
大阪市平野区にある大阪市立瓜破(うりわり)西小学校では、校内の広大な草原エリアを基点とした自然体験活動を、すべての学年の教育課程に組み入れています。動物と触れあい、野菜や米を育て、地元の川の水質改善に取り組み、日本の森林が抱える課題に向き合う。
「アトリカリキュラム」と名付けられたこの取り組みは、2021年度の「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」(現・安藤財団 自然体験企画コンテスト)で学校部門の優秀賞に選ばれました。そして、そこからさらに発展したのが、校内に造成したビオトープを拠点とする「瓜西里山BASEプロジェクト」。
より一層心躍る自然体験活動によって子どもたちの主体性と創造性を育むことを目指したこのプロジェクトは、探求的な学習や、地域と連携した活動を多く取り入れてバランスよく展開されたことが高く評価され、2022年度のコンテストで学校部門の最優秀賞である文部科学大臣賞に輝きました。
瓜破西小学校の取り組みを支えているのが、大阪市内とは思えない自然豊かな校庭です。「アトリパーク」と呼ばれる東運動場は広大な原っぱで、季節ごとの花々が咲き、さまざまな虫や野鳥も訪れる、まるでバイオパークのような空間。その一画では、子どもたちが育てている野菜がおいしそうに実っています。
このアトリパークを基点とした自然体験活動を教育課程内で行う「アトリカリキュラム」が始まったのは、2018年度のことでした。年を追うごとに、子どもたちだけでなく教師の側も経験を積み重ね、その活動はより体系的なものへと進化しています。
なかでも5年生で行ってきたのが、里山の環境を再現したビオトープ作り。ビオトープとは、さまざまな生物が集まって生態系を形成している空間のことで、生物多様性への理解を助け、子どもたちの環境教育に役立つものとして整備する学校が増えています。
瓜破西小学校では子どもたち自身が学びながら造成を進めてきましたが、ある程度の形が整うと、さらなる知識が必要に。そこで、より学びを深めるとともに、課題を見つけて情報を整理し、一体どんな空間を作り上げたいのかを見つめ直すべく、2022年度から、5年生と6年生による「瓜西里山BASEプロジェクト」が始動したのです。
いま、アトリパーク内のビオトープには小高い丘が築かれ、その麓を流れる小川の脇ではレタスなどの野菜が育てられています。小川から引き込んだ水を利用した田んぼでは、田植えから稲刈りまでを子どもたち自身の手で体験。丘の向こう側には、学校のシンボル的存在で自然体験活動の中心でもある、ヤギのアトリが放牧されている牧場エリアがあります。
ビオトープの課題把握から始まったプロジェクト。自分たちの秘密生地を作るようなワクワク感に、子どもたちは目を輝かせる。
「瓜西里山BASE」と名付けられたこの一帯が目指すのは、循環が生まれる里山空間。アトリの糞と枯れ草や落ち葉を使って堆肥を作り、それを使って野菜を育て、収穫した野菜を自分たちがいただいたり、地域の人たちに買ってもらったり。丘を貫くトンネルや間伐材で作った階段・歩道など子どもたちのアイデアも詰め込まれ、学校にワクワクと癒しをもたらしています。
中心となるビオトープは、いろいろな生き物を入れたり、きれいに整えたりするのではなく、いまある環境を大切にするのが瓜西里山BASEのモットー。地元の大和川水系にいる生き物にこだわり、この場所に自然と集まってくる生き物を増やすことに重点を置いています。それが自然界にも認められたのか、最近では、猛禽類が狩りをする様子を間近で見られることもあるそうです。
大変なのは水の管理。さすがに子どもたちだけでは難しく、以前からつながりのある近畿大学農学部の学生団体に協力してもらい、生い茂った雑草を抜いて水路を確保したり、アオミドロ(藻)を除去して簾を設置したり、といった対策を一緒に行っています。学生たちは野菜や葉っぱを使った出前授業も行ってくれ、子どもたちにとって楽しく学べる機会になっています。
例年行っている無農薬栽培の米づくりは、田おこしから田植え、稲刈りまでを自分たちで行う。校舎のすぐそばで、竹で組んだ稲架掛けに稲穂が干されている様子は、瓜破西小学校だからこその光景。
その他にも、他のビオトープや里山施設を見学したり、専門家の話を聞きに行ったり、林間学校で訪れた場所の生態系を調べてみたりと、より深く探求することに焦点を当てているのが、このプロジェクトの特徴です。こうした活動によって瓜破西小学校の取り組みは広く知られるようになり、さまざまな個人や企業、行政などから連携・協働の話も多く寄せられているそうです。
学校側としても広く発信することに力を入れ、各種コンテストにも積極的に応募。安藤財団の文部科学大臣賞を筆頭に、「全国学校・園庭ビオトープコンクール2023」(公益財団法人日本生態系協会)では日本生態系協会会長賞、「第35回緑の環境プラン大賞」(公益財団法人都市緑化機構、第一生命財団)ではコミュニティ大賞を受賞しています。
教諭の赤嶺佳彦さんは、「子どもたちが生き生きと主体的に取り組み、ワクワクしながら活動できている点が評価されているのでは」と話します。外部から評価されることは子どもたちにも自信を与え、自分たちの活動を発表したいといった声がよく聞かれるようになったと言います。
2024年には、フランスの香水・化粧品メーカーであるゲランが、ミツバチの大切さを若い世代に伝えるべく世界各国で展開している「BEE SCHOOL(ビーススクール)」にも招待されました。当日は、ゲランのミューズでありビー アンバサダーでもあるアンジェリーナ・ジョリー氏、そして、同ジャパン アンバサダーの桐谷美玲氏も一緒に参加したのだとか。
ビオトープ作りの参考にするべく都会に里山環境を再現した施設を見学したほか、自然学校では〝本物〟の自然を体験。人にとっても快適な点など、自分たちの理想のビオトープ作りにも大いに生かされた
ビオトープの造成と改築に力を注いできた瓜西里山BASEプロジェクト。今後は、この空間をどう活用し、どうやって生態系を保っていくかが課題です。と同時に、自然体験に馴染みの薄い若い世代の教員が増える中で、これを維持する努力も不可欠だと語る赤嶺さんは、教員向けの研修会を開催するなど、自らの学びを深めることにも意欲的に取り組んでいます。
瓜破西小学校は現在、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の理念を学校現場で実践するための国際的ネットワーク「ユネスコスクール」への加盟を申請中です(キャンディデート校として認定済み)。その狙いについて赤嶺さんは、他校とのつながりが持てることに加えて、学校をよりコミュニティの場にすること、それによって活動の継続を後押しすることを挙げます。
「いまではアトリパークが地域の集いの場になって、毎週金曜日には地域のお年寄りと一緒にラジオ体操をし、近隣の幼稚園は遠足でここにやって来ます。この空間が価値あるものとして長く維持されるためにも、もっと多様な人が集まる教育コミュニティを形成できればと考えています。ユネスコスクールへの加盟は、その大きなきっかけになると期待しています」
瓜破西小学校ほど環境に恵まれた学校は多くはありませんが、その場その場でできることはあるはずだと赤嶺さんは語ります。予算や教員の転任といった学校ならではの難しさがある一方、周囲を巻き込みやすいのは学校のメリットでしょう。生き物だけでなく、多くの人々や組織、企業などとのつながりを活かしながら、瓜西里山BASEは今度どんな発展を見せてくれるでしょうか。
大阪市立瓜破西小学校 赤嶺佳彦さん
指導者は、体験そのものを目的化せず、体験を通して何を身につけさせたいかを明確に持つことが大切であると考えます。
子どもたちが、心が躍るようなワクワクする体験を得るための活動内容の工夫や児童の知的好奇心をくすぐる指導者の意図的な「しかけ」は欠かせないと思います。
学校で多様な自然体験活動を系統的に継続するには、カリキュラムに位置付けることが大切であると思います。また、私たち教職員は年限で異動があるため、地域の方と協働しながら実践を進めることも実践の継続に寄与すると考えます。
テレビ番組「ザ!鉄腕Dash!!」のように、問題を解決していく探求型の自然体験活動はとても参考にしています。

1979年、大阪府出身。もともと自然が好きで、趣味は釣り。自然体験はただ楽しいだけではなく価値のある活動であることを証明したいと、教員をしながら大阪教育大学大学院へ。体験活動から子ども主体性を育成する方法を研究し、現在はそれをモデル化して自ら実践。瓜破西小学校の「アトリカリキュラム」「瓜西里山BASEプロジェクト」を牽引し、2024年度の文部科学大臣優秀教職員表彰を受ける。写真右は、同校で飼っているヤギのアトリ。
※2022年度の実施内容
【活動のタイトル】瓜西里山BASEプロジェクト~学校にワクワクと癒しを!〜
【活動の目的】
· 訪れる人がワクワクしたり癒されたりするような自然体験基地を、子どもたち自身がデザインして造成する中で、主体性や創造性を引き出す。
· 日々の教育活動や遊び、地域の方との交流の場として瓜西里山BASEを積極的に活用し、そこで展開される自然体験活動を通して、訪れる人がワクワクしたり癒されたりする機会を創出する。
【主な活動場所】
· 大阪市立瓜破西小学校アトリパーク(大阪府大阪市平野区)
· 新・里山(梅田スカイビル下)
· 大和川および石川河川敷
· 紀泉わいわい村(大阪府阪南市)
【活動の特徴】
· これまで展開してきた自然体験活動をより充実したものにすべく、ビオトープのあるエリアを瓜西里山BASEと名付け、心が躍るようなワクワクした感動体験や、心が穏やかに休まるような癒し体験の創出を目指す。
· また、今年度は本校の自慢の環境や自然体験活動を校内だけに留めず、地域や外部の方にもその価値やすばらしさを体感してもらえるような機会を設ける。
· 子どもたちがワクワクするような感動体験ができる場所を主体的に創っていく過程で、それ自体がワクワクするような学習となるようプロジェクト型の探究的な学習を多く取り入れた。
· また、ここに至るまで、学校外の多くの人々と関わりを深めてきた。人との出会いもまた、子どもたちにとってはとてもワクワクするものであったに違いない。
【参加者】
· 本校在籍の小学5年生・6年生:約60人
【装備】
· 各種農具(耕運機、くわ、支柱、防鳥ネット、マルチシートなど)
· 木材(道・階段づくりなど)
· 水生生物用網、腐葉土、ビオトープ水際植生植物
· 杭、ロープ、軍手
· ライフジャケット、ザル、ビニール袋、
· 虫取り網、薪、炭、新聞紙、間伐材、麻ひも、稲刈り鎌、竹など
【発信方法】
· 学校ホームページおよび区民だより
大阪府大阪市平野区瓜破西2-1-43
https://swa.city-osaka.ed.jp/weblog/index.php?id=e751738
写真提供/大阪市立瓜破西小学校
撮影/張田亜美
取材・構成/土居悦子
瓜破西小学校内に自然体験活動クラブ「瓜西ネイチャークラブ」を立ち上げ、それらを支援する「瓜西ネイチャークラブサポートネット」を学校外の組織として立ち上げたことで、外部への広報活動がしやすくなり、Instagramなどでの活動の紹介や各種募集などをしています。
まずはその方自身が、どこかで取り組んでいる自然体験活動のイベントなどに足を運び、実際に体験することだと思います。最初は、それをまねてやってみることから始められると良いと思います。
