
石川県珠洲市大谷町。能登半島の先端に位置する珠洲市の中では日本海側に面し、人口800人足らずの、市内でも特に小さな地区です。2024年元日に能登半島を襲った大地震では、他の地域と同様に大きな被害を受けました。
そんな中、子どもたちに少しでも楽しい時間を作ろうと、PTAが立ち上がりました。復興作業の合間を縫って、「OHTANI PRIDE」と名付けた体験プログラムを開始。豪雨被害に見舞われた後も継続し、子どもたちの笑顔を取り戻したのです。
苦難の中で活動した勇気に加えて、仲間との連帯感を高め、地域の伝統を守る心を育む企画内容も高く評価され、2024年度の「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」(現・安藤財団 自然体験企画コンテスト)で、一般部門の最優秀賞である安藤百福賞に輝きました。
珠洲市立大谷小中学校は、小中あわせた9年間で一貫した教育を行う義務教育学校です。震災前の生徒数は23人でしたが、震災後は、小6が2人、中1・2・3が各1人の、わずか5人に。家屋倒壊の被害に遭った多くの家族が、市外あるいは県外へ引っ越してしまいました。
残った人たちも、避難所での厳しい生活を強いられます。4月になって学校の新年度が始まってからも、あらゆるものが壊滅的な被害を受けた影響と、生徒数が少なくなったことが重なって、様々なイベントや行事が中止になりました。
「あれもできない、これもできない」ということが重なって子どもたちは次第に気力をなくし、すべて諦めなくてはいけない空気が漂うように。その様子に保護者たちも心を痛め、なんとかしなければいけないと思うものの、誰もが復興で手いっぱいでした。
「もともとPTA活動が盛んで、親が子どものために何かをするという思いが強い地域ですが、その一方、30代・40代は地区での役割もたくさん抱えています。ある人が『大人は5年後を考えているけれど、子どもたちにはこの一年が大切』と話すのを聞いて、この一年を無駄にはできない、『しょうがない』で済ませてはいけない。だったら自分でやろう! となりました」
そう言って当時を振り返るのは、珠洲市立大谷小中学校PTAでイベントを担当する村上ゆりさん。以前は学校でも自然体験活動を行っていましたが、震災後に教員の9割近くが交代し、実施が難しくなっていたことも背景にありました。
実は村上さんは、2022年に県外から引っ越してきた移住者です。夫と中学生の娘、5歳になる息子の4人で、空き家だった古民家に住んでいます。13年以上にわたり子ども向け体験プログラムを手がけており、その経験が、厳しい状況下で活動を始める後押しになったと話します。
他の保護者からも賛同を得られたものの、一体どれくらいのことができるのか、最初は手探りでした。子どもたちも半信半疑で、「どうせ無理でしょ」とか「楽しいことをやると、あとが怖い」という声もあったそうです。村上さんも、「約束できないのは心苦しかった」と。
最初に行ったのは塩田体験。珠洲市では古来、「揚げ浜式」による塩づくりが行われており、従来は学校の行事でした。実際の体験はできなかったものの、塩づくりを再開していた事業者の協力で、作業の様子を見学したり、話を聞いたりすることができたそうです。
子どもたちも楽しみにしていたという塩田体験。珠洲市では500年にわたり「揚浜げ式」での塩づくりが受け継がれてきた。国の重要無形民俗文化財であるこの製法を守るのは、日本で珠洲のみ。
「震災によってあまりにも多くのものが失われましたが、それでも、この地に魅力を見つけていこう。地元の素晴らしいところを、子どもたちにも知ってほしい──そんな思いも当初から持っていました。活動を『OHTANI PRIDE』と名付けたのも、そういう理由からです」
村上さんによれば、子どもたちの変化が最も大きかったのは、夏休みのキャンプです。七尾湾に浮かぶ能登島で2泊3日。幼いきょうだいや保護者も一緒に参加して、「すべてを忘れて没頭できる時間をひさしぶりに取ることができた」と言います。
豊かな里山・里海で知られ、世界農業遺産にも認定されている能登半島ですが、意外にも、そこで生まれ育った子どもたちの中には、自然体験をしたことがない子も多いのだとか。そのため、このキャンプが初めての自然体験だった子も多かったのです。
初めての釣りに夢中になって、最初は怖がっていた筏にも乗れるようになり、誰もが帰る直前まで思いきり遊びました。その後、学校の先生から「子どもたちに自信がついた」「前向きになった」などの声が聞かれたそうで、このキャンプがいかに大きな経験だったかがわかります。
能登島キャンプでは、自分たちで手作りした筏を漕いで、近くの無人島へ渡るチャレンジも。夏らしい思い出となっただけでなく、ひとりひとりが自信を取り戻す体験になった。
しかしながら、能登を再び自然災害が襲います。9月に発生した奥能登豪雨です。大谷町の被害も甚大で、村上さん曰く「道がなくなった」。本来は徒歩10分のところが1時間もかかるようになったそうです。当然、活動も変更に次ぐ変更を余儀なくされました。
それでも、やめることはありませんでした。震災後の生活の中で「自分の居場所がない」と嘆く子どもの記事を読み、それがずっと記憶に残っていたという村上さん。「ここの子どもたちを、そんな気持ちにさせてはいけない」という一心だったと回想します。
とにかく集まって、みんなでピザを作って食べ、ちょっとした遊びをしているうちに、笑い声が聞こえるように。水もなく電気もなく、苦しい会話しかできない大人たちから距離を置いて、「子どもたちだけで笑って遊べる空間を作れたことがよかった」。そう村上さんは言います。
一年の終わりには震災を振り返る予定でしたが、豪雨を受け、気持ちを整理するにはまだ時間が必要と判断。予定を変更して、音楽家と一緒に歌を作ることにしました。みんなで書いた歌詞は、楽しかったお泊まり会の記憶を集めた内容になったそうです。
豪雨の直後、村上さんの家に集まってピザづくり。ちなみにピザ釜は、段ボールにアルミ箔を巻いて手作りしたという。一年の終わりには、音楽家とのコラボで歌を制作。子どもたちも得意な楽器を担当した。
その後、「第23回トム・ソーヤースクール企画コンテスト」で安藤百福賞の受賞が決定。その表彰式には、子どもたちも全員参加しました。初めての飛行機、初めての東京という子も多く、「この年のすべての締めくくりになりました。本当に、いい思い出です」。
大地震、豪雨。自然の脅威をまざまざと見せつけられる経験を立て続けにした子どもたちに、自然に触れる活動をさせることに躊躇はなかったのか? そんな質問に村上さんは「いまこそ必要だと思った」と話します。
「最初の数か月は『自然が怖い』という気持ちを感じることもありました。だからこそ、それを克服してあげたかった。また、古くから自然とともに暮らしてきたのが、ここ能登です。自然は怖いものだけれど優しさもある、ということを思い出してもらいたかったんです」
とはいえ、相手は深く傷ついた子どもたちです。活動にあたってはしっかり様子を見ながら、その気持ちを推し量り、「どこまでチャレンジさせるか」を常に意識していたと言います。特に豪雨の後は、チャレンジよりも「安心できる場」を作ることにフォーカスしました。
日に日に元気を取り戻していく子どもたちを見て、保護者たちはその強さに改めて気づき、安心できたそうです。PTAではその後も様々な活動を続け、翌年からは、引っ越してしまった子どもたちや家族とのつながりを作る活動にも力を入れています。
ダブル災害と人口の少なさで期せずして注目を集めた大谷町には、いま、少しずつ移住者が増えています。村上さんは仲間たちとNPO法人を立ち上げ、町おこしの活動も始めました。この土地の豊かな自然と文化は、これからも受け継がれていくでしょう。
珠洲市立大谷小中学校PTA 村上ゆりさん
プログラムの企画が子どもたちにとってわくわくするようなものであること(タイトルが結構重要だったりします)。プログラムは詰め込みすぎないで、プログラム内で子どもたちが自由に考えたり、行動ができるような余白と余裕を持たせるようにしています。また、できる範囲で子どもたちに今の自分を超えられるようなチャレンジをしてもらうようなプログラムにしています。
会計も管理をきちんとその場その場ですること。時間が経つと何が何だか分からなくなってしまうこともあるので、そういったことを避ける。
資金確保と長期的活動ができるような仲間・スタッフ集め。地域や行政からの理解。
『モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!』相良敦子(講談社)
『子どもは動きながら学ぶ 環境による教育のポイント』相良敦子ほか(講談社)

1982年、神奈川県出身。高校生からカナダに留学。大学卒業後、自然療法の専門教育機関で学び、国家資格を取得(北米では自然療法が正式な医療として認められている)。アートスクールを主宰する夫とともに、子ども向けの自然体験プログラムなどを長年手がけてきた。コロナ禍を受けて家族とともに帰国。「より自然の中で暮らしたい」という思いから、自然豊かで地域の生業が残る珠洲市に移住。何の縁もなかったが、海外出身の夫や娘に対しても人々がオープンに接してくれるところが決め手になったと話す。現在はNPO法人「外浦の未来をつくる会」として町おこしの活動に取り組むほか、子ども向け放課後プログラムなども計画中。
※2024年度の実施内容
【活動のタイトル】OHTANI PRIDE 〜~震災を乗り越えてつなげる伝統~
【活動の目的】
· 元旦に破壊的な自然の力を体験した珠洲市大谷小中学校の子どもたちが、五感を通して自然と触れ合うことで自然の魅力を再発見し成長を促す。
· 日本に唯一残る大谷の「揚げ浜塩田」の活動を中心に地域の伝統を学び、大谷で育ったことを誇りにしながら復興を共に歩む。
【主な活動場所】
· 石川県珠洲市大谷町および長橋町
· 石川県七尾市能登島町
【主な活動内容】
· 8/17:塩田体験(塩づくり見学)
· 8/25〜27:能登島キャンプ(無人島での筏づくりなど)
· 9/29:停電にも負けず、ピザづくり
· 10/6:音楽家と歌づくり&演奏
【参加者】
· 珠洲市立大谷小中学校の生徒:5人(小6:2人、中1:1人、中2:1人、中3:1人)
· 一部、幼児および父母の参加あり
【装備】
· デジタルカメラ、軍手など
· のこぎり、ロープ、ライフジャケット、デジタルカメラ、キャンプ道具、ペットボトルのトラップ、デジタルカメラ、スマートフォン用顕微鏡など
· 包丁、まな板、段ボール、アルミホイル、炭、軍手など
· 紙、色鉛筆など
〒927-1321 石川県珠洲市大谷町1-78
https://cms1.ishikawa-c.ed.jp/ootaej/
写真提供/珠洲市立大谷小中学校PTA
撮影/中西 優
取材・構成/土居悦子
学校との連携で、まずは情報をすべての保護者へ発信し、その後は、連絡などはLINE保護者グループにて。
自分だけではできないことは地域の方やプロの方などに頼むと、できることの範囲がぐっと広がります。子どものために協力してくれる方は想っているより多いものです!
