
福井県越前市の小学校で、子どもたちが日本古来の「たたら製鉄」を体験する、という活動が行われました。材料となる砂鉄や木炭も、子どもたち自身が採集するなどして用意し、そこから「玉鋼(たまはがね)」を作り出すことに挑戦したのです。
稲作体験では、田植えや稲刈りなどの作業に加え、地元の伝統儀式を独自にアレンジして実施。こうした活動の背景には、土地に根づく深い歴史を知り、その文化に触れることで、地域への愛着や敬意を育んでほしい、という教育者たちの思いがありました。
伝統文化を活かしたユニーク性や教育効果が期待できる点などが高く評価され、2023年度の「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」(現・安藤財団 自然体験企画コンテスト)で、学校部門の最優秀賞にあたる文部科学大臣賞に輝きました。
福井県のほぼ中央に位置する越前市は、越前和紙や越前打刃物など、国の伝統的工芸品に指定されている伝統産業がさかんな地域として知られています。土地の歴史は古く、『古事記』や『日本書紀』にも、越の国の玄関口として越前が登場します。
これらの歴史書によれば、越前は、古代日本を治めた人物に縁の深い地でもありました。いまからおよそ1500年前の古墳時代中期。越前の豪族の娘から生まれた男児は、やがて越の国を治め、507年、大和朝廷に迎えられて第26代継体天皇に即位したのです。
創立は明治時代という古い歴史をもつ越前市大虫小学校。児童数は約270人。継体天皇ゆかりの地であることは、越前市の人々にとって大切な誇り(右写真は市内にある継体天皇と照日の前の像)。
子どもたちはまず、室町時代から銀・銅・鉛などを産出していた地元の鉱山跡に向かいました。継体天皇が鉄を持っていた裏付けのひとつとされる場所ですが、現在ではほとんど人が立ち入らないため、倒木や苔むした大岩が転がる山道を分け入ってたどり着いたそうです。
次は、製鉄の際に出る鉄滓(ノロ)の捜索です。それが見つかるということは、この地で古くから製鉄が行われていた証しとなるからです。子どもたちは40キロ近くを集め(古代のものではないそうですが)、こうして少しずつ継体天皇にまつわる歴史をたどっていったのです。
かつての鉱山跡までの道のりは、なかなかにハード。あちこちでノロが見つかり、子どもたちは大喜び。自宅近くで見つけて学校に持ってきた子も(ただし、これらは未舗装路の時代に補修に使われたものとのこと)
活動の始まりは当然ながら、「地元ゆかりの継体天皇について学ぼう」という教員の提案でした。しかし、子どもたち自身がそれに関心をもち、何をするか・次にどうするか・どうやればうまくいくかなど、ひとつひとつの活動は自分たちで話し合って進めていったと言います。
集めたノロを「たたら製鉄」によって鉄に戻す──これもまた、子どもたちの話し合いで決まりました。関心を寄せてくれた地元の打刃物職人グループの協力を得て、まずは鉄づくりの実演を見学。その翌月、子どもたち自身で鉄づくりに挑みます。いずれも一日がかりの一大行事です。
当日はグラウンドの一角にテントを立て、レンガを積んで炉を作り、そこにノロを砕いた砂鉄と、自分たちが伐採した竹から作った炭を投入。2時間後、直径2センチの鉄の塊を3つ作ることに成功しました。残念ながら「玉鋼」ではないものの、紛れもなく、子どもたちの汗の結晶でした。
盛大に火を使う活動を実現できた背後には、学校の思い切った決断も。一方、子どもたちは非日常体験に大興奮。この活動はメディアでも取り上げられ、後日、写真展も開かれた。
「子どもたちは何よりも体験が好きです。とはいえ、学習であるからには『なぜそれをやるのか?』という目的が必要で、体験だけで終わらせてはいけません。地域の歴史を知ってほしいという思いが教員側にはありましたが、子どもたちがそれに乗ってくれたおかげで、素晴らしい活動になったのだと思います」。大虫小学校教諭の文室百恵さんはそう振り返ります。
竹炭づくりは現在も続けられ、2025年度は地元の横根寺(横根観音)で竹を伐採しました。大杉で有名な寺で観光客も訪れますが、竹が生い茂って景観が悪くなっていたことから、地域貢献を活動の目的に据えたのです。出来上がった竹炭も、地域の人たちに配って還元します。
大虫小学校がある地区は古くから稲作がさかんで、学校のまわりにも田んぼが広がっています。そこで、5年生の総合的な学習の時間では、地域の農家から田んぼを借りて、指導を受けながらの稲作が行われています。
5年前に始まった稲作体験活動。毎年テーマを決めて米づくりを行い、出来上がった米は自分たちで調理する。おにぎりやおはぎのほか、2024年度は米粉に加工してスイーツ作りにも挑戦。
田植え・稲刈り・脱穀・籾すりといった一連の作業のほかに、鳥除けのかかしづくりや稲わらを使ったしめ縄づくり、といった昔ながらの手仕事も体験。地域では行われなくなった「虫送り」の儀式も、子どもたちが独自にアレンジして復活させました。
文室さんによれば、こうした土地でも「授業で初めて田んぼに入った」という子どもが多くなっているとのこと。「身近に田んぼがあるこの環境だからこそ、より深い体験になります。それに、日本人の主食である米について知ることは、歴史を知ることにもつながります」。
小学校も高学年になれば、どの教科も概念的で漠然とした内容に。だからこそ、その中で地域の話題を出すと「子どもたちの顔がパッと上がる」と文室さんは言います。まるで白黒の絵がカラー写真になったかのように、生き生きと楽しそうに活動するのだそうです。
かなり以前に話したことでも、郷土に関する話題なら、あとあとまで覚えている子どもが多いとか。文室さんは今後も、越前和紙と大虫地区の関係など、ふるさとにまつわる探究活動を子どもたちに提案したいと話します。と同時に、自然に触れる機会も大切にしています。
「自然のにおいは書物からでは伝わりません。川の水で靴を濡らしてしまったり、重い石を運びきれずに途中で諦めてしまったり、といった体験も、実際にやってみて初めてわかること。そういうちょっとしたつらさや苦しさを経験することで、他人への思いやりや優しさが芽生えるのではないでしょうか。自然体験活動は、子どもたちの人格形成にもつながると考えています」
その一方で、こんなエピソードも。ノロを探している途中で、古い時代の硬貨を見つけた子どもがいたそうで、「普段はそんなに足元を見ていないはず。ノロを探していたからこそ見つけられたもので、それは本当に宝物だと思うんです」。
地域に誇りを持ち、ふるさとに親しみを抱く──そんな宝物のような経験を積み重ねる活動が、これからも続けられます。
越前市大虫小学校 文室百恵さん
指導者自身がその企画に対して、わくわく感を持っているかどうか。指導者が心底楽しんでいれば、それが子供に伝わり、子供もいつの間にか夢中になっていると思います。
・安全面。
・大きな目的。できれば、人のためになるようなこと。
こと学校において継続的な活動にしようとすれば、前年度の活動を踏襲するだけとなり、ややもすれば創造の機会が失われてしまいます。しいて言うならば、活動の工夫や反省点・今後の改善点などを記録して残すこと。
とにかく自分が楽しむこと。夢中になれることを見つけることです。

1987年、福井県出身。2020年より越前市大虫小学校に勤務。越前市よりも自然豊かな町で生まれ育ち、子どもたちだけで山を駆け回り、海にもすぐに連れていってもらえることが当たり前の子ども時代だったと話す。「そういう世界を知らないのはもったいない。都会に住んでいるわけじゃない、せっかく田舎なのだから、みんなに体験してほしい」
※2023年度の実施内容
【活動のタイトル】
滴り落ちる玉の汗を玉鋼に 弾け飛ぶ汗の粒を米の粒に さあ、行こうか、大虫!!
【活動の目的】
児童がふるさとの素材を使って「たたら製鉄」や「虫送り」を学習・体験することで、日本の伝統文 化の重みと深さを味わい、自然の中で活動する喜びを実感できるようにする。ひいてはふるさと大虫 に元気と活力をもたらし、児童はSDGsの視点を持って生活していくようにする。
【主な活動場所】
・越前市大虫小学校
・文室鉱山跡・五皇神社(越前市文室町)
・今城塚古墳(大阪府高槻市)
・大虫滝遊園地(越前市大虫町)
・ファームみつまた所有の田んぼ(越前市丹生郷町) など
【主な活動内容】
・鉄粒編:継体天皇が福井出身だという証拠を見つけるため、市内で製鉄の跡地や製鉄の際に出る鉄滓(ノロ)を捜索・調査すると同時に、砂鉄と木炭で玉鋼を作る日本独自のたたら製鉄に挑戦する。
・米粒編:実際の田んぼで地域の人から指導を受けて、田植え・稲刈り・脱穀・もみすり・しめ縄作りなどを体験し、田を守るためにふるさとの古人が行ってきた虫送りの儀式を独自に創作したり、かかしを作ったりする。
【活動の特徴】
・これまでに経験したことのない、わくわく感のある活動を子どもたちと計画した。その際、単なる楽しさや目新しさだけを求めるのではなく、継体天皇や虫送り行事など、ふるさとに残された豊かな自然と深い歴史を活動の起点とすることで、体験を体験のための体験にすることなく、目的はあくまでも、ふるさとを愛する児童を育成することに置いた。
・児童の自主性を高めるという学校教育の目標を達成するため、活動は常に子どもたちの話し合いを軸にして、できる限り子どもたちの力で展開していった。教師や指導者はあくまで支援者として、児童の安全を確保したり、必要があれば、児童の知らない高い文化や深い知識を伝えたりした。そうすることで、子どもたちは指示を待つことなく、自ら生き生きと目を輝かせて活動していた。
【参加者】
・鉄粒編:6年生(55人)、ボランティアを募集した企画では保護者(3〜7人)も参加
・米粒編:5年生(41人)、ボランティアを募集した企画では保護者(3〜7人)も参加
【装備】
軍手、マスク、たがね、ヤスリ、金づち、のこぎり、ドラム缶、無煙炭化器、ふるい、糊、針金、千歯こき、足踏み脱穀機、フェルト布、稲刈り鎌、米袋、角材、レンガ、アイロンプリントシート、安全メガネ、鉄板、ふいご、画用紙、ひも、脚立、ブルーシート、バケツ、テント、磁石、皿
【メディア紹介】
福井新聞、FBC福井放送、丹南ケーブルテレビなど
〒915-0888 福井県越前市高森町14-15
https://school.city.echizen.lg.jp/omushi/
写真提供/越前市大虫小学校
撮影/中西 優
取材・構成/土居悦子
