
大阪市内にありながら、その校庭はまるでバイオパークのよう。奥には小川が流れるビオトープが整備され、トマトなどの野菜を育てている区画の隣には、田植えを終えたばかりの小さな田んぼも。木の柵で囲われたエリアの中では、大きなヤギが気持ちよさそうに陽を浴びています。
大阪府のほぼ中央に位置する大阪市平野区。市内でも人口が多く小学校も多いこの地域で、独自の取り組みで注目を集めているのが、ここ、瓜破(うりわり)西小学校です。校舎の横に広がる草原エリアを拠点に、自然や生き物と触れあう活動が授業の一環として実践されています。
自然体験活動を教育課程の中に組み入れ、学校全体で組織的に実施していること、学年ごとにきめ細かく活動を展開した点などが評価され、2021年度の「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」(現・安藤財団 自然体験企画コンテスト)で学校部門の優秀賞に選ばれました。
瓜破西小学校には2つの運動場があり、このうちの東運動場は、一見すると広大な原っぱです。春はシロツメクサやタンポポが咲き、夏にはセミの鳴き声が響き渡り、秋は田んぼのイネが黄金色に輝いて、冬には落ち葉のじゅうたんが子どもたちの格好の遊び場になる──
都会の学校とは思えない豊かな自然が広がるこのエリアですが、以前は学校としても持て余していたと言います。そこで、動物好きだった当時の校長の発案でヤギを飼うことになったのが、すべての始まりでした。
雄のヤギは「アトリ」と名付けられ(アニメ『アルプスの少女ハイジ』に登場する、やんちゃなヤギからもらった名前だとか)、彼が日中を過ごす東運動場「アトリパーク」を基点に、ヤギの小屋と放牧エリアを作り、野菜や米を育て、ビオトープを整備するまでを、すべて子どもたち自身が授業の中で行ってきました。
いまではすっかりアトリは学校の中心的存在で、ここで行われている活動のシンボルと言ってもいいでしょう。アトリの世話が活動のメインとなる「瓜西ネイチャークラブ」は、自主的に参加する課外活動ですが、現在70人ほどが在籍。約230人の全校児童のうち、4人に1人はこのクラブに入っていることになります。
アトリを飼うことで子どもたちが生き物と触れ合う機会が生まれ、それをより発展させようと、2018年度から始まったのが「アトリカリキュラム」です。大きな特徴は、教育課程の中に組み込まれている点です。背景には、子どもたちの主体性が乏しくなっている現状に対し、自然体験活動を通して、自分で動いて判断できる力を高めたいという学校側の狙いがありました。
瓜破西小学校のシンボル、ヤギのアトリ。かつてはユキちゃんという雌もいたが(こちらの名前も『ハイジ』より)、現在は独り身。それでも、子どもたちに愛されているので寂しくはなさそう。
全学年を対象としたカリキュラムは、学年ごとに具体的な活動内容が設定されています。「生活」の授業で取り組む低学年の場合、1年生は動物との触れ合いがメインで、2年生はアトリパークでの野菜栽培。それ以降はより探求に焦点が当てられる「総合的な学習の時間」で行われ、3年生ではアトリパークに棲息する生き物について調査します。
4年生になると学校の近くを流れる一級河川・大和川へ出かけて、生き物調査のほか水質改善の取り組みも実践。5年生は、アトリパーク内に作った田んぼで田植えをしたり、里山体験によって人と自然のつながりを学んだり。6年生ではより視野を広げて、日本の森林の課題に向き合う「森林ESD(森林の持続可能な開発を進めるのに必要な教育)」を取り入れています。
こうした活動の中では、アトリパークに転がっているアトリの糞と、刈り取った草や落ち葉を活用して堆肥を作ったり、給食の野菜くずを使って土づくりをしたりと、昔ながらの里山の暮らしを体験しようとする試みも行われています。
今年で7年目を迎えたアトリカリキュラム。子どもたちの主体性を測定する尺度でも、実際に評価が上がっていることが確認できたそうです。大学院でそうした研究を行い、瓜破西小学校の取り組みの中心を担う教諭の赤嶺佳彦さんは、それこそが自然体験活動の価値だと説明します。
「他の教科であれば何を学ぶか示されていますが、自然はこちらから学びにいかなければ、向こうから歩み寄って来てはくれません。『どうなっているんだろう?』と探ろうとすることが、自ら動くことにつながります。これまでは何をしていいかわからず動けなかった子どもたちが、いろいろな経験を積んで、自分で動いてみようという主体的な姿が多くなったと実感しています」
現在、瓜破西小学校ではアトリのほか、ウサギやヒヨドリの飼育も行っています。ほかにも、子どもたちが捕まえてきた虫や、どこかで拾ってきたインコなど、その時々によってさまざまな動物や昆虫がいるのだとか。学校が、子どもたちと動物や自然をつなぐ役割を果たしているとも言えますが、このことは確実に子どもたちに影響を与えています。
たとえば、それまで不登校だった子が動物と触れあってからであれば教室に入れるようになったり、教室を離脱してしまった子どもは大抵アトリパークに行っていたり。学校の中に、子どもたちが安らげる場所ができたのです。また、命あるものはいつか亡くなりますが、そんなとき、みんなで亡骸を囲んで涙する体験もまた大切なことだと赤嶺さんは改めて感じているそうです。
瓜破西小学校では、開かれた学校として地域との連携も重視しています。校内の豊かな自然を維持していくためには、地元の理解と協力が欠かせません。加えて、自然体験活動にはさまざまな知識やスキルも必要で、それらをすべて教職員が担うのは大変です。外部の力を借りることで、子どもたちにもより高度な学びを提供することを可能にしています。
アトリカリキュラムでは、より深い学びを得るために専門家の力を借りることも多い。3年生ではアトリパークの植物について学び、4年生は河川事務所などの協力も得て大和川の生き物調査に乗り出す。
瓜破西小学校の環境やこうした取り組みは徐々に地域に浸透し、最近では、市の学校選択制を利用して瓜破西小を選択する家庭も少なくないと言います。その一方で、学校での活動ならではの苦労のひとつが、予算の問題です。今年で9歳になるアトリはかつて病を患い、現在も薬が欠かせないため、治療費が必要です。
そこで学校では、安藤財団をはじめとする支援金・助成金に応募するほか、取り組みに共感してくれる企業との連携にも取り組んでいます。また、子どもたち自身にもこのことについて考えさせ、学校で栽培した野菜を地域の人たちに買ってもらって、そのお金をアトリの治療費に充てるなど、子どもたちから生まれたアイデアも実践していると言います。
もうひとつの課題は、「なぜ自然体験活動に取り組むのか」という視点を共有すること。公立校の教職員には転勤が付き物で、2025年度は15人もの入れ替えがありました。この豊かな環境を生かした取り組みで子どもたちにどんな力を育みたいのか、それを理解するとともに教員自身の知識も深めることは、活動を継続するために不可欠な要素です。
「自然は無限の教材です。その価値を多くの人に知ってもらいたい。うまく活用するには教師の力量が問われますが、自然が相手ですから、教師も主体的にならざるを得ません。教師が楽しんでいれば、それは確実に子どもにも伝わります。うちの学校でも、大人が変わったことが、この活動を継続できているいちばん大きな要因かもしれません」
今後は、子どもたちが伝える側になる活動や、自然だけでなく人と人とのつながりや多様性を学ぶ内容も検討しているそうです。さらには、恵まれた環境を活用したビオトープ作りに取り組み、本コンテストの文部科学大臣賞(2022年度)をはじめ複数の賞を受賞している瓜破西小学校。自然体験活動によって子どもたちの主体性を育む取り組みに、これからも目が離せません。
大阪市立瓜破西小学校 赤嶺佳彦さん
指導者は、体験そのものを目的化せず、体験を通して何を身につけさせたいかを明確に持つことが大切であると考えます。
子どもたちが、心が躍るようなワクワクする体験を得るための活動内容の工夫や児童の知的好奇心をくすぐる指導者の意図的な「しかけ」は欠かせないと思います。
学校で多様な自然体験活動を系統的に継続するには、カリキュラムに位置付けることが大切であると思います。また、私たち教職員は年限で異動があるため、地域の方と協働しながら実践を進めることも実践の継続に寄与すると考えます。
テレビ番組「ザ!鉄腕Dash!!」のように、問題を解決していく探求型の自然体験活動はとても参考にしています。

1979年、大阪府出身。教員のかたわら、大阪教育大学大学院で体験活動を通じた子どもの主体性の育成について研究。前任校でもビオトープ作りなどに取り組んでいたところ、大阪市の教員公募情報の中に「自然体験」「ヤギの飼育」という文言を見つけ、自ら志願して瓜破西小学校へ。「アトリカリキュラム」や「瓜西里山BASEプロジェクト」など同校の自然体験活動を牽引し、2024年度の文部科学大臣優秀教職員表彰を受ける。
※2021年度の実施内容
【活動のタイトル】
「アトリカリキュラム」の実践 〜つなげよう!自然と人と学びとこころ〜
【活動の目的】
①環境保全への意識を高める。(自然とつながる)
②多様な人とのつながり、価値ある出会いを生み出す。(人とつながる)
③探求的な学びの連続を生み出す。(学びをつなげる)
④子どもが活躍できる居場所を生み出す。(こころをつなげる)
【主な活動場所】
· 大阪市立瓜破西小学校アトリパーク(大阪府大阪市平野区)
· 大和川(大阪府大阪市平野区)
· 紀泉わいわい村(大阪府阪南市)
【活動の特徴】
· 教育課程内外において、校内・地域の自然環境を活用した体験活動を多様な人々と連携して行う中で、探究的な学びや子どもが活躍できる居場所を生み出すとともに、持続可能な社会の担い手を育成することを目指す
· 大阪市立瓜破西小学校にあるアトリパーク(東運動場)に里山環境を再現し、その自然を活用した自然体験活動をカリキュラムに位置づけ、系統的に展開
· 教育課程外においてネイチャークラブが多様な自然体験活動を展開する中で、様々な分野の専門家や地域住民と協働し、それらの人的資源を教育課程内の学習にも還元するなど、教育課程内外の自然体験活動が、それに関わる人々を通じて往還している
· 自然体験学習をカリキュラムの中に位置付けることにより、自然体験活動を教育実践として系統的且つ継続的に展開することができる。また、その活動でどのような賓質・能力を身に付けさせたいかを指導者が明確に持つことができ、教育的意義の高い自然体験活動が展開される。また、その活動を客観的に振り返ることができるよう、子どもの成果物やアンケート調査(メタソーシャルスキル尺度)なども活用している
【参加者】
· 本校在籍の小学1年生〜6年生:約250人
【装備】
· 各種農具(耕運機、くわ、支柱、防鳥ネット、マルチシートなど)
· 木材(ビオトープ用ウッドデッキや橋など)
· 投網、たも網、花と野菜の土、腐葉土
· ビオトープ用ベントナイトシート、ビオトープ用ヤシネット、ビオトープ水際植生植物
· 野菜の苗、軍手
· ライフジャケット、ザル、ビニール袋、
· 虫取り網、薪、炭、新聞紙、間伐材、麻ひも、稲刈り鎌、竹など
【発信方法】
· Instagram、協力企業のホームページなど
大阪府大阪市平野区瓜破西2-1-43
https://swa.city-osaka.ed.jp/weblog/index.php?id=e751738
写真提供/大阪市立瓜破西小学校
撮影/張田亜美
取材・構成/土居悦子
瓜破西小学校内に自然体験活動クラブ「瓜西ネイチャークラブ」を立ち上げ、それらを支援する「瓜西ネイチャークラブサポートネット」を学校外の組織として立ち上げたことで、外部への広報活動がしやすくなり、Instagramなどでの活動の紹介や各種募集などをしています。
まずはその方自身が、どこかで取り組んでいる自然体験活動のイベントなどに足を運び、実際に体験することだと思います。最初は、それをまねてやってみることから始められると良いと思います。
