作家・深田久弥が選定した「日本百名山」のひとつに数えられる赤城山。標高1828mの黒檜山を主峰とする山々の総称で、広大な関東平野を見下ろす、どっしりとした山容を誇ります。麓の群馬県前橋市などでは古くから信仰の対象であり、地元のシンボルとして親しまれています。
そんな赤城山の中腹にある「国立赤城青少年交流の家」では、小学校高学年から中学生を対象に、7泊8日の長期遠征型キャンプを開催してきました。赤城山を含む上毛三山を登り切ってしまおうというこのプログラムは、名付けて「限界突破キャンプ」。
4つのステージに分けて目標を設定するなど充実した構成で、子どもたちの「やり抜く力」を育む点が高く評価され、2021年度の「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」(現・安藤財団 自然体験企画コンテスト)で、一般部門の最優秀賞である安藤百福賞に輝きました。
「国立青少年交流(自然)の家」は、青少年の健全な育成を目的に、独立行政法人国立青少年教育振興機構が運営する団体研修施設です。現在、北海道・大雪山から沖縄・渡嘉敷島まで27の施設があり、それぞれの立地条件を活かした特色のある活動が行われています。
赤城山の南麓、標高530mに位置する「国立赤城青少年交流の家」は、1970年に全国で7番目の施設として設置されました。森林に囲まれた約25万㎡の敷地には体育館やテニスコート、研修室やプレイルームなど多彩な施設がそろっています。
施設の最大の魅力は、首都圏からのアクセスの良さ。赤城山・榛名山・妙義山の「上毛三山」に抱かれた豊かな自然環境を求めて、東京や千葉、埼玉などから、小・中学校のほか各種団体や企業など、年間900を超える団体の10万人近くが利用しています。
この地を舞台に2018年から行われてきたのが、7泊8日という長期プログラムです。背景には、当時、文部科学省から1週間程度の自然体験活動が推奨されていた、という理由もあるそうですが、担当者の「上毛三山を全部登りたい!」という熱意から生まれた企画でもありました。
加えて、所長を務める桑山宗大さんによれば、長期キャンプは自然体験活動としてより効果的なのだそうです。この施設でも利用の中心は2泊3日ですが、実はそれでは「仲間との関わりや自然体験の絶対量がまだまだ足りない」と言うのです。
「2泊までなら、共同生活の不満やトラブルがあっても我慢できますが、3泊を超えるとそれが難しくなる。また、よく言われるのがトイレ。大きいほうの話ですが、排泄というハードルを越えられるかどうかも、経験としてかなり大きいですよね」
「限界突破キャンプ」では、周辺施設も利用しながら、上毛三山を含む山々への登山に挑戦するほか、テント泊や野外炊事なども行います。7泊8日という長期日程に加え、徒歩で移動する距離は合計50kmにも及び、「限界突破」の名にふさわしい内容です。
赤城山は、1800mから1200mの峰々が連なっている。岩場や急な登りもあるが、仲間同士で危険箇所を共有し、励まし合いながら登っていく。ご褒美は、眼下に広がる関東平野の絶景。
2021年(受賞年)は、テント泊をしながら3日間で赤城山を縦走するという、なかなかにハードな行程も。それが挑戦意欲を刺激したのか、まだコロナ禍が続いていた時期にもかかわらず、18人の定員に対して54人の応募があったと言います。
プログラムの大きな特徴が、4つのステージに分かれていること。参加者同士のコミュニケーションを図りながら、身体的な活動レベルを徐々に上げていくことが狙いです(以下は2021年の実施内容)。
参加者の中には、これが初めてのキャンプという子どももいるという。そこで1週間という日程を生かし、テント設営や登山の知識・技術を学ぶ時間もしっかり確保されている。
参加者は5〜6人のグループに分かれ、ボランティアスタッフがリーダーを務めます。一日の終わりには振り返りの時間が設けられ、リーダーがその日の学びや気づきを促すような問いかけや、問題のあった行動に対しては改善策を考えさせるなどの働きかけも行っています。
また、「ふりかえりシート」を使って、その日の自分の行動について5段階の自己評価をさせています。それによると、約13kmの赤城山縦走に挑んだ日は、「あきらめずに最後までやり抜くことができたか?」という質問に対して、全員が最高点(5点)を付けたそうです。
2018年・2019年・2021年に開催された「限界突破キャンプ」(2020年は不開催)は、2022年からは「あかぎ無限大キャンプ」と名を変えました。チャレンジ達成による自己肯定感の醸成を目指した「限界突破」に対し、「無限大」ではより自主性を重視しています。
具体的には、大人が作り上げた行程をそのまま実行するだけでなく、子どもたち自身が選んだ道を進む内容が加わりました。たとえば赤城山登山では、12の山頂のうちどこを目指すかグループごとに話し合って、合意形成を行った上で、それぞれのゴールを目指します。
2025年は「びっくり野外炊事」と題し、食材をランダムに用意。どんな料理を作るか相談し、他のグループと譲り合いながら食材を確保していきました。出来上がった料理の味のほどはわかりませんが、「残り物がまったく出なかったことが印象的」と桑山さんは話します。
長期キャンプではチームワークが不可欠。様々なプログラムを通じて、初めて会った子どもたち同士が仲間としての絆を深めていく工夫がされている。
そんな「あかぎ無限大キャンプ」も2025年で区切りを迎えました。ただ、桑山さんは引き続き長期キャンプへの意欲を見せます。「1週間で別人のようにガラッと変わることはないけれど、この経験は、きっと子どもたちの成長の大いなる一助になる」──そんな思いがあるからです。
長期キャンプは、運営する側にとっても大変な事業です。国立赤城青少年交流の家では2018年より前から実施していたそうで、実は20年近く続いているとのこと。継続できたのは、やはり国立の施設ならでは「やり切る体力」があるからではないか、と桑山さんは言います。
ただ、専門職の職員は3年で異動するそうで、企画の主担当も毎年変わります。それでも、どんな点に目標を置くべきか、また、アンケートを活用した効果測定などが、ノウハウとして受け継がれてきました。一般の人が参考にできる報告書も、毎回作成されています。
「どんなに素晴らしい活動を行っていても、事故を起こせばすべてが台無しになってしまいます。特にこの企画は長期にわたるキャンプですから、安全管理において職員・スタッフ全員が共通理解を持ち実践することは、難しい部分ではありますが、常に気を配っている点でもあります」
指導者の養成も国立施設としての役割のひとつです。民間の団体には指導者ごとにそれぞれ特徴や個性がありますが、青少年教育全般にわたる視点を持ち合わせていることも大切なのです。また、社会教育実習やインターンシップの受け入れも行っています。
「自分の人生を舵取りし、社会を作っていくことができる人材、いわば『ゼロからイチ』を生み出せる人材を育てるのは、容易ではありません。それでも、世の中の課題を他人事にせず、自ら関わろうとする人が増えれば、世の中は良くなるはず。その土台となるようなキャンプを、これからも提供したいですね」
雄大な山々を舞台に自分の限界を超える体験をした子どもたちは、この先、どんな大人に成長するでしょうか。その未来と、この地から始まる新たな長期キャンプへの期待が大いに膨らみます。
国立赤城青少年交流の家・桑山宗大さん
こんなことをやりたい、こんな風にしたい、という相手(参加者)を想う「オモイ」です。しかしそれがずれていたり、間違っていると「オモイコミ」になってしまうので注意が必要です。また、一人だけで企画していると、「ヒトリヨガリ」になってしまうので、たくさんの視点で企画してください。
「安心・安全」。これは全ての事業において土台となるもので、どんなに良いことをやっていても、1つの事故ですべてが台無しになります。例えば危険度の高いアクティビティーを実施する際でも安全が担保されなければ、それはアドベンチャーではなく無謀であり、その活動は成り立ちません。
よく言われる「人・金・もの」の3要素が必須ですが、3要素のうち、金に依存するところが大きいのではないでしょうか? 金(事業費)が工面できれば人(職員も参加者も)を集められるし、ものも購入できる。でも1番大切なのは人々の「オモイ」です!
ありとあらゆるものを参考にします。Web上に書籍や雑誌の情報も展開されているケースが多いですが、特定の書籍・雑誌、webページではなく、検索を行い有効な情報を集めます。そして自分のネットワークや人伝となりますが、その道のプロに連絡をして、情報やヒントを得ます!そこから企画を積み上げていくのが私のやり方です。

1972年、東京都出身。大学卒業は民間企業に就職するが、本人曰く「人生に迷って」退職し、バイクで日本一周の旅に出る。その中で「自然の近くで働きたい」「子どもと関わる仕事がしたい」という思いを募らせ、国立公園の自然保護官を目指して国家公務員資格を取得。東北大学勤務を経て「国立花山少年自然の家」へ。長期キャンプなどを担当し、「やっぱりこの道だ」と確信。その後、国立オリンピック記念青少年総合センター在籍中に、国立青年の家、国立自然の家と統合して独立行政法人国立青少年教育振興機構が誕生。淡路島(兵庫県)や那須甲子(福島県)、妙高(新潟県)、中央(静岡県)など各施設や本部勤務を経て、2025年4月、赤城の所長に就任。
※2021年度の実施内容
【活動のタイトル】「限界突破キャンプ」~完結編~
【活動の目的】
7泊8日のキャンプを通して、仲間と共に登山・自炊などの活動を最後までやり抜き、何事にも自信を持って取り組める力を育む。
【主な活動場所】
・事前キャンプ:群馬県立妙義青少年自然の家(本館泊)、妙義山登山
・本キャンプ:国立赤城青少年交流の家(本館泊・テント泊)、赤城山分校(テント泊)、赤城山(鍋割山、荒山高原、黒檜山・駒ヶ岳)登山、榛名山登山
【活動の特徴】
〒371-0101 群馬県前橋市富士見町赤城山27
https://akagi.niye.go.jp/
写真提供/国立赤城青少年交流の家
撮影/遠藤 宏
取材・構成/土居悦子
紙媒体・ウェブサイト、SNS(ハッシュタグの埋め込み等)できる限りの広報・発信を行ったうえで最後は人です。管理職によるトップセールスではありませんが、可能性やつながりのある方々に個別に話をさせていただき、参加者獲得(いわゆる一本釣り)につなげる。その他、青少年機構であれば28施設(※)あるので他施設のSNSにも状況を掲載してもらう。
※国立オリンピック記念青少年総合センター、国立青少年交流の家、国立青少年自然の家
自分の企画を実施することが、誰かの成長につながったり、何かの困りごとを解決したり、世の中を良くする小さな一歩になる!と信じて。もちろん、すぐに効果は出ないし、実感も持てないかもしれませんが、自分なりの「オモイ」をもって企画・運営してください!!!