街を歩く。本屋に寄る。電車のつり広告を見る。喫茶店で隣のテーブルの話に耳をそばだてる。テレビを新聞を雑誌を見る。インターネットで調べる。なんでも良いのです。
 普段から世の中の動きに眼を配らせていることです。決してそんなに大変なことではないと思いますが…。ただ、ひとつだけ注意!自分に都合の良い情報だけ取らない…ということです。自分の思いを実現するために、障害になる情報だってあるはずです。そうした情報もちゃんとチェックしておきましょう。

●次に、ポテンシャル分析です
 ポテンシャルとは資源。
 あなたの手の内にある資源を再チェックしてみましょう。あなたの組織に、地域に、ネットワークにどんな自然資源が、文化資源が、人材が、組織が、資金がありますか?あなたの手の内の資源の「棚卸」をしてみましょう。すでに把握している資源が全てではないでしょう。きっとまだ知らない資源があるはずです。
 ここでもマーケティングと同様にマイナスの情報もしっかりと把握しておきましょう。

● いよいよコンセプト作りです
 一度文章化された思いを、マーケティングという外側の情報と、ポテンシャルという内側の情報に照らし合わせてみて、社会に伝わる言葉に練り上げて行きましょう。
 思いが社会化されたものが「コンセプト」です。コンセプトはその事業のどんな部分にも反映される、基本的な考え方です。思いはあなたの生身の声そのもの、その声が社会に受け入れられるために、加工されたものが「コンセプト」です。要するにその事業は何をするの?何を実現したいの?ということに最も短く答えるものが「コンセプト」です。コンセプトは、募集する対象に理解してもらうためだけではなく、事業を一緒に実施する仲間にも「合言葉」としての働きをします。分かりやすく、伝わる言葉に練り上げましょう。

● やっとここで事業計画です
 ここまで来て、やっと事業計画を書きます。
 とはいっても実際には行ったり来たり。対象や日時や場所が先に決まっていることもありますし、コンセプトを決めながら、先に書いた5W2Hを同時進行で書くことも良くあることです。しかし、基本的には全ての計画は、こうして導き出されたコンセプトの考え方を反映したものであって欲しいので、コンセプトが決まった段階でもう一度全ての計画に、そのコンセプトの考え方が活かされているかをチェックしましょう。

● いよいよ具体的な実施ですが
 企画書が完成しても、現実には企画書を何度も何度も書き直す状況に直面します。
 資金が足りなくなった。頼りにしていた人が急に抜けた。どこかから横槍が来た。などなど、計画変更は日常茶飯事です。でもめげないで。根気良く企画書は書き換えましょう。より良い事業実施のためにも…。



■バックナンバー
「自然体験活動」その企画と運営の方法
自然体験活動の企画の極意!!

■著者紹介

川嶋 直(かわしま ただし)
1953年東京生まれ
財団法人キープ協会常務理事(環境教育事業担当)
社団法人日本環境教育フォーラム理事
NPO法人自然体験活動推進協議会理事

1980年、山梨県清里、八ヶ岳の麓にある財団法人キープ協会に就職。1984年から環境 教育事業を担当。森の中での様々な自然体験プログラムを通して、この素晴らしい自 然環境のために働くことが出来る人を育てることを目指して、様々な仕事をしてい る。現在約20名のスタッフと共に、主に大人を対象に年間20回の宿泊型のプログラム と、80回の受託プログラムを清里を中心に全国各地で実施している。インタープリ ターとは、通常、通訳という意味だが、米国の国立公園などで「自然と人間との橋渡 し役」という専門職をこのように呼んでいたことから、最近わが国でもこうした呼称 を使うようになってきた。

著書:「就職先は森の中~インタープリターという仕事」(1998年小学館)
共著:「日本型環境教育の提案」(1992年小学館)「野外教育入門」(2001年小学館)
監訳:「インタープリテーション入門」(1994年小学館)

■関連情報
「自然体験活動 企画・運営ハンドブック」(Adobe Acrobat Readerが必要です)
財団法人キープ協会 (環境教育事業部
国立オリンピック記念青少年総合センター