![]() ![]() ![]() 第2回『野外でもソーシャル・ディスタンス!?』 著者 節田 紫乃
悶々としているのは、私だけではなかった。パンデミックという今まで経験したことのない事態に、周りの人間もどう対応するべきか、何が正解なのか手探り状態で、非日常の日常をこなすことで精一杯のようだ。何に対して戦っているのかも分からず、先行き不透明な状態に陥る。ストレスはマックスにまで膨れ上がり、もう家で大人しくしていても頭がパンクしそうだ。そう思った人たちが、ウォーキングに、サイクリングに、ポンポン外へ飛び出していた。1日1回外での運動を許可されていた英国で、人々は制限をできる範囲内で拡大解釈し、工夫を凝らして、外出を楽しみ始めていた。気がつけば、私の住む静かな村には、いつもより人が増えている。明らかに今まで野外活動をするタイプではなかった人たちまで、フットパスを歩いていて、ちょっとした混雑が生じているではないか。ソーシャル・ディスタンスをそれほど気にしなくていいはずの野外で、人との距離に神経を遣う。「なんだ、これ?」 ![]() 20年春から初夏にかけて天気が安定してくると、自宅で過ごすことが多くなった人々は、普段できないガーデニングや家庭菜園、DIY、アート制作に勤しんだ。すると、それらに関連する品物の争奪戦が勃発し、店からもネットからも売り切れが続出する。コロナ禍とEU離脱による影響で、供給側は追加入荷が間に合わず、消費者は苛立ち、クレームが増え続けた。私も庭仕事で必要な培養土を探し回ったが、全て店から消えていた。店側も、政府の方針と需要と供給の落差に振り回されて疲弊していた。例えば園芸店では、第1回のロックダウンで店を強制閉鎖していたため、初春の人気植物を破棄せざるを得ず、大きな損害を出していた。その後の、この異常な品薄や品切れ状態。私の馴染みの園芸店スタッフも、「どう対応していいか分からないよ」と苦笑していた。しかし、人々が植物を育て、体を使って何かを創造しようとすること自体は、今後、面白い刺激を社会にもたらすような予感がした。ガーデニングは英国のお家芸である。アロットメント(市民農園)の制度は、1500年代後期からすでに存在している。今、再度彼らの中にあったDNAが目覚め、熱を帯び始めようだ。 ![]() ■バックナンバー ![]() ■著者紹介 節田 紫乃(せつだ しの) 1970 年東京生まれ。英国・ファルマス大学大学院広告学科卒。英国在住 日本ロングトレイル協会アドバイザー 約 13 年間日本において、国内外のテレビ・映像制作に、グラフィック・デサイナー、プロモーション・プロデューサーとして携わる。2004 年に渡英し、南西部にあるサマセット州に在住。ガーディナーとして活躍する傍ら、英国をさらに理解するために、ウォーキング文化を日々観察し、ウェブサイト『足で感じるブリテン島・Rambler Aruki』(rambleraruki.com)にて、レポートをアップし続けている |