著者 佐藤 初雄


三間がない

 子どもたちが、家の周辺の公園や空き地で遊んでいる姿を見かけることが少なくなっている。一体、子どもたちは、どこへ行ってしまったのだろうか。学習塾、サッカー、野球、スイミング、各種習い事などなど。
 公園や空き地から子どもの姿が見られなくなった原因に「三間がない」とよく言われている。この三間とは、現代社会を生きる子どもたちには、1.時間がない。2.空間がない。3.仲間がいない。この三つの間がないことをさしている。

1.時間がない。これは、かつての時代は、学校が終わってからの放課後は、大体学校の校庭に残っていつまでも遊んでいたものだ。しかし、いつのころからか、学校が終わると早々と帰宅し、塾や習い事に向かう子どもの姿が一般化するようになった。そのため、学校の校庭や帰り道で遊んでいる子どもの姿をほとんど見かけなくなった。友達と一緒に遊ぶためには、電話で時間を約束して、親にも確認して遊ばなければならないほど、自由にどこででも遊ぶことができない状況になった。
2.空間がない。空間とは、遊ぶ場所のことである。かつては、都会にも、ちょっとした空き地が存在していたり、廃墟になった工場の跡地や工事現場さらには、裏の路地が遊び場になっていた。しかし、現在では、こうした場所は、極端に減り、仮にあったとしても、こうした場所に立ち入ることはできなくなっている。万が一の事故や不審者に襲われたり、いたずらされる危険があるため、近寄らないよう親や学校から注意されている。児童公園があるが、こうした場所では、ルールが厳しく、自由に勝手に遊ぶことができない。
3.仲間がいない。友達がいないわけではない。同学年、同級生の2~3人の遊ぶことにできる友達はいる。かつては、異年齢の子どもたちが10~20人で遊んでいた。遊ぶ道具が合ったわけでもないので、極めて原始的な遊びや、道具が合ったとしても、シンプルなもので遊んでいた。しかし、現代の子どもたちは、野球やサッカーのように、大人数で活動することはあっても、これらのものには、ルールがあり、そのルールの下で行う。これらのものは、スポーツであり、当然、遊びの概念とはちがうものである。異年齢の子どもたちが、自由に遊べる意味での仲間はいないのである。
 どれひとつとっても、納得させられてしまう。本当にそうだな。今の子どもたちはこうした現代社会の中で生きているのだ。

山ほどある欠落体験
 最近の子どもたちが外遊びや自然の中での遊びが極端に減ってきていることは、誰もが認めることである。とにかく、近代化された快適な生活を享受できることは、ある意味これまでの人類が目指してきたことだ。そのために多くのことが、改善され、便利になった。しかし、そのために、人間が人として生きていくのに必要な体験や経験を失ってきたことも事実である。たとえば、これまでにも述べてきた「自然に触れる体験」「異年齢集団での体験」「自発的活動の体験」「社会参加、勤労体験」「困難を乗り越える体験」「基本的生活習慣確立のための体験」このような体験ができにくくなっている。さらに、あまりにも便利で快適な生活を享受できるようになったため、暑さ、寒さあるいは、便利、不便といった二極対立的な体験をする機会が減っている。人が人として、そして人間へと成長するために、人類が歩んできたすべての体験をすることも、いまや、生まれてくれば、一足飛びで現代社会の快適な生活が待っているために、まったくこうした経験をすることなく成長してしまう。
 本当にこうした世の中でいいのだろうか。今、まさに、立ち止まって、これからの人類が向かうべき方向性を確認すべき時期に来ている。

自然体験活動の意味
 自然体験活動がもたらす教育的効果について研究が行われている日本野外教育学会では、その効果を、「やる気が身につく」「自信がつく」「我慢と責任感が身につく」「友達ができる」「物事を自分で判断する」自然への気づきが身につく」などをあげている。
 こうしたことのほかにも、小学生ぐらいまでにもっとも行わなければならないことのひとつに、身体づくりをしなければならない。さまざまな偉人たちが、必ず、口にすることだが、人生の基本は健康な体だ。この基礎を作るのが、この年齢までに行わなければならないことのひとつである。
 最近のニュースでも取り挙げられるようになり、ご存知の方も多いかもしれないが、子どもの体力に関する報道がされている。それによると、男子も女子も、身長は伸びているのだが、さまざまな体力測定の結果のほとんどが、これまでのものより、低下していると報告されている。こうした状況に、文部科学省でも、中央教育審議会の分科会に「スポーツ・青少年分科会」を設置し、青少年の体力を向上させるためには、どうしたらいいかという検討が始まっていると聞く。

 自然の中で、遊ぶことは、全身運動に繋がる。たとえば、ぶら下がったり、引っ張ったり、バランスをとったりすることである。もし、できないような場面があったとしても、異年齢の年上のガキ大将みたいな存在が、そのこつを教えてくれる。大人の介在することなく、子供同士が、教えあい、支えあうのだ。時には、厳しいいじめのような場面に遭遇することがあったとしても、ある意味、そうした状況に立ち向かうことも、子供同士で学びあうものだ。
 こんな外遊びや自然体験活動が、今の子どもたちには必要だ。


■バックナンバー
自然体験活動のリスクマネジメント
今の子どもたちに浴びるほどの自然体験活動を

■著者紹介

佐藤 初雄(さとう はつお)
1956年東京生まれ。国際自然大学校 代表。
(社)日本環境教育フォーラム 理事、自然体験活動推進協議会副代表理事、日本野外教育学会理事、 日本アウトドアネットワーク事務局長などを務める。日本の野外活動の実践的指導の第一人者として知られる。
共著に「日本型環境教育の提案」(小学館)「子どもと環境教育」(東海大出版)「野外教育入門」(小学館)などのほか、 監訳に「キャンプマネージメントの基礎」(杏林書院)などがある。

■関連情報
国際自然大学校