2007年度トム・ソーヤースクール企画コンテスト支援50団体の企画より、
その活動や実施のレポートを順次掲載していきます。


  活動レポート    

NO学校・団体名都道府県企画の概要
45 広島県山岳連盟 広島県 「わんぱく登山部」
山登りや沢登などの山遊びを通して、子どもたちに「楽しい」「好き」といった、気持ちの原体験を提供する活動。

「わんぱく登山部」 夏の大チャレンジ! [8/9-11]

 日  時:平成19年8月9日(木)~11日(土)
 場  所:広島県山県郡安芸太田町 恐羅漢牛小屋高原エコロジーキャンプ場
       深入山・恐羅漢山・奥三段峡
 参加者:部員11名(男子7名、女子4名)※小学校3~6年生、スタッフ6名
 ねらい.:大きな自然をフィールドにして冒険することの楽しさ。大きなことをやりきる達成感と楽しさ。
       ダイナミックな自然を直接肌で感じる体験。「あそびこむ」時間の提供。

 <タイムスケジュール>

深入山の登山口で。女の子たち、ついたとたんに花束をつくりはじめました。お母さんにあげるんですって。ホームシックは実はこのときから始まっていた・・・!?

8月9日(木) 深入山(しんにゅうざん)ハイキング
07:30  横川集合・出発
09:00  いこいの村着(登山口)
09:20  登山開始
11:00  山頂
11:30  東屋で昼食(お弁当)
13:00  下山
14:00  キャンプ場着・生活準備ほか
18:00  夕食
20:00  就寝

8月10日(金) 沢登り・山登り(奥三段峡からの恐羅漢山一周)
05:00  起床・朝食
07:10  出発
08:20  チャレンジスタート(9:20沢発)
11:25  F7の滝到着
11:45  F7上の淵で昼食(12:30出発)
14:30  奥三段峡終了(林道着)15:00発
16:20  ナツヤケのキビレ
16:50  ゴール(キャンプ場入り口)
19:50  夕食
21:00  就寝

8月11日(土) キャンプ場での自然あそび ※希望者で恐羅漢山頂アタック
06:30  起床
07:30  朝食
08:30  恐羅漢山頂アタック隊出発 ※残りメンバーは周辺で自然遊び
10:50  アタック隊下山
12:00  昼食
14:00  キャンプ場出発
14:30  いこいの村で入浴
17:30  横川着


わんぱく夏キャンプ一日目はさくっと深入山(しんにゅうざん)ハイキングから。山焼きが毎年おこなわれる深入山は草原が保たれ、山頂が目の前に見えます。「かんたんにのぼれそうだ!」

いきなりキキョウの群生です!女の子が夢中。でもあんまりとらないでね。

さくっとのぼるはずだった、深入山。ファミリーコースとして親しまれていますが、実はどのコースも急登できついのです。先についた子が最後の子をきづかって迎えにきました。「大丈夫?もうちょっとだよ!」

 <運営ポイント>

こどもの遊びとしての冒険とあそびこむ体験。
沢の活動は基本大人先行。自分達でできる感じであればおまかせ。
炊事、生活の運営などは基本大人で管理。こどもは「お手伝い」として参加。
活動は「課題」ではなく「あそびとしての冒険」。
寄り道も楽しみながら、その時のこどもの興味や好奇心も大切に。
「いってみよう、やってみよう」という感じで。

 <実施の概要>

夏休み、広島のゆたかな奥山を舞台に大自然を冒険してあそんでみようという2泊3日のキャンプ。
メインの活動は沢をのぼり、山を越えてぐるっと一周してキャンプ場に帰ってくる「わんぱく登山部の大チャレンジ」。
のぼりつめる沢はふもとの奥三段峡。めざす山は広島県最高峰の恐羅漢山。
活動は「課題」としてあたえられるのではなく、好奇心、冒険心をみたすための「冒険的なあそび」として提供。
大チャレンジの実施は中日2日目。キャンプ場を拠点に、各日程でそれぞれ違った活動をおこなった。


山頂には土の流出をおさえるために、登山者がもって上がった石が積んであります。こどもにとっては遊び道具です。石つみあそびにままごと!しばらく夢中で遊びました。深入山、きつ~い。僕つかれちゃった!

今日は保護者の方にお弁当をつくっていただきました。これから2泊3日、お母さんからはなれます。最後のお母さんの味!

360度の展望をもつ深入山からは明日めざす県最高峰の恐羅漢山がはっきりと見えます。

 <参加者の様子>

活動・生活ともに「ぬきさしならない状況」につぎつぎと直面するなかで、「本当の自分」でそれらを乗り越え
新しい友達や新しい自分、新しい楽しさを発見し、冒険することの楽しさや、やりきることの楽しさ、
他人とともに自然の中であそぶ喜びを見つけていった。
心揺のゆれも大きく、それぞれがそれぞれの大きな一歩を踏み出した3日間となった。

今回の活動は2泊3日のキャンプ。
そして活動は沢をつめ、山をこえるという、大人でも一苦労ある大チャレンジである。
活動・生活ともに、こども達は楽しさや期待感の反面、不安やぬきさしならない状況に何度も直面する。
生活では親から二晩も離れることへの不安や親のいないところでの生活のストレス、
夜の暗いテントのこわさ、自分で自分の持ち物を管理しなければならず、ものをなくしておろおろと探す場面もある。
活動では沢登りの緊張やしんどさ、長い道のりと疲労、自分の足で歩かねばならない状況などなど。
そんな中で本当の自分が出てきたり、それを他人に受け入れてもらう体験があったりする。
新しい自分や仲間、新しい楽しさ発見する。
冒険することの楽しさややりきることの楽しさ、他人と共に自然の中であそぶよろこびを
どんどん見つけていったという感じであった。


こちらは4月にのぼった臥龍山!下山はみんな「かけっこ」になっちゃいますね。

林道コースの展望台。山々を見渡せるすばらしい展望。向こうに聖湖(ひじりこ)も見えます。

のぼりの道とちがって、このコースはすばらしいミズナラの森。ブナもちらほら見え始めています。ブナの大木の下に岩清水がでていました。山水で「水をとる」ことを覚えたみんなです。

特に男子グループについては、2日目の活動の沢後半部分から次第にチャレンジがより自分達のものになり
もっと大きな山への登ってみたい、もっと友達と一緒に自然とあそびたい、
というあこがれと意欲をお土産としてもってかえった3日間となった。
2日目のチャレンジは時間の関係でハーフコースを回ることになり
恐羅漢山頂をみることが出来ないままになっていた。そのことがこども達の中で残っており
3日目の朝、こども達から「恐羅漢山に登りたい!」という強い要望が出された。
(こちらが用意していたのはキャンプ場での自然遊び)
「恐羅漢山頂アタック隊」が結成され、
急遽午前中の活動が「恐羅漢山アタック」になるというハプニング(?)があった。
前日からの疲労もあり、急登の最短コースにずいぶんしんどい思いをしたようだったが
自分達で望んでたどりついた山頂は格別のものだったようだ。
かすみが多い最近の空にはめずらしく澄んだ青空で、来月チャレンジする鳥取県の大山まで見えたとのこと。
はからずも来月のチャレンジへ向けての動機付けにもなった。
女子については体力的に余裕のない1名へあわせてしまう場面が多く
行きたいという気持ちも体力もある子どもが遠慮がちになっている様子がみられた。
さらに女子グループは小学校3年生でしめたためか、ホームシックなどもあり
2日目夜からは活動よりも親に意識が向きがちであった。
3日目の恐羅漢山も2名の希望者があったが、他の女子が行かないことでひきずられてしまった。
しかし、それまで水に浸かることが出来なかった子が
友達とともに沢登りをするうちに水につかって遊びはじめたり、
受け入れられなかったカエルなどの生き物を受け入れていったりなど、
そのこどもなりの大きな一歩がそれぞれに認められた。

女子も含め、今回の3日間で確実にひとりひとりが歩を大きくすすめたという感じ。
また、男女間でもお互いに仲間として認知してきている。
それぞれがそれぞれの3日前から大きな一歩を踏み出し
そのことに喜びと自信、新しい意欲をもってかえった3日間であった。


夏独特の日差しにまいった登りでしたが、下山はミズナラの木々が日光をさえぎって快適な道行です。

無事下山。後方にみえるのが深入山の山頂です。みんなおつかれさま!

さて、キャンプ場に到着。これから2泊3日のテント生活がはじまりますよ!

「お手伝い、したい!」「わたしもさせて!」大人が何かしていると、みんな「お手伝い」をもとめてやってきます。

「おれ、たまねぎの皮むきできる!」「おれ家でやったことある!」では、ふたりでわけあって仲良くどうぞ。

炊事棟のコンクリをテーブルにして食べるんですね。大人から見るとなんだか変な気分。逆のほうが楽じゃないの??


あそびながら、一日目が穏やかに暮れていきます。みんな寝てくれるかな、と心配していましたが、「明日早いからもう寝る!」と19:30頃にはテントにもぐっていました。大人顔負けの自己管理。失礼しました。。。
 <運営について>

わんぱく登山部はじめてのキャンプで手探りも多かったが
活動、生活ともに良い運営が出来たと感じる。
スタッフの関わりもよかった。
ただ、現段階では「歯車がうまくかみあった」という状態。
この歯車のうまいかみ合い方を「運営方法」におとしていき
今後に活用したい。

 <プログラムの設定について>

当初は「大きすぎるか?」という不安もあったが
ねらいにあった良い設定であった。


さあ、いよいよわんぱく登山部大チャレンジの日です。ヘルメット、ライフジャケット、命綱をつけて!行きますよ!

小さな滝や岩の段をのぼって・・・川を横切って・・・

小さな淵のある岸でちょっと休憩。みんな淵にとびこみはじめました。

「きゃ~!!」流れて深くて、こわくて、楽しい!沢の流れに水の力を感じます。自然の水の息づかいをからだいっぱい感じます。

プールとちがって生き物のような存在感のある沢の水。躊躇なく淵に入れる子と、やりたいけどまだ踏み出せない子と、姿はさまざま。

畳平にやってきました。ここにはメンバーいわく「ウォータースライダー」があります。たちまちすべって遊び始めました。


今まで水に入れなかった子もとうとうやりはじめました。男の子も、女の子も。楽しい!
 <安全管理>

ポイント・・・沢登りは基本大人先行。
・2~3名のグループにわけ、大人がつく。
 (今回初参加の大人がこどもを覚え、信頼関係を築いてもらうため。
 また、すみやかな人数把握のため)
・2~3名をおいて、大人が列の間に入り、フォロー。
・ヘルメット、ハーネス、ライフジャケット使用。
 (正しい装着のチェックを大人が行う)
・奥三段峡のアプローチ、F7の高巻きは事前にフィックスロープを設置。
 フィックスロープ使用。
・こどもは空身。飲み水・食料・フリースは大人が荷揚げ。
・運動靴の上から靴下を着用。(すべりどめ)
・奥三段峡のゴール(林道)にバックアップ車を配置。

生活・その他・・・脱水・夏バテ対策
・麦茶やスポーツドリンクのほか、旬のくだもの、食事で栄養のバランスに注意。
・食事のカロリー計算と、なるべく食がすすみやすいメニューを工夫。
・フリースなどの防寒着持参(高原での寒さ対策)
・緊急連絡などのためのバックアップの配備

事例・・・2日目、沢を終えて林道から、体力的に弱い子をふくむグループが大きく遅れた。
ゴールの時間差としては15~20分だが距離としては大きく、また前のグループが見えない状況。
さらに、はなれた最後尾グループに大人が一人という状況であった。
(要因分析) 時間が押していることで、先頭のペースが速くなった。
沢をやりきったことでスタッフの緊張感が全体的にとれてしまった。(大丈夫だろう、という感じ)
(今後の対策) スタッフは配置について最後まで気を配る。最後尾のスタッフを1名にしない。
全体が離れすぎない。トランシーバーなどの活用。
また、精神的なところから逆に人間がリスクをつくってしまう状況があることを予想し
あらかじめスタッフで確認しておく。


いよいF7の大滝にたどりつきました。この辺でようやく奥三段峡の半分くらいです。この大きな滝を登るのはちょっと難しい。命綱をつかって高巻きです。

緊張の瞬間。

F7の大滝をまいてあがったところでお昼をとることにしました。今日のメニューはチキンラーメンとパン。

出発からすでに4時間。沢の4時間は長いのです。先に進むことが冒険になってきました。

でも、歩き方や登り方もなれてきて、なかなか頼もしい雰囲気も。

沢の深部へとすすみます。


とうとう奥三段峡の最深部に到着しました!あの堰堤をこえたら、林道はすぐそこです。
 <総合評価>

登山や冒険に「しんどさ」はつきものだ。
「楽しい」という気持ちの原体験を目指すわんぱく登山部にあって
今回の「あそびとしての冒険」をねらった活動は
どのくらいの「しんどさ」が適当なのか、
「しんどさ」をどうとらえるかが鍵になった。
前回、沢登りでおぼつかない足取りをみせた2班にあって
今回予定していた奥三段峡・恐羅漢一周のチャレンジは
「大きすぎないだろうか」という不安がスタッフに広がった。
もちろん、こどもの力を信じないわけではない。
その気になれば、こどもだって信じられないくらいの力を発揮する。
でも、わんぱく登山部はそういう場を提供するところではない・・・。
こちらが感じる「できるであろう」すれすれのラインで、当初のルートと、その半分のルートを用意した。
その半分のルートでも、大人の一日仕事のルートであった。

「しんどさ」をこの子達はどのようにとらえるのだろうか、
活動の負荷が大きすぎて意味がわからなくならないだろうか、
と不安もありながらの実施であった。


堰堤をこえるとそこは奥三段峡の最深部。堰堤にせきとめられた淵があります。時間がとまったような不思議な雰囲気。

出発から6時間。林道到着。とうとう奥三段峡をつめました!みんな少し興奮気味。先についたメンバーが到着がまだの仲間を、橋の上から大きな声で呼ぶのが聞こえました。

でも、ここからまだまだ行くんだよ!林道をとおり、恐羅漢山へとりつきます。がんばって!


林道出発が15時。残念ながら恐羅漢山山頂は時間的に厳しくなったのでナツヤケのキビレコース(ハーフコース)を回ることにしました。それでもここからあと2時間。沢のあとの山道はつらい。峠についたときは「やったー!うれしい!」の歓声があがりました。みんなすごくがんばったんだね。

でも、しんどい中、ぬきさしならない中、必死でその場にあろうともがく時
私たちは「自分は生きている」と感じる。
それが自然の中ならなおさらである。
それは自己肯定につながり、
そして「楽しさ」につながっている。
それはこどもでも同じなのだと
3日間のメンバーの様子をみながら気づかされた。
それらはまだ言葉にはならないかもしれない。
ただ、その感覚を伝えること、耕すことが
この時期の子ども達にとって大事なことだと思って始めた
わんぱく登山部である。

提供する側も手探りの中での実施がつづく。
だが、今回何か開き始めた、見え始めた、という感じだ。
こども達がより輝き始めている。8月活動のねらいは達成できたと感じる。
そしてそれ以上のものが見えてきた感じである。


ひと仕事終えたわんぱくメンバー。疲れと興奮のひととき。仲間とスイカをほうばりました。なんだかちょっとたくましくなった感じです。

3日目。ちょっと遅めの朝食です。ほとほととした静かな朝。

「ねえ、今日山に登るの?」みんなが聞いてくるので「疲れてイヤなのかな」と思ったら・・・「恐羅漢、登りたいよ!!」え?そうなの?!よっしゃ、それじゃあいくどー!行きたい子は急いで準備だ!

もちろん疲れがないわけではありません。前日からの筋肉疲労。登った最短コースは急傾斜。「しんどい、きつい」をなんども口にしたそうです。でも、しんどい思いをしてたどりついた山頂は、彼らにとって心大きくゆれるものだったようです。

にわかに結成された恐羅漢山アタック隊を迎えてくれたのは、最近にはめずらしい明瞭で広大な展望でした。日本海も、そして、来月チャレンジする中国地方最高峰の大山もみえたのだそうです。

山って楽しい、次はもっと大きいのに上りたい!9月の大山が自分達のものになってきました。来年は富士山にのぼりたいとか・・・。危険も不安もあるけれど、その先に何があるのか見てみたいという素直な好奇心と、やってみることの楽しさ。そして、メンバー同士が互いに認知し始めた2泊3日のキャンプになりました。はたして次回9月がどんな山登りになるのか、見守る大人も楽しみです!



支援団体活動レポート