![]() ![]() ![]() 第1回『2020年春、サマセット』 著者 節田 紫乃
新緑がようやく長い冬から目覚めた。小鳥たちが求愛の鳴き声を響かせ、ミツバチたちは蜜を探して忙しく飛び回る。子羊たちが、初々しく親を呼ぶ声が聞こえてくる。いつもの生命力満ち溢れる、英国の春の訪れ。人間たちも、心なしかウキウキし始める。しかし、そんな待ち望んでいた春の下、私は清々しい空を見上げて、ふと、どうしようもない疎外感を感じ、大きなため息をついていた。 ![]() ロックダウンが始まると、人々の活動が止まった。いつも聞こえる飛行機や車の騒音、近くの小学校から聞こえる子どもたちの声、誰かが作業をしている音。全てがぴたっと止まった。異常なほどの静けさの中、五感に染み込んでくるのは、春を謳歌している周りの自然の気配。普段なら癒されるはずなのに、今はその自然に対してイライラしている。人間は「止まれ」と言われているのに、自然はそんなことはお構いなしに、先へ先へと進んでいくからだ。自分は自然の中の一部だと認識していたはずなのに、突然大きな壁が立ちはだかり、取り残された気分だ。それが、どうしようもなく虚しい。「ねぇ、置いてかないでよ」。 ![]() ■バックナンバー ![]() ■著者紹介 節田 紫乃(せつだ しの) 1970 年東京生まれ。英国・ファルマス大学大学院広告学科卒。英国在住 日本ロングトレイル協会アドバイザー 約 13 年間日本において、国内外のテレビ・映像制作に、グラフィック・デサイナー、プロモーション・プロデューサーとして携わる。2004 年に渡英し、南西部にあるサマセット州に在住。ガーディナーとして活躍する傍ら、英国をさらに理解するために、ウォーキング文化を日々観察し、ウェブサイト『足で感じるブリテン島・Rambler Aruki』(rambleraruki.com)にて、レポートをアップし続けている |