第11回 「続・焼岳の小屋」著者 村田 浩道
前回の焼岳話には続きがある。山行行程としては最終日(3日目)のお話だが、前回よりはかなりシリアスである。 お客様のトイレ脱出劇(第10話参照)も一段落し、美味しく晩御飯を食べて、全員で消灯までの、まったりとした山小屋の夜を楽しんだ。ランプの灯りだけで過ごす素敵な時間だった。 夕刻から降りだしていた雨は、しだいに風を伴って激しくなり、消灯の頃にはゴウゴウと音をたてていた。明日は焼岳に登頂予定だが、この分では難しいかもしれないと、同行のガイドと話をしながら布団に入った。 翌朝、雨は止み、風は残ったらものの、何とか行けそうな天候である。朝食を手早く済ませ、小屋を後にする。だが、やはりこの山行はすんなりとは行かない。出発して一時間もしない内に再び雨、焼岳の小屋はスマホが通じないため、天気図もリアルタイムでの情報がなかった。 雨は直ぐに勢いを増し、登山道を雨水が流れるほどになり、いよいよ先頭ガイドに撤収の声をかけ、中腹辺りから引き返した。分岐に差し掛かり、ますます激しさをます雨に、下山ルートの変更を余儀なくされ、上高地下山予定から中尾高原下山に切り換えた。こちら方が幾分下り易く、車も際まで入るだろうと言う判断であった。私が先頭、真ん中辺りにもう一人のガイド、最後尾に添乗員の体制で中尾目指して下り始めた。40分程下っただろうか、相変わらず雨は強く、登山道には踝辺りまでの雨水が流れていた。目の前に一本の倒木が登山道を横切って倒れている。私の直ぐ後ろには80歳の男性参加者、この方には年齢的にも気を配っていたので、一声かけた。倒木に注意してください!乗ると滑りますから跨いでくださいねと。 私が前を向き直った次の瞬間、その参加者が転倒、雨水が流れる登山道に勢いよく倒れた。転倒した理由はわからないが、かなりの勢いで頭も撃っていそうだ。動かすな!と思ったが、身体は流れる雨水に浸かっている。水からあげるのが優先と抱き抱え、頭を確認すべく帽子をとると、右側頭部がパックリと切れ、血が溢れ出した。ヤバい。出血が多い。しかも受傷者は意識がない・・・無線で連絡を取りもう一人のガイドに緊急を知らせる。手拭いで止血して、登山道脇の雨水が流れていない場所に横にし、とにかく呼び掛けながら意識が戻ってくれと願った。(つづく) ※画像はイメージで、本文とは無関係です。 ■バックナンバー ■著者紹介 村田 浩道(むらた ひろみち) 日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。 高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。 |