2007年度トム・ソーヤースクール企画コンテスト支援50団体の企画より、
その活動や実施のレポートを順次掲載していきます。


  活動レポート    

NO学校・団体名都道府県企画の概要
23 名古屋大学博物館 愛知県 「地球教室 -河原の石で作る石包丁-」
石包丁を作る、をテーマにした自然体験活動。木曽川の河原で、「石包丁にむいている」石ころを採取し、石包丁をつくり、実際に肉を切るなどの体験学習を行う。また、火おこしやカレーラーメン作りなどを、石包丁の利用を通して、自然を体験する企画。

「地球教室 -河原の石で作る石包丁-」 河原の石で石包丁をつくろう [10/20,21]

 日  時:平成19年10月20日(土)、10月21日(日) 各日9:00~15:30
 場  所:1日目・名古屋大学博物館
       2日目・岐阜県各務原市鵜沼の木曽川右岸および愛知県犬山市桃太郎公園栗栖園地
 参加者:小中学生と保護者等 計24名

岩石鑑定クイズを前に
石の種類について学習


10月20・21日両日、見事な秋晴れの中で
地球教室「河原の石で石包丁をつくろう」を開催しました。
(対象:小学3年生~中学3年生とその保護者)
このイベントには60名の応募があり、
抽選によって30名の参加者を決定しました。
(実際にはキャンセルが出て24名が参加)

このイベントは
(1)石の種類と性質について学習をした後
(2)河原に落ちている種々の石ころから
   「石包丁づくりに一番向いている石ころ」を自分で探し出し
(3)石包丁を作り、完成品の切れ味を実際に試してみる
という3点セット(机上学習→実体験→考察)からなります。
またここでは、子供たちだけではなく親御さんにもぜひ自然への興味を持ってもらいたいとの思いより
「親子参加」の形態をとりました。
このイベントで作る「石包丁」は、いわゆる考古学上の石包丁ではなく
石を使って作った包丁という意味です。
硬い石を割って作る「打製石器」もありますが
ここでは石を鉄板と研磨剤を使って削り包丁の形に加工する「磨製石器」タイプです。

初日は名古屋大学博物館に集合し、2時間ほどの「石の種類」に関する学習を行いました。
ここではまず、事前に用意した鵜沼の石ころから各自好きな石ころを手に取ってもらい
オリジナルな名前付けをしてもらいました。
そのオリジナルな名前の名付け理由を答えてもらいながら、基本的な岩石の名前について学びました。
そして、「硬い石と柔らかい石」「均質な石と不均質な石」「粒の粗い石と細かい石」などについての
特徴と見分け方を学習し
2日目の“石ころ採集”の予行演習をかねて岩石鑑定クイズを行いました。
この岩石鑑定クイズはグループ別の対抗戦にしたせいもあって、大変な盛り上がりとなりました。


岩石鑑定クイズで話し合い

河原で石ころさがし

石包丁づくりの様子

2日目は名古屋大学博物館に集合した後、バスで岐阜県各務原市鵜沼の木曽川河原へ行き
前日の学習をもとに「石包丁作りに適した石ころ」を参加者自身に探してもらいました。
鵜沼より上流の木曽沿いには砂岩や泥岩、チャート、花崗岩類、流紋岩、安山岩、玄武岩など
様々な地層・岩石が分布し、それを反映して鵜沼の河原には
種々雑多で様々な形や大きさの石ころが転がっています。
その中から「もっとも石包丁作りに適した石ころ」を探し出してもらうわけですから
前日に予行演習を行っているとはいえ並大抵のものではありません。
参加者のセンスと総合力が試されるわけであり、皆、大いに頭を悩ませていました。

さらに意地悪なことに
実は“もっとも石包丁作りに適した石ころ”は、前日に学習した岩石の性質だけでは決まらないのです。
石を削って石包丁を作るのに、単に「柔らかい石」を見つければいいというものではありません。
また、刃こぼれしないためには「均質な石」の方が優れていますが、それだけでは石包丁は作れません。
「柔らかくて」「均質な」、直径30cmの球形の石ころは、はたして石包丁作りに向いているといえるでしょうか?
実は「平べったくて、はじめから“包丁のような形”をしている石」を見つけることが一番のミソなのです。
この実に単純なことが結構重要で、その上で「柔らかくて」「均質な」ものを選別すればいいのです。
こういう能力こそが、まさに応用力というものではないでしょうか。
鵜沼の河原では至るところで、親子であれこれと議論しながら石を拾い集める姿が見られ
子供の方が飲み込みが早く頭を掻く親の姿もみられました。
このような知的ゲームによって、普段はできないような“たわいのない科学的会話”を親子で楽しんでいたようです。

その後、自分たちで拾った石ころを使って石包丁を作ってもらいました。
大部分の人は30分くらいで石包丁を作ることができましたが
中にはなかなか石が削れない子や、
どんなに仕上げ磨きをしても指でつついただけで刃こぼれがしてしまう子も見受けられました。
そのような参加者は、他の子たちが次々にきれいに石包丁を仕上げていくのを尻目に
「あれ?あれ?そんな・・・」と焦ったのではないかと思います。
そんな時には、スタッフが「こういう石を使ってごらん」などと、ちょっとした知恵を授けてやります。
すると、あれよあれよという間に今までの苦労が嘘のように簡単に石包丁ができてしまい
作り直しをした子供たちは「うぉぉ、すげえ!」と(言った類のことを)必ず叫んでいました。
その前に苦労しているだけに それは強烈なインパクトとして焼き付き、失敗の原因を自ずと考えます。
まさに「失敗は成功の母」です。
また石包丁づくりでは子供もさることながら、むしろ親の方が熱中してしまうこともあり
「親にも自然への興味を持ってもらう」もくろみは的中したと言えるでしょう。

さて道具を作ったら、人間誰しもそれを使ってみたくなります。
時間はちょうどお昼少し前、目の前のエモノは“包丁”とくれば
それで「お昼ご飯を作ろう!」となるのは自然の流れでしょう。
野外での食事といえば定番はなんと言ってもカレー。
しかし、ご飯を炊こうにも野外には電気がありませんし
飯盒炊飯は手間がかかる・・・ということで、今回は「チキンカレーラーメン」を作ることにしました。
材料とレシピは次の通りです。

材料:日清チキンラーメン、カレールー、鶏肉、野菜
    (もやし,キャベツ,にんじん,タケノコ,きくらげ,その他“野菜ラーメン”具材として適当なものならなんでも)
※このレシピはスタッフによる事前準備でのもので、当日は豚肉や茄子・白菜も使いました。
作り方:
1.きくらげを水で戻します。
2.石包丁で鶏肉と野菜を切ります。
3.鍋にお湯を沸かし、鶏肉とにんじんを入れます。
4.にんじんに火が通ったら、タケノコやきくらげなどを入れ、その後カレールーを入れます。
  ラーメンを入れると水分を吸ってかなり濃くなりますので
  この時点では「水分がちょっと多いかな?」と思うくらいで。
5.カレールーが溶けきったら、キャベツやもやしとともに、日清チキンラーメンを入れます。
6.1分ほど煮たらできあがり!カレーの濃さは適宜お湯を足して調節してください。

「え~・・・そんなのおいしいの?」と思う人がいるかもしれませんが、ぜひお試しあれ!
チキンラーメンのスープが、カレーに見事なコクとパンチを加えて、まさに絶品。
少なくとも、作ってすぐのカレーにありがちな“物足りなさ感”はどこにもありません。


石包丁の切れ味にびっくり

石包丁で切った肉

チキンカレーラーメンの仕上げ

地球教室に話を戻しましょう。ここで「ご飯を作る」ということにどんな意味があるのでしょうか?
ここまで参加者が行ってきた作業は、「材料を自ら調達し」「試行錯誤をしながら道具を作り」
「それを実際に使ってみる(そして、うまくいかなかったらその原因を考える)」という
“ものづくり”の原体験そのものです。
最近 “ものづくり”という言葉が流行し、ものづくり体験と称した工作教室がいたる所で開催されていますが
それは本当に“ものづくり”を追体験したといえるのでしょうか?
人間は生きるために、あるいは快適な生活のためにモノをつくってきました。
その原点「なぜモノを作るのか」を伝えずして、“ものづくり”を教えることはできないと私たちは考えます。
このイベントでは「食べる」ために、モノを作ります。
また、モノの材料は必ず自然物であり
自然(体験)教育なくして“ものづくり”教育も成り立たないのではないでしょうか。
実際に、何の変哲もない・今さっきまで無視していた“石ころ”を
自分で選別し・自分の手をかけることによって、それが一つの「道具」として生まれ変わるのです。
このときの感動は参加者、特に子供たち表情に顕著に表れます。
本当に肉が切れた瞬間に参加者の表情がぱぁっと変わるのをみると、私たちスタッフも嬉しくなってしまいます。

また、いっしょに悪戦苦闘しながら肉を切る親子や上手に切るコツを子供に教える親
石器のできばえが悪く全く切れずに途方に暮れる親子など、様々なケースが見られましたが
「親子で体験を共有する」非常に良い機会となったことは間違いありません。
その後、みんなでおいしく「チキンカレーラーメン」をいただき
2時半頃には現場の後片付けをして、バスにて名古屋大学博物館に戻りました。
そして3時半頃には事故もなく無事に解散しました。

イベント終了後のアンケート調査では、楽しかったかどうかの質問で
有効回答23人のすべてが「とても楽しかった(17人)」か「楽しかった(6)」と答えています。
(「とても楽しかった」~「つまらなかった」の4段階からひとつ選択)
18名が「同内容でもまた参加したい」と回答しており(2名が「いいえ」、3名が無回答)
参加者の高い満足度がうかがえます。
さらに、具体的な実施内容について「楽しめたもの」と「勉強になったもの」を訊いた設問では
1日目の“岩石鑑定クイズ”と2日目の“石包丁づくり”が特に高い割合で「楽しめた」と答えられ
1日目の“岩石の説明”、2日目の“河原の観察”“石包丁づくり”が「勉強になった」と答えられています。
事前の学習に加えて、実際に石ころを手に取って石包丁をつくることが
楽しみながら学習できる理想的な結果になったと言えるでしょう。
また選択式で感想を答えてもらう質問では
「よく見ると石はおもしろい」「自然に関心を持つきっかけになった」が高い割合を占めていたほか
自由記載欄には
「石の種類がわかるようになり、うれしいです(保護者)」
「教科書だけでは実感がわからないので、このような現場や実物を手に取り目で見れる教室はどんどんやってほしい(保護者)」
「石包丁づくりが楽しかった(小6)」
「自分でつくった石包丁で肉を切れて楽しかった(小4)」
「作ったものが実際に使えたから楽しかった(小4)」
「子どもよりも自分の方がきっと楽しく学ぶことを体験できました(保護者)」
などといった感想が寄せられました。

 <実施後アンケート>

おいしい!

一日目
・岩石の説明・・・楽しかった-8(35%)、勉強になった-16(70%)
・岩石鑑定クイズ・・・楽しかった-16(70%) 勉強になった-15(65%)
・その他・・・楽しかった-0 勉強になった-0

二日目
・河原の観察・・・楽しかった-16(70%)、勉強になった-11(48%)
・石包丁づくり・・・楽しかった21(91%)、勉強になった-13(57%)
・調  理・・・楽しかった-16(70%)、勉強になった-4(17%)
・その他・・・楽しかった-1(食べること・4%)、勉強になった-0



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